取材者情報
- お名前
- 豊後大野市市役所 まちづくり推進課:神志那 庸一さん
地域おこし協力隊:日淺 紗矢香さん
移住を先探す上で大切な要素の一つが「住まい」です。
自給自足が叶う畑や田んぼ付きの古民家や、山や海が目の前にあり自然を感じられる住居など、理想の暮らしにマッチした住まいを見つけることができるかどうかは、その後の移住生活に大きな影響を与えます。
移住先での住まいの探し方としては、民間の不動産会社から探すという選択肢もありますが、まずは各自治体が運営をしている「空き家バンク」を見てみるというのもオススメです。
自治体が主体となって運営する空き家バンクは、空き家を貸したい人と借りたい人とを結び、地域に増えゆく空き家の利活用や地域活性化を目的としたものです。
そんな空き家バンクを使って家を探す際のポイントや注意点、空き家を契約するまでの流れを知るため、豊後大野市で空き家バンクを運営している「豊後大野市役所 まちづくり推進課」を訪ねました。
空き家バンクの実情とは?
大分県の南西部に位置し、大分市に隣接する豊後大野市。県都から程近い場所にありながら日本ジオパークやユネスコ・エコパークに認定された、自然豊かな町です。
「大分の野菜畑」とも呼ばれるほど農業が盛んで、就農希望の方にも人気のエリアとなっています。
その豊後大野市で移住・定住の支援をしているのが「豊後大野市役所 まちづくり推進課」の神志那 庸一(こうじな よういち)さんと、地域おこし協力隊の日淺 紗矢香(ひあさ さやか)さん。
今回はお二人に豊後大野市の空き家バンクについて伺いました。
まず気になるのが、空き家バンクにはどんな物件があるのかということ。全国的にも空き家は年々増えていると聞きますが、豊後大野市の空き家バンクの状況について教えていただきました。
神志那:諸事情により管理ができなくなった住居や、所有者が相続で受け継いだものの県外に出ていて空き家になっている物件などを登録しています。頻繁に市内外から物件を登録したいという問い合わせをいただいており、物件は少しずつ増えています。ただ、劣化の状況が激しい物件や、相続の登記が完了していない物件などすぐに貸すことのできない物件も少なくありません。
行政が運営しているという信頼から問い合わせは増えているそうですが、物件によって環境、条件が異なるため、日々空き家バンクのページをチェックしたりアンテナを張っておくことが重要なようです。
日淺:住んだことのない町の物件購入は、なかなかハードルが高いですよね。まずは、その地域の環境や行事、区費などを把握した上で、賃貸か売買かを選択できるとスムーズなマッチングにつながると思います。窓口で物件や町の情報についての相談も受け付けていますので、どんな些細なことでもお問い合わせください。
空き家バンク利用の流れ
早速空き家バンクを利用したいとなった場合、どういう流れで進むのか?豊後大野市のケースと、空き家バンクを利用する際にチェックしておきたいポイントも教えていただきました。
1.ホームページなどにより空き家情報を確認
豊後大野市では「豊後大野市移住定住ポータルサイト」や不動産情報サイト「LIFULL HOME’s」、「at home」にて賃貸・売買の空き家情報を掲載しています。どんな物件があるのか、価格相場はいくらくらいなのかを確認することができます。
2.利用者登録
多くの自治体が採用している利用者登録制度。どのような人がどのような物件を探しているのかニーズを調査・把握するために登録申請書類の提出が必要となっています。
豊後大野市でも内見をしたいという希望があっても、利用者登録がなければ案内はできません。
3.物件見学
登録後、次に気になるのが物件見学です。
豊後大野市では、物件見学は市内の不動産会社や工務店などで構成された「豊後大野市宅地建物流通センター」が担当しています。
「豊後大野市宅地建物流通センター」の専門家が物件の登録段階で調査に行き、雨漏りがないか、危険区域の住居でないかなどをチェック。その調査で問題がなければ空き家バンクへの登録ができるようになっています。
しっかりと物件を精査していること、また専門家とともに物件の見学にいくことができるため、建物の劣化状況やリフォームにかかるおおよその費用などを聞くことができることが豊後大野市の空き家バンクの特徴です。
<ポイント>
どんなに家が理想的でも、地域の環境が自分たちと合わないということもしばしば。草刈りや公民館の管理など地域内でしなければいけない役割がどのくらいあるのか、お祭りなどの地区行事にはどれだけ参加する必要があるのか、水道のインフラや区費など、細かな部分もしっかり確認しておきましょう。
また、ハザードマップなども見ておくことが重要です。
4.契約交渉
費用面や条件面に問題がなければ契約に進みます。ここでも担当するのは「豊後大野市宅地建物流通センター」。他の市町村では、個人間で契約を行うこともありますが、豊後大野市では宅地建物取引業者が契約の仲介に必ず入るようになっています。それにより契約時や、契約後のトラブルを回避しているそうです。
契約が無事終わればあとは入居だけ。その前に、使える補助金がないかも確認しておきましょう!
