大分移住手帖

子ども達のイマを支えてミライを描く。一歩背中を押せる存在に。複合スペースmarble

ImaiTomomi Tomomi Imai

県外の大学で勉強した後、作業療法士として大分に戻って来た津田さん。当初は病院にて勤務していましたが、その後、もっと子どもの側で寄り添いたいという想いがあり、放課後等デイサービスをはじめとする社会福祉事業を展開する法人に転職。その中で、福祉という領域だけではサポート仕切れない子どもたちを、地域で受け止める環境を作りたいと考えるようになりました。現在行ってる「学習塾」はまさにその受け皿。ここを管理運営している津田さんに、「学習」をキーワードに子どもと関わる日々についてお伺いしました。

現場に出たからこそ見えた、どの領域からも取りこぼされてしまう子どもたち。

作業療法士になり病院に勤務した後、福祉サービスの一つである放課後等デイサービスに勤務した津田さんは、福祉サービスを利用することに抵抗がある方々が多くいることを知りました。放課後等デイサービスの対象は、障害のある児童ですが、療育手帳や障害者手帳がなくても、専門家などの意見書などを提出し、必要が認められれば、利用することが可能です。しかし、それは言い換えれば「障がい」を持っていることを認める必要があり、そのことに抵抗感を持ってしまう親御さんも多いそうです。また、必ずしも福祉サービスの内容が、お子さんの状況にマッチするとも限らないことも感じたそうです。多くの地域で、福祉や教育や医療、そのどれからも取りこぼされてしまう、そんな子どもたちがいることを知りました。

「学校が終わった後に学童に行くお子さんがいる一方で、学童等での受け入れが難しいため、放課後等デイサービスを利用するお子さんもいます。福祉サービスは利用するにあたって金銭的な補助が受けられたり、送迎のサービスがあったりなど、大きなメリットがあります。ですが、“障がいを持っている”と認めなくてはならない一面もあります。「発達障がい」という言葉自体は市民権を得たかもしれませんが、そこに対する理解や受け入れはまだまだです。放課後等デイサービスを利用しているというだけで、同級生から後ろ指を刺されたりすることもあり、ストレスを感じてしまうお子さんもいるんです。そういったお子さんは、福祉サービスを利用することをためらってしまいます。その結果、サポートを十分に受けられないこともあります。特に「勉強が苦手」ということは、子ども達の心に影を落とすと思うんです。勉強が苦手だから勉強が嫌い。勉強が嫌いだから学校が嫌い。そして、ひいては自分のことも嫌いになってしまう。そんな負のスパイラルに陥ってしまうお子さんは結構多いんです。そこで、そんな子どもたちの受け皿を作りたいと思いました。」

「学習」を通して自分と上手く繋がって欲しい。

津田さんが在籍している​一般社団法人 虹色が運営する「複合スペースmarble」は、そんな想いから作られた「学習塾」です。「学習塾」というと、成績を上げるためや受験のために通うイメージがありますが、ここでの「学習」は「体験すること」。学習の内容が大事なのではなく、その過程で経験することこそ“学び”だと考えているそうです。

「僕は作業療法士なので勉強を教えることは苦手なんです。その代わりに、その子の考え方の癖であったり、感じ方の癖であったり、道具の使い方とか体の動かし方の癖であったり。そういったところをしっかり観察し考察するようにしています。例えば消しゴムで字を消す際に、紙までぐちゃぐちゃになったり、関係ない場所まで消してしまう時には、全身の姿勢は安定しているのか、両手は上手く使えるか、指先の力加減を調整できるのか、消す場所をちゃんと見付けることができているか等を観察しています。その中で、本人に合った使いやすい道具を紹介することもしています。そして、僕自身が持つ作業療法の視点も踏まえて、教員免許を持った講師が学習プログラムを考えてくれます。学習を進めるだけでなく、その子にとって必要なら学年を遡ることもありますね。常に作業療法士と教員でディスカッションをしながら授業を作り上げていきます。『福祉×教育』ここがこの塾の1番の特徴ですね。」

大学生講師による“斜め上”の関係。

marbleがある大分市には大学が多いこともあり、お子さん達に近いお兄ちゃん、お姉ちゃんという“斜め上”の存在も大切にしているという津田さん。大学生講師は現在6名在籍していて、72名の子どもたちのサポートを一緒に行っています。“子ども”と言っても「学習」をキーワードに考えた場合、年齢制限はいらないと考えているmarble。20歳を過ぎた方も登録しており、一般的な教科学習だけではなく、スケジュール管理の方法や福祉サービスの使い方をアドバイスすることもあるそうです。

