大分移住手帖

教育と農業。豊後高田市だからこそ実現したライフスタイルで地域とともに生きていく。

青木 奈々絵

取材者情報

お名前
蔵本学(くらもとまなぶ)
出身地・前住所
東京都
現住所
大分県豊後高田市
年齢
41歳
家族構成
4人家族(妻、子供二人)
職業
個別指導 蔵本学舎
Webサイト
https://dc-kobetsu.blogspot.com/

東京大学卒業後、国会に携わり、そのキャリアを経て、豊後高田市に移住された蔵本さん。ふらりと訪れた大分での滞在がきっかけで、地域に根付いて生きていく新しい暮らしが始まりました。小さな町だからこそできた自身の塾開業と、マコモダケ生産者という二足のわらじ。地方ならではのライフスタイルに辿り着き、地域と向き合う蔵本さんにお話を伺いました。

仕事を辞めたことを機に知人を訪ねて豊後高田へ。

広島県出身、国会議員の私設秘書をされていた蔵本さん。東京で日夜働いていたそうですが、担当していた先生が落選されたことをきっかけに今後の生き方を見つめ直し、30歳の時に退職。仕事生活に一旦区切りがついた蔵本さんは、旅行がてら豊後高田市で農家民泊を営む知人を訪ねたそうです。

「最初は一週間程度遊びに行くつもりで行ったんですが、その時ちょうどグリーンツーリズム*の学生の受け入れ時だったんです。受け入れ家庭の奥さんが当時妊娠されていたこともあって、滞在しながら農業体験などを手伝うことに。結局1か月くらい滞在したんですが、農作業は自分も初めての経験でしたし、農産物の収穫やとれたての野菜を使った食事、子供たちとのふれあい、薪ストーブのある暮らしが新鮮で楽しかったですね。」

この時は特に移住を意識していなかった蔵本さんですが、翌年春に再度豊後高田市を訪れました。

「その時は次の就職先が決まっていたんですが、なぜか気が進まずにいました。大都市でサラリーマンとして勤めるという働き方がどこか腑に落ちていなかったのかもしれません。大分に来たら自然と流れが変わって、就職することをやめて、仕事も決まっていないのに豊後高田市で家を探し始めました。」

移住への基盤を作ってくれた地域の存在。

一度目の訪問で豊後高田市の町にも知り合いができていたという蔵本さんは、家探しや暮らしのことを周りの方々にいろいろと手助けしてもらったそう。当時、豊後高田市ではUターンされた地元の方を中心に移住者もいて、入り込むのにそう時間はかからなかったとか。それもすべて、基盤を作ってくれた地域の方々や先輩移住者の存在が大きかったと話してくれました。

移住してすぐは、家の改修、菜園づくりなどを日々されていたそうですが、田染荘*の情報発信員の仕事を担うことに。

「この仕事を紹介してくれたのも近所の方なんですが、移住して間もない時期だったので、地域の方と知り合うきっかけになればと思ってお受けしました。国の重要文化的景観に選定されていた田染荘ですが、当時はホームページもなく、自分自身も田染荘のことをよく知らなかったので、働きながら地域のことを知ることができました。任期は最長1年間だったので、ホームページを制作するなど情報発信を行う等して、その間に今の仕事を始める準備を進めました。」

塾の講師とマコモダケ農家の二足のわらじを履いて地域と関わる日々。

今は自身が営む塾の講師と、マコモダケ栽培農家、それ以外の時間を使って荘園の里推進委員会事務局長などの地域の活動をされているという蔵本さん。一見繋がりがないように見えますが、そこには田舎暮らしならではのライフスタイルがありました。

「塾での授業は学校が終わった後の夕方以降 なので、午前中や空いた時間を使って農作業、地域の活動などをしています。本業や家族サービスもある中でどうやったら効率よくできるかなとか、試行錯誤して作業することは大変ですが、充実していますね。」

田染では地域の至る所に案山子(かかし)が展示されているのを見ることができますが、「田染案山子コンクール」を開催してスタンプラリーやフォトコンテストを行うなど、地域を盛り上げる活動をしているのも、実は蔵本さん。また、世界農業遺産国東半島宇佐地域の象徴でもある田染荘のブランド米「荘園米」の販売窓口としてお米の注文販売等のやり取りも引き受けているのだそう。さらに、昔ながらの稲の手植えや手刈りが体験できる「田染荘御田植祭」「田染荘収穫祭」の準備にも取り組んだり、若い方にも田染に来てもらおうと「荘園マルシェ」を立ち上げたりもしたとのこと。

暮らしていくうえで地域との関わりは切り離せなく、これから移住してくる方が受け入れてもらいやすくなるよう意識して地域の仕事をできるだけ率先してやるようにしているのだといいます。

