取材者情報
- お名前
- 麻澤勇介(あさざわゆうすけ)・萌子(もえこ)
- 出身地・前住所
- オーストラリア タスマニア
勇介さん出身地・大阪府池田市
萌子さん出身地・宮城県仙台市
- 現住所
- 大分県竹田市
- 年齢
- 勇介さん 30代、萌子さん 30代
- 家族構成
- 夫・嫁・犬
- 職業
- カフェ「Gypsy’s mile」
- Webサイト
- http://gypsys-mile.com/
東南アジアから欧米、ヨーロッパ、世界各国をリュック1つで旅したバックパッカー夫婦が、定住を決めた場所がある。
世界の名だたる場所でもなく、所縁がある場所でもなく、ごまんとある地域の中から彼らが選んだのは…。
今回ご紹介するのは、旅の最中に偶然訪れた竹田市の豊かな自然に感銘を受け移住、現在長湯ダムの湖畔でカフェ「Gypsy’s mile(ジプシースマイル)」を営む麻澤勇介・萌子夫妻です。
竹田市には国立公園を有する久住町や炭酸泉が湧く直入町など魅力的な資源は数多くありますが、その中で世界を旅したバックパッカーの2人を留まらせるほど惹きつけたものとは一体何だったのでしょうか。
2人の移住、定住までのエピソードについて伺いながら、町の魅力について探りました。
世界30カ国を旅する暮らし
大阪出身の勇介さんと、宮城出身の萌子さんの出会いは北海道。8年前、勇介さんがシェフとして勤めていた知床のホテルに、北海道が大好きという萌子さんがバイトで働きはじめたのがきっかけでした。
しかし出会って1カ月後に萌子さんはフランスへ短期留学、勇介さんはタイへ旅に出発。まさかの遠距離になってしまったそうですが、数カ月後、タイの空港で待ち合わせた2人は、そこから一緒に旅をはじめました。
タイとカンボジアでは観光地を巡りシュノーケリングなどを楽しんで、ローマではキャンプ場に泊まり、スイスでは道端で着物姿で楽器を演奏してお金を稼いで、オーストラリアではオーガニック農場で働いて。
バックパックひとつで世界を渡り歩き、濃い日々を過ごしていた2人。そんなある日バンコクで起きた事件が、“定住”という選択を考えるきっかけになりました。
萌子さん「タイに旅行に出かけたときに、バンコクの道端でテロが起きたんです。それでベトナムに避難して。そのときにベトナムの山岳民族でモン族という民族に出会ったんですよね。昔の日本と良く似た生活習慣や文化を持つモン族の暮らしを見て、地に足をつけた生活が羨ましくなったんです」
勇介さん「1年間同じ場所に留まる暮らしを随分してなかったので、1カ所にとどまって生活を築いていくというのも良いなって思ったんですよね」
同じくして海外でテロが頻繁に起こるようになっていたこともあり、日本での暮らしを考えはじめた2人は、訪れたことのなかった九州を巡る旅へと出かけることになったそう。
屋久島からスタートした3週間の九州一周の旅。そこで彼らは理想の地を見つけたのです。
姫だるまが結んだ縁で。
レンタカーを借りて九州を巡っていた2人が竹田市に出合ったのは偶然のこと。
バラエティー番組「水曜どうでしょう」が大好きな2人は、県境を越えて大分県に入った際、カーナビに出てきた姫だるまをみて、番組のロケ地として登場した「後藤姫だるま工房」を訪れようと竹田市へと車を走らせ、その縁が移住の契機となりました。
勇介さん「工房のお母さんがとても良くしてくれたこと、3週間九州を巡る旅の中で、竹田を訪れた日だけが晴れだったこととかも大きかったんですけど、何より、道中で見つけた竹田の道の駅にすごい感動して。道の駅でジャブジャブ湧水が出ているのに感動したんですよね。『やばない、これ!?めっちゃ水出てるで』って(笑)」
