大分移住手帖

温泉染めを自らの手で文化として確立したい。旅を経て別府から見据える“未来”へ。

Kg

取材者情報

お名前
ユキハシ トモヒコ
出身地・前住所
東京
現住所
別府市朝見
年齢
32歳
家族構成
2人
職業
旅する服屋さん メイドイン https://www.facebook.com/tabisurufukuya
温泉染研究所
Webサイト
https://tabifuku.official.ec
Facebook
https://www.facebook.com/BCAyaro

日本全国を旅して色々な経験や出会いを得ながら、その旅先の水や植物を使って、その土地でしかできない服を作ってきたユキハシさん。現在に至るまでには、東日本大震災のボランティアから全国各地での様々な体験があったそうです。その体験の中で気づいていった土地の本当の良さと、温泉染という技術。移住してから構えた別府にある彼の工房を訪ねました。

温泉染めの糸

震災ボランティアから日本全国を巡る旅へ。そして誕生した「旅する服屋さんメイドイン」

別府に移住するまでは、ミシンと染め物の道具を持って車で日本全国を旅していたユキハシさん(以下敬称略)。旅先には1週間から時には3ヶ月ほど滞在し、その土地の素材を使って服を作ってきたそうです。そんなユキハシさんが旅に出たきっかけは東日本大震災後のボランティアでの経験でした。

ユキハシ : 被害が酷かった石巻の被災地ボランティアに行きました。そこではまず家の泥を出す作業に従事していたのですが、家の基礎から全部なくなってしまっている場所もあったりして。方言が強くてわかりにくかった部分もあるのですが、その家のおじさんが涙ぐみながら「見てみろよ、こんなになっちまって。」と言っていて、見ると門は倒れていて、家の基礎のボコッとした石は残っていたものの、他は何にもなくだだっ広い海の見える場所という感じになっていました。元々この場所からは海が見えなかったらしいのですが、津波の影響でそのような状態になったそうで、その時の事が頭から離れず、東京に戻ってバイトをしては、東北にボランティアに行くということを繰り返していました。

何度も現地に足を運び、その土地のことを知っていくと、自ずと想像力が培われるのだなあと思ったそうです。

ユキハシ : 家が一瞬で無くなるなんて言葉では言えても感情や想像力が追いつかず、簡単には分からないことですよね。心が動かなかったのは、その土地や場所や物事のビフォー・アフターが想像できなかったからだとわかったんです。

その経験を通して、色々な土地を見て知りたくなったユキハシさんは、2011年から日本全国を旅するようになります。ここで誕生したのが「旅する服屋さんメイドイン」でした。

ユキハシ : 「旅する服屋さんメイドイン別府」というように、毎回その服を作った旅先の地名を入れようと考えて決めました。その土地の水や植物を使って、その土地でしかできない服を作っています。

別府の町並み

旅路の果てに別府へ

旅先で様々な体験を経て、色々な人達と出会い、その土地の素材でしか作れない服を作り販売して暮らす。そんな生活の中で、ユキハシさんは現在生活している別府と出会いました。日本全国を旅している中で、心境の変化がありました。

ユキハシ:薄っぺらいというか良いとこ取りをしているだけでなんだか中途半端だなあと感じていました。旅先の土地から生まれる何かができたら良いと思ってきたのですが、この考え方自体自分本意すぎるのでは?軽すぎるのでは?と思うようになったんです。

地に足をつけて畑を耕して、何が難しいか、何が大変なのかを一から経験し、風土に合わせたモノ作りをすることでわかることがあるのではないか。そこで、旅を一旦止めて、定住することにしたそうです。

ユキハシ : 拠点を一ヶ所に決めて色々経験したいと考えた時に、思い浮かんだのが別府でした。最初に別府に滞在した時に利用した清島アパート*1 もきっかけの一つだったし、その時の印象が良かったんです。日本全国を旅してきて、別府は人の距離感が近すぎず、遠すぎず絶妙な間合いのとり方があるなと感じましたね。人懐っこくて話しかけてくるけど、やりすぎてない。

別府に他の土地にはない魅力を感じて定住先に選んだユキハシさんには、別府でやってみたいことがあったそうです。

ユキハシ : 一番はやっぱり温泉染め*2 をやりたかったんですよね。全国を回ってみて、やりたいことをやらせてくれるだろうと感じたのは別府だけでした。

こうして、別府の温泉とそのコミュニティと人間性に惹かれて移住したユキハシさん。苦労したこともあったそう。

ユキハシ : 楽しさもある中で、人間関係などもあり、一ヶ所に住むことの難しさも経験しました。先に移住した知人がいたので助かりました。特に大変なことと言えば、蚊が多いことくらいですかね、今は。(笑い)

別府の日常風景

人の感覚が絶妙な別府での暮らし。

移住後に感じたのは、やはり人の間隔が絶妙だということだったそうです。

ユキハシ : 別府は観光業が7割を占める生粋の観光地で、観光客と接するのが日常故の距離感がありますね。温泉に裸で入る間隔と普段のコミュニケーションの間合いの取り方が。昔から農閑期に他の地方の人が湯治に来て、その人達と風呂に入ってきたからなんでしょうかね。それがアイデンティティとして受け継がれている気がします。同じ釜の飯のように、温泉がコミュニティサロンの役割を果たしていて、一緒に入ると仲良くなれるのだと思います。

