取材者情報
- お名前
- 遠藤 公誉
- 出身地・前住所
- 出身地:福岡県北九州
前住所:福岡県福岡市
- 現住所
- 玖珠郡玖珠町太田1538−4
- 年齢
- 30
- 家族構成
- 1人暮らし
- 職業
- 玖珠の杜 https://kusunomori.com
- Webサイト
- https://kusunomori.com
玖珠町には縁もゆかりもないのに、都会から単身移住してキャンプ場を起業した遠藤さん。そんな彼の話の中には、移住希望の方が持っている「知らない土地で生活する」という不安に対するヒントや答えがあるかもしれない。そう考えて、彼が運営するキャンプ & 農園 玖珠の杜を訪ねました。
農業への憧れ
ずっと都会暮らしをしていた遠藤さんですが、あるきっかけから次第に農業に魅力を感じるようになったそうです。
遠藤 : 大学が東京で都心に住んでいて、卒業後もそのまま就職して3年ぐらい生活していました。その際に、仕事で埼玉県狭山市にいく機会があり、農業を色々見せていただいて、興味が湧きました。
その後福岡へ戻り、博多駅の近くに住んで、家から徒歩5〜6分の場所にあるIT関係の会社で働いていました。平日は朝起きて出勤して、一日中PCの前で仕事する生活の繰り返しです。
週末は自分でやってみようと考え、筑紫野市で農地を借り農業をはじめました。勉強しながら、どんどんのめり込んでいきました。
起業するために玖珠町へ
農業への想いが強くなる遠藤さんでしたが、農業だけでは生活が成り立たないかもしれないという危惧もあったそうです。
遠藤 : 農業に心惹かれていましたが、それだけだと生計を立てていくには苦労するのではと思いました。とはいえ発展性はあるので、アウトドアなどと結びつければとっつきやすくなるのではと考えました。
起業するにあたって色々調べたところ、以前酪農をしていた現在の場所を見つけました。アウトドア事業(キャンプ場)のビジネス的な希望と、農業ができて、星が綺麗で、温泉があればいいなという個人的な想いもマッチした場所がたまたま玖珠でした。福岡などからのアクセスも良く、自然も豊富で魅力のあるところだと思い、移住を決断しました。
こうして希望にマッチする場所を見つけた遠藤さん。とはいえ、縁もゆかりもない場所に住むことに関して、不安はなかったのかとお聞きすると…
遠藤 : 移住についてと言うよりも、事業についての悩みや課題が沢山あり、正直移住の悩みを考える余裕はなかったです(笑)。
退職を決めた後の2ヶ月程の間は、週に2日博多で仕事をしつつ、残りは有休を消化して玖珠に通い、キャンプ場の開拓などの準備を行いながら、徐々に生活の基盤を玖珠に移していったそうです。
住んだからこそわかること
こうして玖珠町に移住した遠藤さんに、起業後の現在の仕事の状況についてお聞きしました。
遠藤 : 引っ越してきて1年、起業して半年が経ちました。現在はキャンプ場がメインの仕事で、生計が成り立っています。平日に色々な準備をして、週末は朝から晩までお客様の応対を行います。ほとんどが県外からのお客様で、毎週末平均で150名が来場され、30〜40張のテントが場内に設置される状況です。玖珠の杜はフリーサイトで、広大なスペースの中から、好きな場所にテントを設置していただけるようにしています。わかりやすくいえば自由席のようなもので、快適な場所ほど早い者勝ちで埋まっていきます。
トイレを設置し、テント洗い場を作り、牛の炊事場だった場所を利用者の調理場に改装するなどしています。とはいえ、まだまだ施設は製作中です。山もあるので、トレッキングコースを作ったりしています。施設全体は20年後に完成するイメージです。
実際に住んでみて、意外な気づきもあったそうです。
遠藤 : 住んで実感したのですが、玖珠は交通のアクセスが良いです。私の地元は北九州市なので、帰ろうと思えばすぐに帰れます。福岡市から玖珠インターまで高速で80分ほどでもあり、由布院や日田などの観光地へのアクセスもいいです。キャンプ場の多い阿蘇・九重の場合、福岡から往復で6時間ぐらいかかることを考えると、かなり利便性の高い場所だと思います。実際に県外のお客様から「ここだと近くていい」とのお声を頂くこともありました。
生活面でも嬉しい変化を感じているそうです。
遠藤 : 都会での1人暮らしが長かったので、生活のギャップは大きかったです。以前は隣に住んでいる人の顔も名前も知りませんでしたが、玖珠に住んでからは、ご近所付き合いはもちろん、生活していく上で知り合いがどんどん増えるので、都会で生活していた頃に比べて人口自体は少なくても、知り合いになる人の数は何倍にも増えました。
