大分移住手帖

奥日田の自然に魅了され「猟師」に。山と獣に向き合う暮らし。

Yufuko Yufuko

2017年7月に日田市地域おこし協力隊として福岡県より移住、赴任した草野さん夫婦。福岡での生活は充実していましたが、仕事に疲れ果てライフシフト*¹を求めていたそう。当時付き合っていた亜李砂さんと一緒に移住し結婚。移住後は奥日田の大自然に魅了され、猟師を生業としている貴弘さん。猟師を中心に据えた今の生活についてお話しを伺いました。

ご主人:草野 貴弘さん(以下、貴弘さん)
奥様:草野 亜李砂さん(以下、亜李砂さん)

草野さん夫婦が住む、大山貫見地区の一軒家

 

奥日田を知ったのは移住希望者向けツアー。

貴弘さんの以前の仕事は、雑誌の発行、ポータルサイトの運営などをする企画会社。亜李砂さんはブライダル業界で働いており、休みは年に3回合うかどうかという生活だったそうです。

「2人とも朝から晩まで働いてくたびれ果てていて。もともと好きな仕事でしたけど、この生活では持たないなと感じていました。」

奥日田を知ったきっかけは、貴弘さんのお母様から紹介された日田市主催の移住希望者向けツアーだったそう。気軽な気持ちで友人と参加した貴弘さん、福岡から近いのに豊かな自然が感じられると知り、「すごくいいな」と感じたそうです。市役所がツアーを運営していたこともあり、地域おこし協力隊などの制度を併用すれば移住は実現可能なものだと知りました。

「お互いにライフシフトを求めていた時期だったのもあり、これは大きな変化を起こせるチャンスだと思いました。福岡市で別の仕事に就いたとしても現状は変わらないと思っていたので、思い切って移住しました。こっちに来たタイミングで籍も入れたんです。」

移住した地区から見える景色

日田市の協力隊として移住し、奥日田の観光に携わる。

「地方創生がやりたいと協力隊を志願する人もいますが、私たちは移住の手段として協力隊を選んだので当初は何をやったらいいのか、どんな世界なのかも見当がつきませんでした。」

「当時募集されていた協力隊の枠はいくつかあったのですが、今までの職歴もあり、夫婦どちらも観光課の協力隊になりました。私はもともと上津江の道の駅担当だったのですが、その後奥日田全体のブランディングをしているDMO*¹の配属になり、妻は日田市内の産業観光の担当になりました。当初は夫婦で通勤場所が異なっていたので、便利のよい大山地区の空き家を借りることにしました。」

 

ご自宅のウッドデッキ

友人の誘いがきっかけで始めた狩猟生活。

草野さんご夫婦がお住まいの大山地区は松原ダムが近くにあり、奥日田と呼ばれる中津江地区や上津江地区にもアクセスしやすい環境にあります。自然豊かな奥日田をフィールドにしての暮らしが始まり、1年目にひとつの転機がやってきます。現在「猟師」と名乗り狩猟を生業にしている貴弘さんですが、そのきっかけは協力隊の仲間の誘いでした。

「当時上津江に住んでいた協力隊の友人が『今度、狩猟免許を取ろう』と誘ってくれたんです。その時は『いつかは取ろう』くらいの感じでいたのですが時間もあったし『まぁいいか』と思って免許を取りに行きました。」

そのままスムーズに免許が取れた貴弘さん。せっかく免許を取ったのだから実践してみようと山に入りだし、そのまま狩猟の世界にハマっていきました。奥日田の猟師さんは箱罠*²で獲物を捕る方が多いそうですが、草野さんはくくり罠*³という手法で獲物を捕っていったそうです。

「もともと狩猟の世界は師匠に弟子入りして学ぶ世界なんでしょうけど、自分の場合は野放しでしたから手あたり次第、やるしかないと探求していきました。大分で師匠のように慕える猟師さんとの出会いがあり、その方の採取したお肉に感動したり、自分でも狩猟関係のお店などに通ったりして全国のベテラン猟師さんから集まるノウハウを色々と学んでいきました。」

 

協力隊のイベントで自己紹介する貴弘さん

各地に足を運び学んだ知恵と技術を奥日田の大自然で実践しようと、協力隊の仕事と並行していた狩猟ですが、徐々に自身のアイデンティティになっていきました。地域の方に自己紹介をするときも「自分は猟師です」と名乗るようになったと言います。2020年には奥日田ローカルツーリズム主催で「奥日田狩猟CAMP」を開催し、企画運営を担当しました。

「奥日田狩猟CAMP」では奥日田の自然をフィールドに、実際に山に入り罠をしかけたり、捕れた鹿肉や猪肉をBBQで楽しみながら奥日田の魅力を余すことなく味わい尽くす体験イベントを準備した貴弘さん。狩猟の過程を体験してもらうために、参加者でしかけた罠の近くにカメラを設置し、遠隔オンラインで観察できる工夫もしたそうです。イベントは満員御礼となり、福岡など他県からの参加者もいました。狩猟に興味を持つ方の中には女性も多く、新たな発見もあったそうです。

奥日田狩猟CAMPのポスター

ただ静かに山に入って猟ができることが幸せ。

山に入って罠をしかける様子

今やすっかり猟師として認知されてきた貴弘さん。全国的な狩猟の雑誌である『狩猟生活』(山と渓谷社出版)に記事が掲載されたり、地域でも害獣駆除に関する相談が持ちかけられるようになりました。そんな生活のなかでも「ただ、山に入って静かに猟ができれば幸せ」と語ります。

