取材者情報
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- すがおこども園
皆さんは「ホームスタート」という活動を知っていますか?
子育てや妊娠中の“ママ”に寄り添う助け合いをベースとしたイギリス発祥の子育て支援活動です。現在では全国に広がっているこのサポートですが、「子育て満足度日本一」を目指す大分県では、県がこの活動をバックアップしており、移住後、近くに頼れる人がいなくても、安心して子育てできる環境があります。
今回はこの取組を日本に取り入れ、全国に広げたおおいたホームスタート推進連絡会議会長であり、豊後大野市にある「すがおこども園」園長の土谷さんにお話を伺いました。
友人のように寄り添い支援を届けてくれる。
ホームスタートとは、未就学児がいる家庭に、研修を受けた地域の子育て経験者が訪問する「家庭訪問型子育て支援ボランティア」です。週に一回、2時間程度、概ね2~3ケ月かけて訪問し、お話を聞いたり、育児を一緒にしたりと、友人のように寄り添ってくれます。結婚を機に知らない町で子育てをスタートさせる方は案外多く、子どもが小さいと外に出づらいこともあり、なかなか交友関係が築けずに孤独を感じるという話をよく聞きます。そんな方にこそ利用してもらいたい子育て支援活動です。
「イギリスではこの取組が40年前に始まり、地域の子育て経験者が子育て世帯を訪問支援する仕組みができています。
日本では、昔は地域ぐるみで子育てを支え合える環境がありましたが、今では地域のつながりも薄くなり、親が一人で子育てすることが多くなってきました。また、核家族化や少子化で、子どもの頃に乳幼児に触れる機会がないまま自身の子育てに直面する人も急増しています。このような時代背景の中で様々な子育て支援施策が打ち出されていますが、残念ながら、『支援センターなどに出かけづらい方』や『専門機関の支援を受ける程には問題が重篤でない方』には届いていません。ホームスタートは、こうした支援のすき間で孤立しがちな親子のもとへ支援を届ける制度です。」
誰でも手軽に手助けを得られる社会を目指して。
現在、九州には25のホームスタート活動団体があり、うち12団体は大分県にあります。当時から様々な子育て支援制度はありましたが “見えないSOS”をどう応援するかが課題でした。「心の声を聞く人がいることで、孤立化などに少しでもブレーキがかけられるのでは?」と考え平成24年から県が団体の立ち上げを支援したそうです。
「支援というよりも、”自分の自信を取り戻して自ら動き出せるまでは一緒にいるよ”というスタンスです。私たちは専門家ではないですが、一緒に悩んで一緒に考えていきます。」
「ホームスタートの取り組みは、子育て支援施設などが自主的に始めることが多いです。実際の地域と現場を調整できる立場が大切なので、地域に繋がりや情報を持っているそういう団体では取り組みやすかったですね。」
引っ張り上げるのではなく、入っていく。
土谷さんが大分でホームスタートを始めようと思ったのは、普段活動している中で支援が行き届いていないママに出会ったことがきっかけだったそうです。自治体が企画及び運営する様々な支援がありますが、「親自身がそこへ行かなければならない」ものが多く、手遅れになってしまう場合もあると土谷さんは語ります。
「既存の支援では行き届いていない親がいることに気づいたんです。そういう方たちは、ずっと家庭にいて、保育園や幼稚園への申請もしないし、子育てクラブや支援センターにも来ないで、1人で辛いまま頑張ろうとしている方が多いです。その存在を知ったときに『何とかしたい』と感じたんです。あるママは、一時期支援センターに来ていたんですけど、急に来なくなったので、電話してお家に伺ってみたら、家で1人塞ぎ込んでいました。何度か通ううちに、その方は少しずつまたセンターに来てくれるようになりましたが、これは特別な事例ではありません。
ママが明るいと家庭は円満かもしれませんが、その分たくさん我慢していることがあるんです。
以前は、私たちが上から目線で教えてあげる(引っ張り上げる)という考え方しかなかったのですが、それでは子育て家庭へなかなか受け入れてもらえない。
専門家による訪問支援も各自治体では行われていますが、優先度の高い、問題が深刻化した家庭への支援がどうしても優先されてしまう。問題が表に出ていない家庭への支援がしづらいのが現状です。