田舎であることを理由にしない。教育の現場で自分ができること。

人口2万人規模の豊後高田市では大手の塾がないことを知り、それなら自分が塾を始めようと、移住した翌年より個別指導塾「蔵本学舎」を開業した蔵本さん。現在生徒数は中高生約50名。国公立大学へ毎年合格者を出していることなどが評判を呼んだためか、市内に限らず、近隣の宇佐市や杵築市から通う生徒たちもいるのだとか。

「田舎だと教育環境を心配される親御さんも多いですが、豊後高田市は市営の塾『学びの21世紀塾』を開講して高校受験生の受験対策もするなど、教育に力を入れているまちです。私も移住直後から講師を務めていますが、首都圏の教育事情なども少しは知っている自分が教育を盛り上げることで、移住してくる家族がさらに増えて、教育レベルがさらに上がるのはいいことだなと。自然豊かな田舎にいても教育環境が不利にならないよう、子供たちの選択肢が増えるよう自分が少しでも力になれれば嬉しいですね。」

豊後高田市で2軒となったマコモダケ農家。9年目を迎えて感じる生産者ならではの特権

蔵本さんが栽培を行うマコモダケは、豊後高田市の特産物とされていますが、生産農家は現在2軒のみ。蔵本さんは以前の農家さんより田んぼを引き継いだり、耕作放棄地をマコモダケの田んぼとしてよみがえらせたそうです。最初は新たに始めようとする方の事務作業の手伝いをするというお話だったのが、縁あって自分自身が栽培することになったんだとか。田舎暮らしをするにあたって農のある暮らしにはとても興味があったので、良いタイミングでお話がきたのだそう。当初は後継者ができるまでと栽培を始め、まさかこんなに長くやるとは思ってなかったそうですが、生産農家となって9年目。今では蔵本さん自身が後継者の一人となっています。

「マコモダケってイネ科なので、お米みたいに田んぼで育てるんですよ。でも稲作と違って大きな機械が要りません。植えるのも収穫も全て手作業なんです。何百万円もする機械を購入して始めるのは大変だし、マコモダケ栽培だけで生計をたてようと思うと難しいけど、そうではないから農家としても楽しめていますね。体も動かせて、いい運動ができています。おかげさまで体重は高校生のときと同じくらいです!」

すべて手作業、そして無農薬無化学肥料で育てているという栽培。「無事収穫できて、食べた方にとても美味しかったと言ってもらえたときは、心底うれしく、楽しいですよ。」と笑顔で話す蔵本さんですが、自然を相手にする農作業はそう簡単ではないはず。マコモダケの旬はとても短く、9月末~10月の約1ヶ月間。それでいてあまり広く知られておらす、調理方法を知らない方も多くいるため、収穫後は別府市の旅館やレストラン、豊後高田市内の飲食店などマコモダケを熟知しているお店に直接卸しているのだそう。

「普段なかなか出会うことのできないような料理人の方々に会って、自分の作ったマコモダケが思ってもなかったような素晴らしいお料理になるのを見ると感動しますよ。メニューでは出さないようなものをその場でパッと作ってもらったりして、生産者の特権ですよね。『ななつ星in九州』でも腕を振るうシェフの方にもお渡ししているので、マコモダケが各地を旅していると思うと嬉しいです。自分より先にマコモダケが『ななつ星』に乗車しちゃったな、という感じです(笑)」

今後の暮らしについて伺うと、「先のことはいちいち考えない」と話す蔵本さんは、住む場所も仕事も常に目の前のことに向き合い、この場所に行き着いたのかもしれません。豊後高田市の場所を多くの人に知ってもらって、足を運んでもらって、この地域に還元して行きたいと語ってくれました。

最後に

田舎暮らしは思っているよりずっと忙しく、イメージしているようなスローライフとは違ったりします。そんな中でも自ら率先して地域に関わっている蔵本さんの言葉からは、地域の方々への尊敬と感謝の気持ちが印象的でした。そうして話す蔵本さんご自身もまた、教育現場と農業、地域活動という3つのフィールドでこの地域を支える一人となっていました。こうしてこの町に惹かれ移り住む人の手によって、より魅力的な場所になっていくのだと感じました。

*グリーンツーリズムとは、農山漁村に滞在し農漁業体験を楽しみ、地域の人々との交流を図る余暇活動のこと。長期バカンスを楽しむことの多いヨーロッパ諸国で普及した。

*田染荘とは、豊後国国東郡にあった宇佐神宮の荘園。平安時代、鎌倉時代の集落や水田の位置がほとんど変わらずに残されているとされる。 平成22年に「田染荘小崎の農村景観」として国の重要文化的景観に選定された。

WRITER 記事を書いた人

青木 奈々絵

大分県杵築市へ移住。地域おこし協力隊として移住支援活動を行う。国東半島に伝わる七島藺(しちとうい)に惹かれ、工芸の技術を習得し、杵築七島藺マイスターとしても活動している。農家民泊の開業を目指して、築150年の古民家をセルフリノベーションに奮闘中。

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