大分移住手帖

楽しみは自分で作る。ご近所と共に、住む場所を面白がるフリーランス。

Tomomi Imai

取材者情報

お名前
たなかみのる
出身地・前住所
出身地:大分県大分市
前住所:大阪府
現住所
現住所:大分県大分市
年齢
36歳
家族構成
妻・長男
職業
グラフィックデザイナー
Webサイト
https://para-base.net/
Facebook
https://www.facebook.com/parabolasha

大分市内で生まれ育ったたなかさんは、祖父が駅前商店街で鞄屋をしていたこともあり、商店街界隈で育ちました。大学進学を機に滋賀県へ引越し、好きな立体造形を仕事にしていこうとした矢先、アレルギーで体質に合わないことがわかり断念。仕事を求めて行った大阪で、グラフィックデザイナーのフリーランスとして独立。デザインを中心に「お手伝い」を広くやったことで、どこでもできる仕事スタイルを確立しました。縁あって大分にUターンし、結婚。かつて育った町を今度は作る側になりつつあるたなかさんにお話をお聞きしました。

大分市内の商店街で生まれ育ち、滋賀で彫刻を学んだ後、独立。

滋賀・大阪時代にしていた仕事の一コマ。

大学進学を機に滋賀県へ引越し、彫刻を学びました。父親の仕事の関係で2年ほど東京にいた際に連れて行ってもらったことがきっかけで、水族館や動物園などにあるFRP*でできた岩などを造形する会社に入るのが夢でした。

「動物園の作りとか、ここにこの看板があって、この動物がいて、みたいなレイアウトを観たり考えたりするのが好きだったんです。大学の時にも青春18切符を使って、いろいろな動物園とか水族館を見に行って、ここはこんな特徴がある、とかメモしていましたね。」

そんなたなかさん、大学2年生の頃に夢を実現すべく樹脂工房にアルバイトとして入りましたが、なんと樹脂素材が体質に合わないことが判明。半日経つ頃にはアレルギーで顔が真っ赤になってしまい、この仕事は向いてないことがわかりました。

そこで、卒業後は大阪の電機機器会社へ就職したたなかさん。そこではソフトウェアやイラストレーターを使って取扱説明書を作ったりすることに。確かにデザインの仕事ではあったものの、立体をデザインしたかったたなかさんは、1年半ほどそこに勤務した後、グラフィックデザイナーのフリーランスとして独立しました。

「とはいえ、デザイン会社を出たわけでもなかったので、デザインだけでは食えるわけもなく、夜はスポーツクラブで受付のアルバイトをして、なんとか食いつなぎました。動画配信や、ミニコミ誌の編集などのお手伝いもしながら、2年くらい経った頃にようやくデザインだけでなんとか食べれるようになりました。」

持ち前の人の良さから、デザインの仕事からいつの間にかみかん売りにも。

デザインだけではなく、売るところまでお手伝いしている和歌山の虎の子みかんさん。

最初は大学の繋がりを通じて仕事を受けて行ったというたなかさん。お店のカードをデザインすると、そこからの紹介で新たな仕事につながったり「ウェブサイトも作れないですか?」と相談を受けたりと、いろんな方々が仕事をつないでいってくれたそうです。

「わからないところは本を見たりしながらなんとか作った時代もありました。ある日、母校の大学の事務員さんからゴルフ仲間の方を紹介していただき、そのお客さんが和歌山のみかん農園さんでした。パッケージを変えたいとお声がけをいただき、デザインのためにヒアリングに通って何度か話を聞いているうちに、本当は自分のところでも直販をしたいけど、家族でやっているので収穫が忙しくて、パソコン作業まで手が回らなくて手をつけていない、ということを教えてくれました。

畑から送ると完熟で送れるんですが、市場におろしてお店に届いてお客様に届くまで1〜2週間かかります。みかん屋さんとしては一番美味しい状態で届けたいという思いを聞いていると『たなかくん、みかん売らへんか?』と言われて(笑)

自信はないですが一緒にやってみましょう、とお手伝いのつもりで始めたECサイト*でのみかんの直販は少しずつリピーターもつき、もう9年になります。うちが広報、受注と伝票入力をやって、みかん農園さんには出荷のみお願いする形でやっています。この案件のおかげで、トータルで売り方やデザインをどうするかという点を評価していただいて、そんな仕事が増えていきました。今日もみかんの伝票入力してから来ました。(笑)」

どんな仕事も視野を広めに持つことがコツ。

普段作っているデザインはこんな感じ。

デザインの仕事が続いた秘訣を伺うと、頼まれた以上はなるべく視野を広めに持つことがコツだと答えてくれたたなかさん。同じ費用をかけるなら、ちゃんと売り上げが上がるかどうかを多角的に捉えて提案するようにしているそうです。要望をそのままただ作るのではなく、要望の周辺にあるキーワードをよく考えて、提案しているとのこと。

