豊後大野市では、高齢化で不足が予想される農業の担い手を増やす一環として、UIJターンの移住者も対象とした新規就農技術者習得研修施設「インキュベーションファーム」を展開しています。平成24年1月のスタートから10年を迎えますが、就農定着率はなんと100%といいます。今回は、新規就農技術者習得研修施設「インキュベーションファーム」の驚くべき定着率がどのような仕組みで生まれているかをご紹介します。
大分の野菜畑・豊後大野市とは
大分県の南西部にある豊後大野市は、大分市に隣接しています。雄大な土地と自然あふれ豊富な水資源にも恵まれており、”大分の野菜畑”とも言われているほど農業が盛んな地域です。年間の平均気温は15〜16℃ほどで、年間降水量も1,800mm程度と温暖な気候に恵まれ、農業に適しています。
豊後大野市の人口は約35,000人ほどで、そのうち65歳以上の人口割合は約44%と日本全体の高齢者率28.7%(2018年)と比較しても高い割合で推移しています。高齢者率にも比例して、農業に携わる人口も高齢化が進み、後継者不足が深刻となっています。
定着率100%の新規就農技術者習得研修施設「インキュベーションファーム」とは?
「インキュベーションファーム」とは、豊後大野市で2012年1月からスタートした、農業の担い手の確保とともに豊後大野市の戦略品目(ブランド化する)として「夏秋(かしゅう)ピーマン」の産地拡大を目的とした施設です。
大分県内外の新規就農を目指す方(1組2名以上)を対象に、JAのピーマン部会やインキュベーションファームの指導員などから、2年間の栽培管理や実践研修、農業経営研修などの指導を受け、豊後大野市でのピーマン農家として新規就農を目指すものです。
このインキュベーションファームの、定着率はなんと100%の実績を誇り、年間に20〜30件ほどの問い合わせがあるそうです。研修卒業生のほとんどがUIターン移住者で、移住制度としても実績を残しています。
移住者も安心!インキュベーションファームのメリット・デメリット
就農定着率100%で、移住制度としても実績を残すインキュベーションファーム。ここからは、その制度のメリットとデメリットをご紹介していきます。
メリット
1、地方移住の仕事と収入の確保
移住するにあたり1番不安となるのが、仕事とその収入の確保です。インキュベーションファームでは、新規就農を目的としているため、2年間の研修中から仕事としての農業を学ぶことができます。収入に関しても、経営指標として農業面積10アールによる収入額を公表しています。研修中の1年目は農林業振興公社(実施期間)の収入、2年目は研修生の収入となります。
2、農家としての技術と農家経営のノウハウを習得できる
実技はもちろんですが、農家経営も研修として受けることができます。先生方は、大分県豊肥振興局や大分県農業共済組合南部支部、大分県農業協同組合豊肥事業部などから土壌の作り方、病害虫の予防と対策、肥料の知識、農業簿記の習得、農業機械講座、農業制度の仕組みまで教えてもらうことができます。
3、新規就農として最も難しい農地を斡旋(あっせん)してくれる
就農で苦労するのが、農地の確保です。特にIターン移住者に関しては、知り合いもいない土地になると、農地の確保はかなり高いハードルです。インキュベーションファームの研修終了後のサポートとして、農地についてはインキュベーションファームの営農指導員などによる農地の斡旋をしてくれます。加えて、住宅確保のための公営住宅や空き家情報も提供してくれます。
4、研修中と研修後の手厚い支援制度
インキュベーションファームは、研修中と研修終了後のサポートが非常に手厚くなっており、研修中は、宿泊施設(月額12,500円、2LDK、光熱水費別)を準備してくれます。
デメリット
1、研修期間中に当面の生活費等を確保しなければならない
研修2年目は収穫したピーマンの収入は研修生の収入になりますが、1年目は収入がないため、それまでの生活費等を確保した上での、研修を受けなければなりません。
2、2人以上が必須の条件
過去の実績等から、1人で農業を展開できる面積とその収穫量には限界があり、目標である農業所得400万円の確保のためには、農地面積と2人以上の人員が必要となることから、基本は1組2人以上からの受け入れとなります。夫婦、親子、兄弟などが多いそうです。
3、年齢が55歳以下までの制限が設けられている
新規就農者を受け入れるインキュベーションファームですが、体力を必要とする農業にとって年齢は大きな問題となることから、55歳以下という年齢制限を設けているそうです。
移住先で新規就農をめざすならインキュベーションファーム
インキュベーションファームでは、さまざまな支援策を用意しており、この手厚い支援策が定着率を支えている一つの理由です。
<研修中に受けられる支援>
1、短期研修中の宿泊施設の紹介、旅費2/3(上限58,000円)を補助
短期研修を行う研修施設周辺の宿泊施設とその旅費の2/3を補助してくれます。
2、農業次世代人材投資資金(準備型)の活用、宿泊施設の完備(月額12,500円、2LDK、光熱水費別)、営農指導員の確保
農業次世代人材投資資金とは、就農のノウハウ習得に専念するため最大2年間1人あたり150万円の補助が受けられる制度です。そのほかにも宿泊施設が完備されており、営農するための指導員も確保してくれます。
<研修後に受けられる支援>
1、農業次世代人材投資資金(経営開始型)の活用
就農当初の経営が不安定な段階で、1人あたり年間最大150万の補助を最大5年間受けることができます。
2、担い手経営強化対策事業の活用
担い手の経営を下支えして、早期の経営安定を図るための補助で、施設や機械等の1/2補助(事業費30万以上、上限1,000,000円)を受けることができます。
3、ハウス等補助事業の活用
ピーマン栽培のためのビニールハウスにかかる費用を補助してくれます。
4、新居購入、空き家物件での補助を活用
住居は、空き家であれば空き家対策用の住宅リフォームの助成を受けられます。新居購入の場合も、住宅新築補助など上限がありますが、補助を受けることができます。
インキュベーションファームを利用するには
インキュベーションファームを利用する場合は、必ず短期研修を受ける必要があります。その後、豊後大野市による審査会を経て、研修生として受講することができます。利用に関しては、55歳未満の年齢制限のほか、当面の生活費などの資金が確保できるかなど細かな審査内容が設けられており、年間の受け入れ組数が最大3組となっています。
豊後大野市インキュベーションファーム:https://incubation-farm.jp/
最後に
新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、テレワークや地方移住の関心が高まっています。林野庁が令和1年度に男女約3200人実施した「新しい日常における森林活用の意向調査」によると、農村部への地方移住に興味を示す人数の割合は、24.4%と約4人に1人が地方移住に興味を示しており、その中でも農業は39.7%と、約4割が農業に携わりたいと考えているそうです。
今回紹介した豊後大野市の新規就農支援「インキュベーションファーム」のように移住先の仕事と収入を支援する取り組みは、他の地方自治体でも広がっています。
収入と移住先の仕事はセットで考えて確保ができれば、移住への1歩がグッと近づくので、移住支援や新規就農支援などを使いながら地方移住を考えてみてはいかがでしょうか