オーストラリアで生活していたときに深刻な水不足を経験したのだそう。シャワーは1日3分しか浴びれないなど、水がない暮らしの大変さを体感していたことから、至る所に水が湧く豊かさに感動したのだとか。そして豊富な自然の恵みに惚れた2人は、一晩泊まっただけの町へ移り住むことに決めたのです。
バックパック1つで移住
移住となれば事前に住む家を探し、仕事を見つけるというのがオーソドックな流れですが、流石バックパッカー夫婦。
家も仕事も車も知り合いもいないままに、「日本語通じるし、とりあえず行ったらなんとかなるやろ!」と、なんとリュック1つ背負って竹田市に来ちゃったのです。
到着したその日に市役所へ行き、空き家バンクで家探しをはじめること2週間。何軒か候補の物件を見ながら早々に城下町の近くにある空き家を見つけ、続いて店舗探しを始めました。
勇介さん「自分の店を持ちたいという夢があったんです。最初は2人ともお金を貯めるために仕事をしていたのですが、働き始めて数カ月後に『長湯ダムのそばの店舗が空いてるからお店をしない?』という話をもらって。居抜きで条件もよかったので、即決でした」
こうして2015年、直入町にある長湯ダムの湖畔に、世界を巡った旅人夫婦が手がける多国籍料理カフェ「Gypsy’s mile」がオープン。今や市外からの観光客も多く訪れる人気店となっています。
定住することで知った田舎暮らしの魅力
移住して5年。平成28年熊本地震や大型台風による大雨の影響など度重なる災害に見舞われ、大変だったこともあるそうですが、それでもこの場所に住み続けているのにはどんな理由があるのでしょうか。
萌子さん「定住をすることで、人との繋がりができたこと。私たちは大阪と仙台でどちらも自治会とか田舎特有の小さなコミュニティを知らなかったので、濃い人づきあいが心地が良い。地区のおじいちゃんおばあちゃん達は良い人ばかりで野菜を持ってきてくれたり、お店に遊びに来てくれたりもしますし、最近は青年部にも入り、より地域の人と深い関わりができているなと実感しています」
勇介さん「自然を身近に感じられることは本当に良かったなと思います。草木染めをしてみたり、梅干しや味噌を作ったり、近所のおじいちゃんに野菜作りを教わったり。それは田舎の特権ですよね。ちょっと疲れたら30分くらい車を走らせて久住の高原でリフレッシュもできますし、大分市内もそんなに遠くないし。日本で暮らすならここが良いなというのがなんとなくあるんですよね」
定住することで見つけた、人と深く関わっていくことの心地よさや丁寧な暮らしの魅力。その魅力を伝え、「住んでいる場所がもっと楽しくなるように」と、長湯地域の情報発信にも力を入れています。
また最近は、新型コロナウイルスの感染拡大により、これからの暮らしについてさらに考えるようになったそう。
萌子さん「コロナが流行しはじめた春に山菜採りや野菜作りをしていたんです。毎日お店をこなしていくことばかり考えていましたけど、これからはもっと田舎暮らしを楽しみたいと思うようになって。果樹園を作って、家庭菜園を広げて、自給自足の生活ができたら良いなと考えています」
カフェをオープンして以来、慌ただしい日々を送っていた2人。新型コロナウイルスの流行は2人に、旅で出会ったモン族の暮らしを思い起こさせ、より深くこの地で暮らしていくことを考え始めるきっかけとなりました。
世界各国のいろんな場所をみて、多くの人と触れ合って来た2人が惚れた場所。
それが、名水が湧き、泉質の良い炭酸泉があり、山の幸が豊富で、美しい景色を持つ竹田市。
季節の移り変わりとともに感じる自然の情景や恵みの豊かさや、地域の方々と助け合い、関わっていくことの嬉しさ。
移住によって多くの幸福を見つけた2人は、きっとこれから先もカフェを訪れるたくさんの方たちに町の魅力を伝えながら、この地でまた新たな楽しさを開拓していくに違いありません。