「話を聞いた結果こういうのがいいと思うんですけど、どうですか?という提案をなるべくするようにしています。これが長く続くポイントかなと最近は思います。」

祖父の体調不良をきっかけに、Uターンを考える。

暮らす環境を考えたら大学生活をすごした滋賀県は水辺も山も近く、のびのびしていて気に入っていたそうですが、仕事の関係もありしばらくは大阪を拠点にしていたたなかさん。20代後半頃に、拠点についてぼんやり考えていた頃、祖父が体調を崩したそうです。両親は転勤もあるので、いざという時に動ける人が必要だろうということで、大分で再度自分の拠点作りをすることにしたそうです。

「和歌山にあるみかん農園さんの案件も遠隔で行っていたのですが『大分に戻っても頼むでー』と言ってもらえたことで背中を押してもらえましたね。」

久々に帰ってきたらなくなっていた、思い出の場所に寂しさを覚え。

大分に久々に帰ってきたたなかさんは、年末年始に帰っていた時には感じなかった変化を色々感じたそう。

まず感じたのは、人が少なくなったり、空き店舗がポツポツとあること。かつて自分が遊んでいた場所や、映画館がなくなっており、寂しかったそうです。また、帰ってきた当初はまだ独り身だったたなかさん。地元の友達は家庭を持っている人が多く、子供の話やファミリーカーの話などが展開され、話が合わなかったそうです。

「子どもが生まれた今ならわかりますが、当時はまだ独り身だったので、美術展や街の活動、屋台があったら楽しいよね!という話をしても、話が合わなかったんですよね。みんな自分の家の中のほうが優先という感じでした。いまはその気持ちがよくわかります(笑)

帰ってきた当時はまだフリーランスという“謎の職業”だったので、親戚には『みのるくんはフリーターになったんやね』と言われたり(笑)帰ってきた当初は、都会と比べて足りない部分を見がちでしたが、7年経ってみると、『なくても良いもの』にも気付けてきて、長いスパンで物事を見れるようになったのは大きいかもしれません。」

また、仕事の面でも苦労があったそうです。地方での実績が無い人にいきなり仕事を頼まないことも多く、丁寧に今まで自分がやってきたことを話す必要があったそうです。

「逆の立場になれば、いきなり知らない人に頼むのはハードル高いですよね。県内の仕事は今は受けられるようになりましたが、それでも全体の5〜6割です。県外の仕事が継続していますね。地域と接点ができると広がっていきますが、その最初のとっかかりを作るまでに時間がかかりましたね。」

モヤモヤしていた時に出会ったフンドーキンマンションでの活動。

現在解体がすすむフンドーキンマンション。

せっかく帰ってきたものの、最初はそんなモヤモヤがあったというたなかさん。そんな矢先、「フンドーキンマンション」でのプロジェクトに参加した際に出会ったのが、新大分土地株式会社*社員の石橋さんでした。石橋さんは当時から会社員とは思えないほど様々な企画に顔を出し、視野の広い考え方を持つ方だったと言います。

左から3番目が石橋さん

フンドーキンマンションは、老朽化が進んだものの、魅力的な建築物で、リノベーションの可能性を探るリサーチが行われていました。有志が掃除や展覧会、一時的なシェアオフィスにしたりといろんな取り組みがなされていました。当時から開催されていた「リノベ塾」などに石橋さんと参加するようになって「自分が出会っていなかっただけで、大分にもマチと暮らしのことを考える人がこんなにいるんだ!」と感じたというたなかさん。大分暮らしに自信を取り戻したきっかけでした。

新大分土地株式会社で働く石橋さんの提案で、フンドーキンマンションに隣接する「wazawaza」で期間限定のコワーキングスペースを運営したり、駅前通りに面した空き店舗をイベントスペースにする取り組み「FLAT」を仲間と開催したたなかさん。「FLAT」では誰でも利用できる場所として、コーヒースタンドや展覧会、印刷ワークショップやゲーム大会など色々な実験が行われました。(現在、FLATを開催していた場所は美容室になっています)

「こんなことができたのも、新大分土地の社長さんが、空き店舗を使っていないのはもったいないし、街の中で空き店舗がいっぱいあるという状態が街にとってはあまり良くない。それよりは、やりたいことがある人に少しでも貸してあげれば動きが出る。その方がエリア全体の価値につながるんだ、という視野を持っている方だったおかげですね。」

wazawazaには個性豊かなテナントが勢揃い。

そうやって、町に住む方の姿勢に力をもらって「マチオモイ帖」という全国のクリエイターが参加する展覧会を「wazawaza」や「FLAT」で行ったことで、フリーランスデザイナーとして認知が広がり、府内五番街商店街の広報誌をはじめ、地域の仕事も受注するようになったそうです。

