同じ場所・モノ・人であってもその切り取り方一つで様々な表情を楽しめる「写真」。写真の専門家の1つであるフォトグラファーは、現在人気の職業の一つです。
フォトグラファーのようなお仕事は、「都会の仕事」としてイメージする方も多いですが、地方での需要はどのくらいあるかご存知でしょうか?また、そもそもこの職業で暮らしていけるのでしょうか?
そこで大分県でフォトグラファーとして活躍している現役の方々に「大分県でフォトグラファーとして食べていくには」というテーマでお話をお伺いしました。
フォトグラファーとは
フォトグラファーとは、静止画の写真を専門に撮る職業のことを言います。
フォトグラファーの仕事内容は大きく以下の2つに分けられます。
①アート写真
絵画のように、フォトグラファーの芸術性や個性を表現した写真であり、テーマも被写体も様々です。SNSでよく見られるような写真もいわゆるアート写真であり、自分の撮りたい作品を撮ることができますが、アート写真のみで生計を立てているフォトグラファーはほんの一握りです。
②商業写真
結婚式や七五三など依頼主である人物を対象にしたものや、宣伝や広告で使われる建物・モノ・食品などを撮影したものです。各分野の専門に長けるフォトグラファーが全国に数多く存在します。
オールジャンルを得意とするフォトグラファー:宮田浩二
今回、県内で活躍する2人のプロフォトグラファーからお話を伺いました。
まず、クライアントは県内外、個人から企業までと多岐にわたる大分市在住のプロフォトグラファー宮田浩二さんです。
写真の現像所に就職
大分市出身の宮田さんは、高校卒業後、大分市にあるフィルムの現像所に入社。撮影だけでなく色々な技術を学んだそうです。
宮田:当時のプロは主にフィルムを使って撮影を行っていたので、フィルムを出しにくる様々なカメラマンとの出逢いや、現像所で技術を学ぶようになって本格的に写真を学びたいと思うようになりました。
フリーランスになろうと一念発起し現像所を一度辞めましたが、独立するには自分には技術と人脈が足りないと思いました。そこで、プロの技術を間近で見るためにコマーシャルスタジオに見学に通いました。そこで初めてプロの現場を知りましたね。その後ブライダルフォトがやりたくて写真館で働くようになり、ライティングやカメラマンとしての振舞い方や業界のセオリーなど様々なことを教えてもらいました。
現場を通してフォトグラファーという仕事の基礎から学んだ宮田さん。正社員のカメラマンとして働きながら、周りにある写真や印刷物を見つけては、分析して精密にコピーしながら技術を磨いたのだとか。写真館退職後、遂にフリーのフォトグラファーとして活動を始めた宮田さんに、フリーになりたいと思ったきっかけをお聞きしました。
宮田:フリーになりたいと思ったきっかけは妻の妊娠と自分らしい暮らしを考えたことがきっかけでした。写真館で働いていたころは、時間外労働も多く、家に居る時間など自分の時間は短かったです。子どもが生まれたらもっと子育てを楽しめるような時間を持ちたいと思うようになり、フリーになろうと準備を始めました。
また、様々なジャンルの撮影等の仕事がやりたいと思ったのも独立した理由の1つです。
宮田さんはフリーとなったことで家族で過ごす時間も増えたそうですが、現在フリーで活動しているフォトグラファーは少ないのだとか。その理由は、カメラの技術が無い人でも、撮影キットを用いてある程度の写真が撮れるため、業界全体の仕事が減ってきているからだと言います。
良い結果と人との繋がりを大切に
フリーとして活動を始めて5年目を迎えた宮田さん。ご自身の公式サイトなどは無いとのことで、普段はどのように営業を行っているのかお聞きしました。