他にも、水道から出る水が美味しいです。ずっと都会で暮らしてきたので、いわゆる「シャワー族」でしたが、毎日温泉に入れて癒されます。福岡に住んでいた時は、高架線の近くに住んでいたため、物干し竿が真っ黒になるほど空気が汚れていましたが、それと比べると玖珠の空気は本当に美味しいです。
田舎ならではの不便さはありますが、会社員をやりながら移住することもできるかもしれません。
そんな遠藤さんは、縁もゆかりもない自分を暖かく受け入れてくれた玖珠町の皆さんに感謝しているそうです。
遠藤 : 移住や事業を始めるにあたり沢山の人に助けていただき、今の事業をはじめることができたので、玖珠の杜を玖珠に貢献できるような場所として発展させていきたいと考えています。
歴史があり、温泉が豊かで、アクセスも良い玖珠は、もっと注目されていい町だと実感しています。来場されるお客様に地域の温泉を使ってもらったり、地元の野菜などを購入してもらうことで、微力ながら地域に貢献できているかなと。今後も事業を通して、玖珠を盛り上げていければと思います。
田舎ならではのこと
起業して順風満帆に暮らしている様に見える遠藤さんに、今の悩みをお聞きしました。
遠藤 : 生活面では思っていたより不便に感じることはありませんでした。とはいえ、やはり東京や福岡で生活していた頃と比べると不便な点はあります。
例えば、都会だと移動は電車だけで事足りていましたが、玖珠では車がないと本当に生活できません。キャンプ場の運営で買い出しなどもあり、思ったよりもガソリン代がかかりますね。
また、最寄りのスーパーが潰れてしまい、買い物が不便になりました。同様にこれから5〜10年以降、生活に必須となるインフラが減って行きそうな気がしています。バスの路線がなくなったりすれば、ライフラインの確保が難しくなるかもしれないという危機感もあります。
他にも、古民家に住んでいますが、前の居住者の荷物が大量に残されていたため、それを処分するのに本当に苦労しました。今もまだ完全には終わっていません… さらに、建て付けが悪いため室内に隙間風が入り、暖房を入れても太刀打ちできないほど寒いです。
危機感の中で
今後について、仕事に関してはトライアンドエラーを繰り返しながら、しっかりと軌道に乗せて、理想の場所を作っていきたいそう。プライベートでは、現在住んでいる古民家を改修するなど、暮らしを充実させたいと考えているそうです。そんな遠藤さんは、玖珠町の現状に関して、危機感を感じているそうです。
遠藤 : 玖珠は消滅か緩やかに維持かの分岐点にある気がしています。身近でも限界集落が消滅する姿を目の当たりにしました。踏ん張れるか踏ん張れないかの境目ではないかと。今こそ若者が率先して頑張る瞬間だと感じています。玖珠の住人として当然の反応だと思いますし、これからどうなるのかというところも含めて、身を投じていきたいです。
大学や就職などは都会が多いため、若者は町から出ていくばかりで、自発的に田舎に住むという機会はなかなか少ない状況ですが、玖珠町を盛り上げたいで一心で挑戦していきたいです。
自分自身も去年の夏ぐらいまでは、玖珠の名前すら知りませんでしたし、県内はともかく県外の方はご存じないかと思います。「日田の隣、由布院の近く」と説明する必要がないよう、一般的に幅広く認知されるように、玖珠の杜を玖珠町のPRができるような場所にしていきたいです。まずは知っていただいて、人を呼び込んで、お金を落としてもらって、玖珠が活気づくようになればと。
移住で迷っている方へ
遠藤さんから移住を希望する皆さんへメッセージを頂きました。
遠藤 : 今はPCが1つあれば仕事ができる時代です。普段は田舎に住んでリモートワークをこなしつつ、たまに福岡に出社するなどの働き方も可能かと思います。
人生は長いので、その中の1〜2年は田舎に住んでみるのもいいと思います。失敗していいというわけではないかもしれませんが、難しく考え過ぎずに、飛び込んでみてもいいのではと。
玖珠は色々な街へのアクセスが良いので、九州で田舎暮らしを考えられている方におすすめです!空気は澄んでいるし、水やお米は美味しいし、温泉がたくさんあります!ぜひ玖珠にお越しください。
想いを実現するために
それまでの都会暮らしから離れて、起業のために、全く縁がない何もかも初めての田舎町へ移住した遠藤さん。普通なら誰もが躊躇する様な状況かもしれませんが、自らが抱いた想いを実現するために、身を粉にして頑張っています。
玖珠の杜をより良いキャンプ場にするために、また、恩返しの気持ちを込めて、助けてくれた地元の皆さんと共に玖珠町を盛り上げようと奮闘するその姿は、好きなことを生業にすればどんな苦難も乗り越えていけると、身を以て教えてくれている様でした。