「自分が飽きないように何かやろうという人がほどほどいれば、無理なく楽しいことって続いていくのではと思います。僕自身、短期集中なことや、大規模なことは得意ではないので、コツコツと“コト”を作っていけたらと思っています。」

マチオモイ帖を開催した時の様子

大分市は、移住のファーストステップにオススメ。

wazawazaビル屋上にて。

大分市をコツコツと拠点化しているたなかさん。大分市の今の暮らしについてお聞きすると“ほどほど”な街だから過ごしやすく、大分県への移住を考えている方にはそのファーストステップとしてオススメしたいとのこと。

 

「スタバもあるし、ヨドバシカメラの荷物も大体1日で届くし、生活する上ですごく不便に思うことはないです。でも、いわゆる“都市の暮らし”に慣れていた方が、いきなり農村部などに移住するのはハードかもしれません。大分市の市街地は自転車や徒歩でも回れるので、偶発的な出会いもあります。僕が石橋さんと出会ったように、同じような思いを持つ人に出会える確率も高いと思います。地方は車が家族の人数分必要とも言われますが、僕の家は家族で1台の車をシェアして、十分暮らせています。まずは大分市で大分県の暮らしを知ってみて、そこから田舎や海など住みたい場所に移動するのも良いと思います。顔が見えつつ、距離が近すぎない、ちょうど良い距離感の街です。あとは、大分市も醤油は甘いです。(笑)」

今後はピクニックのような気軽なことがしたい

過去開催したこんなイベントを今後もしたいそうです。

少しずつ街を知り、自分らしい暮らしを作り上げているたなかさん。かつては動物園や水族館など具体的なものを作りたいという夢がありましたが、大分を拠点にし7年ほど経つ中で、本当にやりたかったのは枠組みの設計で、しかもそれを小規模に、楽しめる範囲でやりたかったのだと気づいたそうです。そんなたなかさんが今後やっていきたいのは「ピクニックのような気軽なこと」だと言います。

「自分のできる範囲のことをやって、やりたい人が集まって、そんな人たちが町を巡って楽しんでくれる。そんな状況に少しでも関われると楽しいんだと最近身に染みて感じます。小さい町だからこそ連鎖反応が起きるのが楽しくて。自分に子供ができたことも相まって、家族連れだと、日中・日帰りのイベントの方が参加しやすいんだなということもようやく実感してきました。(笑)町の楽しみ方や場所を使うノウハウを共有したり、柔らかい刺激が点在しているほうが好きだと気付けたし、そんなことをしていきたいですね。」

最後に

滋賀・大阪での暮らしを経てUターンしたたなかさん。グラフィックデザイナーという枠を超えて、「自分の暮らしは自分で楽しくする」という積極的な活動とは対照的に、終始柔らかく、優しい雰囲気で楽しそうに語ってくれました。その様子から、こちらもなんだか楽しい気分になってきて、一緒に活動をしている気分にも。大分を拠点に日本各地から頼られているたなかさんの、次なる企画がとても楽しみです。移住のファーストステップの地をお探しの方はぜひたなかさんやお仲間が企画するイベントなどにも足を運んでみると、素敵な出会いがあるかも。

 

*FRP
繊維強化プラスチック。エポキシ樹脂やフェノール樹脂などに、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維を複合して強度を向上させた強化プラスチック。

 

*ECサイト
ECサイトとは、ECサイトとはネットを使ったモノやサービスの販売サイトのこと。

FACILITIE

wazawazaビル

2009年に、数十年シャッターの閉まったままだったガレリア竹町商店街西口界隈の古いビルをリノベーションしたwazawaza。
季節の風が通り抜ける小さな路地、木漏れ日や緑の借景となる小さな森、星空を仰げる屋上テラス。アーケード商店街にありながら、緑や日差しや風を感じることができる心地の良い場所をつくりました。「wazawaza」にはこの場所にわざわざ通う「通い甲斐」を生み出し、この場所で頑張る人たちの「技」が光り「業」が冴える場所としてクリエイティブな集合体でありたいというおもいが込められています。(webより引用)

wazawazaビル

大分県大分市中央町3丁目5-16 (ガレリア竹町西口)

楽しみは自分で作る。ご近所と共に、住む場所を面白がるフリーランス。
WRITER 記事を書いた人

Tomomi Imai

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25歳でフリーランスとして独立し、多様な分野にてプロデュースやディレクター業を経験。モノコトヒトをつなぐひと。多様な伴走を得意とする。絶賛子育て中。ヨガ・サーフィン・音楽・映画・コーヒー・日曜大工が趣味。

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