空き家バンクで使える補助金
物件の改修・購入などに関する補助金は各市町村によって様々。
豊後大野市ではどのような補助金があるのか、2021年6月現在、空き家バンクを利用した移住者が対象の補助金について教えていただきました。
※詳細の条件は窓口にて確認ください。
<空き家を購入するなら>
・持家取得助成金
内容:Uターン、Iターンの方が中古物件を購入する際の助成金。中古住宅の建物価格が500万円以上を対象
金額:最大50万円
<空き家を改修するなら>
・空き家改修補助金
内容:Uターン、Iターン者が空き家バンクの登録物件に入居し、空き家を改修する際に使え る補助金。改修費用50万円以上が対象。補助率1/2
金額:購入の場合 最大100万円、賃貸の場合 最大50万円
・Uターン促進多世代住宅改修事業補助
内容:Uターン者が豊後大野市にある実家などにUターンし、住居を改修する際の補助制 度。三世代以上同居の場合限定。補助率2/3
金額:上限150万円
・空き家家財道具等処分補助
内容:空き家バンク登録物件が賃貸借契約、または売買契約が成立したときに空き家の家財 道具を処分する経費の補助。補助率1/2
金額:上限10万円
<空き家を店舗として活用するなら>
・移住者店舗等開設支援事業費補助金
内容:県外からの移住者が市内で店舗などの開設をするために必要な費用を補助。空き家バ ンク登録物件または空き店舗などの購入費、改修費、設備費、備品購入費、運搬費な どが対象。補助率1/2
金額:上限100万円
補助金については、年度によって内容が異なることもあるので、都度確認が必要です。
また利用者は10年以上定住するものといった細かな規定もあるので、まずは窓口へ問い合わせをしてみてください。
まずは窓口で相談を!
豊後大野市における空き家の購入・賃貸までの流れや補助金制度を見てきましたが、自治体によって移住条件や支援内容が異なることもありますので、まずは窓口へ行き、相談してみるのがオススメです。
神志那:「田舎暮らしをしたい」という希望に寄り添ったサポートをしたいと思っています。時間が許すかぎり、窓口だけで終わらず市内のご案内をしたり、先輩移住者と繋げたり、昨年は移住者交流会なども開きました。メールなどでちょっとした天候のことや、地域のことなどの相談にもお答えしますので、気軽に相談していただきたいです。
日淺:私は夫婦で小さな民泊を運営したいと思い、ご縁のあった豊後大野市へ移住し、独立する前の一歩として地域おこし協力隊をさせていただいています。退任後は、週末に1組限定の民泊を運営予定です。移住希望のお客さんには、田舎暮らしを体験してもらいつつ、空き家バンクの案内や先輩移住者の紹介など、微力ながらも移住のお手伝いをしたいと思っています。
日淺ご夫婦の空き家探し
地域おこし協力隊として、空き家バンクをはじめ移住者の支援を行っている日淺さんですが、ご自身も空き家を購入されています。
日淺:夫とともに豊後大野市に移住することを決め、夫が一足先に地域おこし協力隊としてこちらに移住しました。その際に、市役所や不動産屋を訪れ何カ所か物件を紹介してもらい、一軒家の空き家に住むことになったんです。実際住んでみたところ、とても景色のいい物件でしたが、住むにつれて家の経年劣化が気になり始め、次に住む場所を探し始めました。
空き家バンクと不動産屋からの紹介で見つけた家ですが、地域の方とのつながりから新たな空き家に出会ったそうです。
日淺:隣に住んでいた女性がとても良くしてくれて、その女性の知り合いが住んでいた家を紹介してくれました。高齢のおばあちゃんが1人で住んでいたのですが、施設に入り長いこと空き家でしたが、思い入れのある家なので誰か管理してくれる人がいないか探していたそうです。お話を伺い最初購入も検討したのですが、「半年ほど住んで困ったことがないか確認してから購入してはどうか?」という提案をしていただき、最初は賃貸でお借りし現在は購入させていただきました。購入するとなった際は、泣いて喜んでくれたことが私たちもありがたく嬉しい気持ちになりました。
ご縁から巡り合った現在のお家。元持ち主の方の想いを引き継ぎ、今は日淺ご夫婦が大切に住まわれています。現在お家はリフォーム中ですが、完成後に元持ち主の女性を招待したいそうです。
空き家を自分達でリノベーション計画