「地域の中で生活していくことを考えたとき、塾という立場でできることは限られています。必要があると感じたら、福祉サービスやその他の地域サービスに繋ぐようにしています。福祉サービスというと、どうしても一歩が踏み出せなかったりすることが多いです。だからこそ、学習塾という敢えて福祉の領域に特化しないことで、利用のハードルを下げ、はじめの一歩に繋がりやすくしています。その上で今までの医療や福祉での経験を生かして、より適したサポートを提案しいくのも、このmarbleの大きな役割だと考えています。」

大分こその土壌がある。

大分は福祉や発達障がいの領域は進んでいるのかお尋ねしたところ、都市圏と比較するとまだまだ選択肢は狭く、地域差が大きいと津田さんは言います。その一方で、別府市に「太陽の家」という障がいを持たれた方が多く働く場が存在するため、そういった方が当たり前に生活している風景が根付きつつあると感じているそうです。

「『太陽の家』は重度の障がいを持った方達も働く場所で、とても大きな施設です。働く方がいるということは、街に住んでいる方がいるということです。別府市の街中では、車椅子で買い物されている方や食事に出かけている方に会うのは珍しいことではありません。むしろ、それが当たり前と言う文化が出来上がっているのは、良い土壌だと感じます。」

大分では特化型が広まりにくい。

昨今、大分でも放課後等デイサービスとうが増えてきてはいますが、東京や大阪のような都市圏と違うのは“特化型がなかなか根付かない”とうところなのだそうです。

 

「都市圏では、“勉強特化型”や“運動特化型”、”音楽特化型”など、専門性を打ち出している放課後等デイサービスがあります。5-6年ほど前に大分にも特化型の施設ができましたが、後に聞くと特化型を辞めてしまったそうです。ここには人口規模が大きく関わっていると思っています。都市圏は人口が多い分、利用される方のニーズが細分化されます。しかし、人口が都市圏より少ない大分では、ニーズの細分化ができないのが実情であり、一つの施設で様々なニーズに対応する必要があります。そのため、特化型の運営が難しいと考えています。」

思いがけない需要。海外からのオファーも。

 marbleでお子さんへの学習サポートを行う中で、思いがけない需要が増加しているそうです。

 

「 marbleでは、eラーニング教材*を導入しているのですが、導入元の企業でスタッフ研修をさせていただいたり、他県のフリースクールのアドバイザーをさせていただく機会がありました。また現在、 marbleではオンラインでの学習サポートに力を入れているのですが、国内のみではなく海外からも問い合わせが入っており、海外在住の日本人のお子さんにオンラインで学びのサポートをしています。大分だけではなく、国内外から反応してもらえているのは予想外でしたね。福祉業界よりも、他の業界からの反応の方が増えているのは確実です。僕の場合はFacebookやInstagramでどんどんどんどん発信をしています。それは、 marbleというコンテンツをある意味でオープンソースにしたいからです。そんな開いた状態が、今の反応につながっているのかなとは思いますね。」

いつかはフェードアウトすべき存在として。

各方面から多様なニーズのあるmarbleですが、本来は子どもたちが手を離れていくことが良いと考えている津田さん。環境づくりもこの点を意識して行われています。

「僕は、子ども達と関わる中で、Hands on(実践的に手を掛ける)と Hands off(口出ししない・干渉しない)という考えを持っています。僕自身、その子の人生の側にずっといれるわけではないんですよね。いつかは絶対フェードアウトしなければならないんです。だからこそ僕は、最終的にはHands offしていきたいんです。僕がいなくても、子どもたちが自分自身と良い関係性が持てるような状況を作りたいと思っています。

そのために、僕の考え方やmarbleがしてきたことをエッセンスとしていろんな方面へ注いでいきたいです。そんな想いもあって、現場では僕が子ども達に対して口出しすることはあまりありません。その一方で、大学生講師には積極的に声をかけています。『この子はこういった考え方の癖だから、こうやって勉強を教えてあげて』とか、『あの子は見通しが立つと安心するタイプだから、先に予定を伝えてあげて』といったように、作業療法士としての知識や経験をシェアしています。その中で、大学生と子ども達が関係を築きながら、一緒に勉強していくような環境を生み出すことに努めています。大学生は教育学部だけでなく、福祉工学部から来ている人もいます。こども達の発達を学ぶことで、将来の夢である研究や開発に活かしていきたいとのことで、とても心強いです。」