宮田:現在は契約先と人との繋がりのみで仕事を受注しており、そちらをなるべくお断りしたくない為、公式サイトやSNSでは表立って宣伝は行っていません。ご紹介頂いたお仕事は相談の上、お受けしています。そのため、ポートフォリオはありますが、一般には公開していません。地方は都会ほど顧客に対してカメラマンの入れ替わりが激しくありません。だからこそ、人との繋がりを大事にして、毎回良い結果を残すことで他の方にも紹介してもらえるようなフォトグラファーになることが大切だと思っています。
ジャンルに限らず幅広く技術を身につける
どんな方がフォトグラファーに向いているか宮田さんに聞いてみました。
・細かくて神経質な方
・社交性があり明るい方
・ポジティブだけど心配性な方
・好奇心が強く、寝る時間も忘れて作業に没頭できる方
・何でも体験しないと気が済まない方
宮田:自信があるように振舞うことは大切ですが、自信過剰では成長できません。前向きだけど、自分を反省できる人の方が、いろいろな学びに繋がっていくし、僕もそうでした。好奇心を持って、カメラに熱中できるかどうか。勉強は大切ですが、それを勉強と思わずに寝る時間も忘れて没頭できるかどうかが大切です。
また、フリーとして活躍していくために身につけておくべきこともお聞きしました。
宮田:IT技術の進歩により各分野の専門性が下がっていく中で「これだけを極める」と言うのはリスクかもしれません。写真、動画、広告デザインと多様な技術を身に付けておけば、業界の仕事の全体量が下がっていく中でも生き残るチカラになると思います。
都会であれば専門分野に特化して生きていくことは可能かもしれませんが、大分県では様々な仕事に対応できるフォトグラファーが求められているようです。宮田さんはカメラマンとしての技術を高めつつ、一眼レフムービーなどの動画の知識や技術、商品パッケージやロゴのデザインなど、様々な領域に目を向け、20代の頃から独学で学んで身に付けたそうです。
セオリーを学び、人と繋がるのがコツ
大分県でフォトグラファーとして生きていきたいと思っている方へ、アドバイスをいただきました。
宮田:幅広く、しっかりセオリーを学んで人脈を広げていくといいと思います。SNSでフォロワーを増やして案件を獲得するのも一つの手ですし、スタジオへの就職や活躍されてるフォトグラファーの方に連絡をして、まずはアシスタントからスタートして人の繋がりを作り、お仕事を振っていただくのも良いと思います。手段はたくさんありますが、残る写真が良いのは基本で、撮影が楽しかったと言ってもらえるような現場にすることも大切です。また、ブライダルの様な現場ではどうしても避けて通れない専門的な経験が必要な時もあります。お金を頂くということをよく考えながらも、楽しみながら取り組まれるのがいいと思います。
宮田浩二
LINE ID:koji4045
写真をより価値あるものにプロデュースするプロフォトグラファー:川嶋 克
2人目のフォトグラファーは、日田市在住の川嶋克さん。写真の撮影から動画作成まで、ただ撮影をするのではなく、顧客のニーズの先にあるものを提案するマルチプレイヤーな川嶋さんにもお話をお伺いしました。
大学時代のバイト先で聞いた言葉をきっかけにカメラを始めた
福岡県飯塚市出身の川嶋さんは、大学時代にアルバイトをしていたデザイン会社で聞いたある言葉をきっかけにカメラに興味をもつようになったそうです。
川嶋:大学時代にバイトをしていたデザイン会社で「写真が変われば全部変わる」と聞いたのをきっかけにカメラに興味をもちました。全部変わるというのは写真を用いた作品全てにおいて、写真というビジュアルのクオリティによって情報の受け取り方が変わるという意味であり、写真によってもたらされる影響が大きいということです。アルバイトで稼いだお金で安いカメラを買い、当時は趣味として、プライベートでも常に写真を撮っていました。
そんな川嶋さんが本格的にプロのフォトグラファーとして活動を始めたのは2017年から。大分県日田市にある総合プロデュース事務所でプロデュースを学ぶうちに、趣味で続けていたカメラでの撮影依頼が来るようになり、退職後プロの道へ進みました。