「狩猟をやってて、アドレナリンが一番出るのは獲物が捕れたときなんですけど、全ての過程が楽しいんです。冬山のすんとした静けさのなかに1人で入っていって、自分の足音しか聞こえないなかで獣の気配を探していく。その時間が好きです。

獣を探す上で植生の観察も欠かせません。『狩猟』と言っても、どこでもいいってわけでもなくて。山に入って一番気持ちいいのが上津江の山。獲物を捕るところがクローズアップされがちですが、自分はプロセス全体で気持ちのいい猟がしたいと考えていますね。」

奥日田の野生の鹿

捌くのも美しくすることで敬意を払う

 

「もともと生産業に憧れてたところはあります。手作りするのも好きで器用な方なんですけど、なかなかのめり込めるものがなくて。自分にとって『狩猟』は‟これで生活していきたい”、‟探求していきたい”と思えるものでした。追いかけていったところで自分の選択があって、それが積み重なって“猟師としての美学”ができています。

また自分の明日の美学は違うものになっているかもしれないけれど、日本における狩猟を文化として理解し伝えたい、そして引き継ぎたい。自分の知識が役に立つならいくらでも教えたいと思います。BBQとかしながら、猟師友達と自慢話をしながらお酒を飲むのも幸せですよ。」

貴弘さんとお話していると「猟師ってかっこいい」と素直に思います。獲物を一体ずつ捌くときも妥協しない姿勢や心意気が、自身の哲学から伝わってきます。奥日田に移住し、憧れる暮らしを追い求めながら狩猟に出会い、その狩猟という文化を自身の暮らしの真ん中に置いて生きているなと感じます。

「最近は捕れるけど解体できない猟師さんも多いんです。その中で、自分はワンセットで自らの手で完結できる猟師でありたいと思っています。解体の腕とか諸々すべてで一流になりたい。自分の経験から、獲物を見れば品質は分かるので納得いくものしか商品として出しません。商品にしない個体であっても妥協せず、より美しく効率的にと考えて捌きます。」

協力隊卒業後は食肉販売と移動カフェを開業。

協力隊を卒業した現在は、自らDIYした「奥日田獣肉店」を食肉販売のための獣肉処理場として、また「野良CAFE」を移動式のカフェとして開業しました。主に貴弘さんが奥日田獣肉店を、亜李砂さんがカフェの運営に関わっています。野良CAFEでは自家焙煎コーヒーの他にも奥日田獣肉店の猪鹿肉や骨、ツノ、毛皮を使ったアクセサリー小物などの制作、販売もしているそうです。

 

ほぼ自作でDIYした獣肉処理場

野良CAFEの出店風景

「自分は農家をやったことがないから、農作物を一晩にしてやられた!とかそういう実体験がないんです。自分は好きだから猟をやるんですけど、その結果助かる人がいるし感謝されるんですよ。それが本当にありがたいと思います。」

奥日田は自然が素晴らしく、福岡から近いのも便利。

協力隊卒業を機に、現在住んでいる家を正式に購入した草野さん夫婦。集落には他に5~6軒ありますが、人が住んでいる家は数軒です。草野さんの家は一番奥にあり、周辺の土地も自由にできるため、夢がふくらむといいます。

改めて奥日田の良さを伺うと、実家のある福岡市が近いのに豊かな自然があるところが気に入っているとのこと。

「ここの自然は四季折々で楽しめます。水がきれいなことも気に入っているポイントです。人よりも動物が多いところも。」と貴弘さん。

移住に際して特に困ったことはなかったようですが、集落でお葬式があるときは仕事を休んで手伝いに行かなければならないなど、福岡時代には考えられない地域のルールに驚くことはあったそうです。草野さん夫婦はそういった地域の行事にも積極的に参加し、ご近所の方との信頼関係を紡いでいきました。

奥日田狩猟CAMPでのひとコマ

最後に

移住し、奥日田で理想の暮らしを追い求めるなかで狩猟に出会った貴弘さん。その出会いが人生を変えました。地域おこし協力隊の活動を経て地域を知り、夫婦で「好きなことを仕事に」と事業化。持ち家になった家とその周りのフィールドも、まだまだ楽しめそうです。何よりも、狩猟の探求は終わりなき旅。奥日田の自然の様々な表情を楽しみながら、奥日田での狩猟ライフを満喫中です。磨かれていく狩猟の美学をまたお聞きするのが楽しみです。

 

*1 ライフシフト
人生の向きや位置を変えることで、人生に変化を起こすこと。

*2 DMO
当該地域に精通し、地域と協同して観光地域づくりを行う法人のこと。Destination Management Organizationの略。

*3 箱罠
野生動物を捕獲する際に用いられる箱状の罠のこと。

*4 くくり罠
野生動物を捕獲するための罠の一種で、獲物が通りそうな獣道にあらかじめ罠をしかけておき、獲物が罠を踏み抜くとバネの力で罠が作動し獲物の足をくくることで捕獲する仕組みのもの。
(出典:JTB総合研究所より観光用語集、Wikipedia)

取材者情報

お名前
草野貴弘
出身地・前住所
福岡県博多区
現住所
大分県日田市
年齢
39歳
家族構成
職業
猟師
Instagram
https://www.instagram.com/okuhita1029
WRITER Yufuko 記事を書いた人

Yufuko

大分県日田市に恋して移住。ヨガ講師やキャリア教育関係などの仕事をかけもつパラレルワーカー。数年前に行ったフィンランドで自分が楽になる体験をし、多様な価値観や個性をもつ人が幸せに生きるための知恵をシェアしたいと活動している。「喜んで生きる」がモットー。

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