しかし、問題が起こってしまっては手遅れですよね。予防でしなくてはならない。そこで見つけたのが『ホームスタート』でした。」
何か不安があったら、ホームスタートに連絡して欲しい。
そんな「ホームスタート」ですが、どんな場面で利用したらいいのかとお聞きしたところ、子育てや生活、その他何でも不安に思った時は、まずは連絡して欲しいそうです。連絡をすると「オーガナイザー(ホームスタートの調整役)」が対応してくれ、話の中でその方にあった「ビジター(ホームスタートのボランティアとして訪問する方)」を派遣します。また、場合によってはホームスタートではなく専門機関に繋ぐこともあります。
まずは、親と一緒に話し合える場が増えると良いと考えている土谷さん。利用者は乳児・幼児の親だけでなく、出産を控えた妊婦さんなど幅広いそうです。場合によっては保健師さんと交代で伺うなど、運用の仕方はかなり柔軟で、ある時は出産前からホームスタートを利用することで、産後うつの防止に繋がったこともあるそうです。
「産後の保健師さんによる定期的訪問ではなかなか話しづらいこともあります。そんな時にこそホームスタートをうまく活用していただければと。行政の負担の軽減になりますし、保健師さんは虐待などの専門的な相談に集中できるので、リスク分散にもなります。」
利用は電話1本でOK。
大分での利用者数は約550家庭ほど。各々の親が望むタイプのビジターをマッチングさせます。ビジターは女性だけでなく、男性もいるそうで、同じく不安を抱えているパパへの支援も今後増やしていきたいそうです。
「訪問する人は誰でも良いわけではなく、マッチングが大事なんです。そこがうまくいかないと、本当の支援にならず、迷惑をかけることもあります。今後は広報の仕方を変えてもっとビジターさんを増やしたいですね。」
また、利用者は30代後半が多いのが特徴。同年代の交友関係を築きづらく、誰にも言えずに悩みの行き場がない方が多いそうです。
ビジターになるには。
ビジターになるためには、申し込み後に養成講座を受講します。通常4日間で、合計8回の研修を受け、5年後に再研修があるそうで、すがおこども園をはじめとする大分県内各地の実施場所で行われ、養成講座修了後に初めて活動できます。
「ビジターの年齢層は20代から80代と幅広いです。利用希望者からの電話を受け、まずはオーガナイザーが家庭訪問し、そこでの状況を見て、その後の訪問計画を決めます。その計画に合うビジターが最初訪問し、問題なければ週に1回2時間程度の訪問を4回行います。その後再度オーガナイザーが伺い、客観的な評価をした上で次回以降の計画が決まります。ビジターが訪問している間、オーガナイザーのバックアップがあるので、安心です。」
都心部よりも地方の方が訪問回数が多い。
東京などの都心部でもホームスタートは発展していますが、都心部の平均訪問数が4回に対し、大分は10回程度。1、2回訪問すればすぐ解決するようなことではないので、回数が少ない場合、利用者との信頼関係ができにくいそうです。
「利用後にいろいろなことを自分でやっていけるという自信を持てたら、サポート終了ということが多いですね。ビジターがいることがストレスになったら意味ないですからね。」
残りの5%のために。
95%の家庭は子育て支援に満足しているから、残りの5%くらいどうでも良いというようなことはできないと語る土谷さん。
「90%が満足しているからOKではなく、100%にしないと意味がないと思うんです。安心安全を守ることに繋がるようにしたいんです。大分は子育て支援が非常に豊富で、『子育てしやすい県だな』とよく言われます。ホームスタートは、優しさがないと根付かないけど、それが根付いている大分は優しいところだなといつも思います。『大分は優しくって、泣きたい時に肩を貸してくれるところ』なんですよね。」
そう語ってくれた土谷さん。移住において、子育て環境を重視する方は多いです。教育や不登校支援など子どもに関することだけでなく、子どもを育てるママやパパのこともサポートするホームスタート。不安な自分に家族でもなく友人のように寄り添ってくれることで、縁もゆかりもない土地だったとしても、安心して暮らせる環境が、大分にはあります。気になった方はぜひ気軽に電話してみてくださいね。