川嶋:最初はインターネットや書籍で勉強し始め、依頼が来る毎に様々な現場を経験しました。更には知り合いのカメラマンにたくさん質問したり、アシスタントをさせていただいたり、とにかく自分から行動し、自分らしさを探求しました。写真集や雑誌も読み漁って表現方法を蓄えていきました。
プロフォトグラファーとして活動するようになって4年目を迎えた川嶋さん。最初は機材を揃えるために借金もしましたが、始めて2年目くらいから収入も安定し始めたそうです。
ひたすら技術を上げ、良質な写真を提供するための準備を怠らない
最初は日田市で繋がった方々からの依頼から始まり、現在はお客様からの紹介やSNSの友達を通して依頼があるそうです。県内はもとより東京からも依頼があり、顧客は小さな商店から行政関係まで、幅広い分野で活動されています。
川嶋:会社に勤めていた頃の人脈や“つて”が今の仕事につながっている部分は大きいですが、必ずしもどこかに属した方が良いと言うことはないと思います。今でこそしていませんが、昔は自分で営業もしていました。それこそ飛び込みなんてことも。事前に準備に準備を重ねて企画を提案するんです。例えば大分県のある小さな美容室では、大切な商品である髪の写真をスマホで撮って済ませるなど、自分たちのできる範囲でしか記録を残していませんでした。そこでプロが髪の写真を撮って記録に残す、その写真を期間限定でお客様にサービスで提供するなど、さまざまな企画を提案しに行きました。身近なスマホなどでも撮ることができる写真にお金をかけるだけの価値があるということを分かってもらうための準備をしっかり行います。
プロデュース業を学んでいた川嶋さんは、「写真を撮る」だけでなく、その写真を「どう活用するか」までを提案することで写真の価値を高めているのだそうです。
動画も独学で学ぶうちに依頼がくるように
会社在籍中から始めた動画制作が、気づけば仕事の1つにもなった川嶋さん。その経緯もお聞きしました。
川嶋:最初は「できるかなー」「やってみようかなー」とカメラの動画撮影機能を使って自分なりに撮ってみたことが始まりでした。
動画を作っているうちに「動画作ってたよね?あんな感じで作ってくれない?」と依頼が来るようになり、借金して機材を揃えました。いい機材を揃えたからいいものができるというわけではないですけど、需要があるなら本格的にやってみようと思って。
映像や写真の業界が縮小される中、フォトグラファーとして生き残ってこられたのは、総合的な知識を身につけたことと、動画制作という“武器”を持って他のフォトグラファーと土俵を分けることができたからかなと思います。
大分県には写真の仕事がまだある
大分県でプロフォトグラファーを目指す人にアドバイスをお聞きしました。
川嶋:あまり難しく考えず、上手くなろうとせず、ただ写真を撮ることが好きなんだと人に伝わる写真を撮ってください。
写真に地域性はないし、大分県はまだまだ写真に関連する仕事は多くあると思います。写真やパンフレット、映像など、それをどう活用していくのか、その点まで押さえて提案していけるといいのではないでしょうか?
現在HPに自分のこれまでの作品を多く掲載していており、今後はアート作品の方にも力を入れていきたいそうです。
川嶋克
HP:https://www.katsumikawashima.com/
FB:https://www.facebook.com/katsumi.kawashima.9
最後に
今回、お二人のフォトグラファーにお話を伺い感じたのは、きっかけや経歴、やり方は違うけれど、写真への強い想いと依頼主に対する思いやりによって仕事を作ってきたということ。良い写真を撮るためには、まずは経験を積み、基礎を固めた上で常に自分なりの研究を重ねることが大事だと感じました。
大分県は自然豊かで少し足を伸ばせば美しい場所がたくさん広がっています。大分県への移住を考える上でフォトグラファーに興味がある方はぜひ参考にしつつ、実際に大分県に足を運んで、美しい自然や景観にカメラを向けてみてはいかがでしょうか?