思い入れのある空き家を託された日淺ご夫婦ですが、お二人には移住前より夢がありました。
日淺:社会人一年目の時に、自然豊かなところで小さな宿をやりたいと夫と話したのが始まりです。現在は空き家だった古民家を自分達でリノベーションして、宿にしたいと考えています。地域おこし協力隊として活動していたため、起業支援補助金をいただくことができ、そのお金と自分達の貯金を合わせてリノベーションを行っています。お金をかけないためにも専門家のアドバイスをもらいながら、できる所は全て自分達の手で作業するために、仕事が終わった後やお休みの日にこつこつ作業を行いました。
訪れた際にはリノベーションが進んでおりとても居心地のいい空間が出来上がっていました。リノベーションの内容を紹介します。
■屋根
雨漏りしている箇所もあり、部分的に下地から張替え瓦の葺き替えも行いました。屋根の修繕中に、大雨が降り家の中に幅2メートルもの滝が現れたなんて出来事も。
■LDK
壁紙を剥いでみたところカビがいたるところに。キッチンからつながる3部屋の壁と天井を取り壊し、広い20畳のLDKへ。天井を取り壊し出てきた梁を一つ一つ掃除し塗り直し、吹き抜けとなった天井には断熱材を入れ下地を張り、天井から壁まで全て漆喰を手作業で塗っていきました。
キッチンはプロに依頼してアイランドキッチンを設置し、背面は配色を変えおしゃれなキッチンにしました。
■お風呂
キッチン同様水回りはプロにお願いして全て一新しています。内装は地元でも有名な左官のプロにお願いしお風呂はヒノキ風呂へ。お風呂場に入ったとたんヒノキのいい香りが漂います。お風呂の扉はDIYで中のガラスを残し縁を木へと変更し、和風モダンなお風呂にしました。
■和室
床下地を全て解体し、畳も新しいモノへ入れ替え。床の間には竹炭を練り込んだ黒漆喰に、青の顔料を足して塗り、日本の伝統色である「青鈍」を再現。また土壁の上にも竹炭を混ぜた黒漆喰をつくり、味がでるように濃度を変えて塗り、仕上げています。
和室から見える景色は絶景で、渋くどこか落ち着いた空間でありながらも古めかしくなく、畳に寝転んで風に当たりながら景色をずっと眺めていたくなるような場所です。
■洋室
床板は無垢材に壁は漆喰。窓の建具ももともとの木目調の枠に緑と茶色の色を使用し色村をつけてアンティーク調に塗っています。ランプもアンティークのものを設置し、木のぬくもりがあふれる洋風の寝室にしました。
リフォーム中に水道管のトラブルにより、床下が水浸しになるというアクシデントもあったそうで、床下の水抜きから消毒、竹炭を敷き詰めるなど根気のいる作業もこなし、屋根裏の空間や玄関などリフォームも残すところあと少しです。
空き家を購入する前にチェックすべき2つのこと
実際にお二人が空き家を購入する前に念入りにチェックしたことが2つあるそうです。
日淺:1つ目は床下です。直接見て確認した方が良いです。木造の空き家で一番怖いのが白アリで、基礎が白アリの被害にあっていた場合、駆除やその対策に大変お金がかかります。2つ目は屋根裏です。梁の状態や光が漏れていないかなどの確認が必要です。雨漏りの心配がないか見ておいたほうが良いと思います。
家の基礎となる大切な床下は必ず確認しておきましょう。プロに任せることもできますが、日淺ご夫婦のように自分で改修を行う方は、一度床下を覗いて腐食していないかカビ臭くないかなどの問題がないか確認しておくと安心です。
まとめ
移住者でありながら、移住・定住の支援を行っている日淺さんに空き家バンクを使う上での注意点や、移住を成功させるための秘訣を伺いました。
日淺:たくさんの移住者を見ていると、自分自身のライフワークの軸をしっかり持っている方が生活を楽しまれているように感じます。「移住したら人生が変わるだろう」と思うより、「こういう生き方をしたい」という軸を持っていた方が豊かな生活になるのかもしれません。前居住地との暮らしのギャップで悩まれることもあると思いますが、そんな時は、先輩移住者や話しやすい地域の方に相談しながら、少しずつ環境や暮らしに慣れていきましょう。良い空き家とのマッチングにつながる可能性もありますよ。
空き家バンクをうまく利用するコツ、それは移住後の計画をしっかりと立てること。
そしてそれを役場や先輩移住者、地域の人に相談することが良い家と巡り会える秘訣のようです。