ユキハシさんの温泉染めキット

今は服の仕立てやオーダーメイドなどで生計を立てつつ、温泉染めの研究に従事するユキハシさん。温泉染めの依頼も増えているので、これからはメインで行っていきたいとのこと。

ユキハシ : 温泉染めに関しては、まだまだわからないところがありますが、集中して研究したのでできること自体も増えました。今のところショップサイトでの販売のみで、告知はほとんどできていないですが、7月に温泉染めキットを出したら、全国各地からオーダーが来るようになりました。

温泉染した糸

そんな温泉染めの研究を通じて、別府にあるそれぞれの温泉の湯を使い、糸を染めることで、温泉の違いを可視化できたそうです。

ユキハシ : 温泉は一見ほとんど無色透明だけど、泉質が一つ一つ違うということがはっきり目で見られるようにすることができました。もっと掘り下げていけば、エリアによる効能などもわかるかもしれません。こうやって別府の温泉の違いを目の当たりにできるとは、研究前までは思いもしなかったので驚きました。

工房の壁

別府でものづくりをする方と結婚。自宅兼工房で自ら藍など育てながら暮らす日々。

私生活では、2020年9月に別府で結婚されました。奥様は別のモノづくりに取り組んでいるそうで、協力して仕事をすることもあるとの事。

ユキハシ : 新型コロナ対策のため、マスクのオーダーを多数いただきました。妻と協力して、一日中マスクを作っている時期もありました。

ユキハシさんが育てている藍

現在はその奥さんと2人で自宅兼工房にて生活しています。庭には畑もあり、自ら染料となる藍などの植物を育てています。

そんな順風満帆に見えるユキハシさんの生活ですが、現在の悩みを聞いてみました。

ユキハシ : 別府の蒸気がある温泉で自由に染める場所がないため、6畳でもいいので蒸気が出る土地を買って、地熱を使ってやりたいと考えています。小さいコミュニティなので窮屈さはあるかもしれないけど、十分に楽しめるので、人間関係などに悩みはないです。

夜の別府

あらためて別府から日本全国を巡る旅へ

今後について尋ねると、また旅に出たいとの答えが返ってきました。

ユキハシ : 別府に住んで、いかにローカルでやっていくかを突き詰めてきたので、また旅をしながら全国各地で温泉染めをやってみたいです。全国の温泉染めのアーカイブが集まったら、それでプロダクトを作りたいですね。

温泉染めで作品だけではなく商品を作れば、やりたいことがお金にもなるのではないかなと考えています。いつの日か温泉染めを文化にしたいですね。文化を作るのは人ありきだと考えています。人に理解してもらうことが大事で、人とのやり取りが文化形成の8割ぐらいを占めているのではないかなと。

温泉染めの技術が確立してきて人を巻き込めるようになったので、これからはどんどん広げていって、文化を作っていきたいですね。

何より温泉はいいですよ〜!日頃みんな何気なくせかせかしていると思うので、温泉に入ってふわふわしたらいいのじゃないかなと思います!

ユキハシさんが制作した温泉染の商品

最後に

ユキハシさんと話して感じたこと。それは、人となりには柔らかい雰囲気を持ちながらも、確固としたやりたいことがあり、それの実現のために何をすべきか明確なビジョンを持ち、行動しているという強い意思でした。充実した移住生活を送るためには、自分が何をしたいのか・移住してどのように生活するのかなどを明確にし、強い気持ちを持つことが大切なのではと思いました。

 

*1 清島アパート
大分県別府市にある戦後すぐに建てられた3棟22室からなる元下宿アパートで、現在、NPO法人BEPPU PROJECTがアーティストの活動支援の一環として運営。

via : 清島アパート http://beppuproject.com/kiyoshima/

 

*2 温泉染
温泉で植物を煮出して染料にして、糸や布を繰り返し温泉の中につけて色を染めること。植物を煮出す時間や温泉の泉質で違った独特の色合いになる。

PHOTO

  • 温泉染めを自らの手で文化として確立したい。旅を経て別府から見据える“未来”へ。
  • 温泉染めを自らの手で文化として確立したい。旅を経て別府から見据える“未来”へ。
  • 温泉染めを自らの手で文化として確立したい。旅を経て別府から見据える“未来”へ。
  • 温泉染めを自らの手で文化として確立したい。旅を経て別府から見据える“未来”へ。
  • 温泉染めを自らの手で文化として確立したい。旅を経て別府から見据える“未来”へ。
  • 温泉染めを自らの手で文化として確立したい。旅を経て別府から見据える“未来”へ。
  • 温泉染めを自らの手で文化として確立したい。旅を経て別府から見据える“未来”へ。
  • 温泉染めを自らの手で文化として確立したい。旅を経て別府から見据える“未来”へ。
WRITER 記事を書いた人

Kg

  • ウェブサイト
  • Twitter
  • Facebook
  • Instagram

株式会社モアモスト 取締役・一般社団法人まち元気おおいた 理事・Pdw 代表として、サイト・DTP・DTMなどディレクション〜制作をはじめ、ライターや撮影などの業務に従事。大分市府内5番街商店街振興組合の理事として、まちづくりにも携わる。

SC-RECS.com・クラブイベントインフォ・SCLS・DubRize・PLay・合同写真展などを主宰し、各種イベントのオーガナイズからDJやマシンライブなどまで展開中。テルミン使い。

記事一覧を見る

POPULAR ARTICLES 人気記事

CONTACT お問い合わせ

運営:おおいた移住計画

FACEBOOK

INSTAGRAM

運営:大分県