 

環境作りの中で、子どもへのアプローチはもちろん大切ですが、不安を抱えているのは親御さんも同じです。そんな親御さんたちに向けてた新たな取り組みも今年から始めるそうです。

 

「相談に来る親御さんの中には、居住地や家庭環境により塾に通うことはできないけど、子どもの学習について相談をしたいといった方が沢山いらっしゃいます。そんな親御さんのために、相談をきちんとサービス化しようと考えています。オンラインでお子さんに対して、学びの個性を提案することで、定期的にmarbleに通うことはできなくても、少しでも親御さんたちの不安も解消できればと考えています。」

経験したことを、生かしながら暮らして欲しい。

大学生の中には、大分の大学への進学を機に、他県から大分に来ている方々も多いそうです。いずれは大分を離れたとしても、 marbleで経験したことをどんな地に行っても現場で生かして欲しいと考えている津田さん。それは、移住する方にとっても同じ思いだと言います。

 

「marbleって、社会の隙間にあるひとつの施設でありプロジェクトです。大学生には、ここを通して福祉の世界や様々な世界を体感してもらい、それを自分が新しく暮らす地域へ持って行って実践して欲しいですね。僕自身は塾がやりたいのではなく、本来は地域づくりがしたいんです。そういう視点で考えた時、大学生だけではなく、地域おこし協力隊として移住して来た方にも marbleを見ていただきたいです。その中で『今の社会の中で、どんなことが子どもたちの中で起きているのか』を知ってもらいたいし、そういう機会を僕自身ももっと作っていくべきだなと感じています。」

背中を少し押せる場を作りたい。

子どもだけでなく、「人」の存在を大事にしている津田さん。Uターンされた津田さんだからこそ感じているのは、「外から来た人たちが居心地良くなるような、背中を押す存在の大切さ」だと言います。そんな津田さんは、最近では医療福祉エンターテインメント集団であるNPO法人Ubdobeと共に「OPEN OITA PROJECT」にて介護福祉現場の様々な方々を取材し、記事化しています。取材をしているのはライター専門職だけでなく、多くは介護や福祉業界で働いている方々です。現場の目線を生かして伝えていくメディアはとても貴重であり、こういった活動を通して、居心地良く暮らす人が増えて欲しいと願っているそう。

 

「病院の外に出て、福祉業界を経験したことで、様々なコトやヒトとつながりました。その上で大分における課題は何なのか、どう解決していけば良いのか。そういったことを考える場が、案外無いことに気づかされました。福祉や教育に関わる専門職として、大分県内で横のつながりは広がりつつあります。しかしその多くはどこか形式的で、もう少しカジュアルに繋がることができる場も必要であると感じています。“私はこれができるよ”とか、“こんなことに困っている”と気軽に伝え合って、支え合う関係をもっと作っていきたいですね。大分県民の特性なのか『こういうのができません助けて』と言うことに、抵抗感を抱く方が多いように思いますが、“できるの交換”ができる場がもっとあれば、移住してくる方々にとっても居心地が良くなると思うんですよね。」

最後に

子どもの居場所作りだけでなく、福祉に関わる様々な方々にとっての居場所や心地よい場づくりに日々奔走する津田さん。場が大事なのではなく、そこにいる人が何より大切だと終始語ってくれました。いつかはその人の人生からフェードアウトすべきだからこそ、情熱を持って関わるというその姿勢から学ぶことが多い深い時間となりました。福祉だから、介護だからと壁を作らず、垣根を超えて同じ「今」を生きる仲間として関わり合っている津田さんやmarbleの想いが、どんどん大分中に広まって、ここに暮らすことが心地よいと感じる方々がより増えていってほしいです。

取材者情報

お名前
津田憲吾
年齢
36歳
Webサイト
https://www.marble-oita.com/
WRITER ImaiTomomi 記事を書いた人

Tomomi Imai

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snufkiins LLC. 代表社員
離島移住計画 代表
Re-harmo PJ オーナー
25歳でフリーランスとして独立し、多様な分野にてプロデュースやディレクター業を経験。モノコトヒトをつなぐひと。多様な伴走を得意とする。国内外問わず事務局代行・企画編集など多様な業界を経て2018年に法人化。長崎県上五島にてキャンプ場兼カフェ「Re-harmo PJ」を展開し、島に仕事や場を作ったり。絶賛子育て中。ヨガ・サーフィン・音楽・映画・コーヒー・日曜大工が趣味。

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