取材者情報
- お名前
- 佐々木一誠、まみ
- 出身地・前住所
- 鹿児島県鹿児島市
- 現住所
- 大分県竹田市
- 年齢
- 41(一誠)39(まみ)
- 家族構成
- 夫婦
- 職業
- ヨガインストラクター『suku yoga space』、ヨガインストラクター・音楽家
移住のきっかけは人それぞれ。移り住む土地に縁もゆかりもなく、初めから前向きなことばかりでもなかったり。今回ご紹介する佐々木夫妻も、様々な気持ちの変化を経て、竹田市への移住を決められました。足を踏み入れてからは、背中をやさしく押されるようにスムーズに話が進んだとか。新しい土地で、自分たちのやりたいこと、信じる道をまっすぐ見据えて進む2人。周りと調和しながら、竹田という土地に日々可能性を膨らませ、暮らしている様子をご紹介します。
東日本大震災をきっかけに本当にやりたいことを考え始め、ヨガや瞑想に出会ったことで人生を再考。
ご主人の一誠さん(以下、一誠さん)は、鹿児島県出身で高校卒業と共に故郷を離れ、しばらく東京で過ごし、その後一度帰郷しました。
「東京で自由気ままに過ごしていた20代中頃に鹿児島に帰って、環境や社会の問題に対して自分なりにできることをしなくてはいけない、と思うようになりました。法律関係で環境に良いことをしたいと思い勉強するようになりました。。」
関西の大学院へと進み弁護士を目指しましたが、その時に起こった東日本大震災を機に自分の人生やこれからの生き方を真剣に考え直す中で、ヨガや瞑想に出会いました。その後、司法試験受験は辞め、鹿児島に戻ってエネルギー関係の仕事に就きました。
奥様のまみさん(以下、まみさん)は、岐阜県出身。大学時代を京都で過ごし、その後も京都、和歌山などで暮らしていました。大学時代に加入していた音楽サークルがきっかけで、音楽活動を開始し、卒業後は本格的に活動していました。結婚と同時に鹿児島へ移り住み、自然エネルギー※1関係のプロジェクトに携わっていました。
インドでのヨガ修行後、電力事業プロジェクトに誘われ竹田市へ移住。
会社を辞め、直感的にインドに行ってヨガをしたいと閃いた一誠さん。1人インドへ行き、ヨガや瞑想にどっぷりと浸かったことで、自分の偏った考え方やこだわりがなくなり、帰国後誘われていた竹田市の電力事業のプロジェクトに参加することが決まり、移住を決意しました。
移住を決断した際、実はまみさんは賛成ではなかったそう。
まみ:最初、すごくしぶってました。竹田市が嫌だったとかではなくて、やっと友達もできて少し慣れてきた頃だったから鹿児島にまだいたかったんです。竹田市がどんなところかも想像できなかったし、山や温泉があるところなら、故郷の岐阜県に行きたいって思ったんです。
結局、ほぼ情報を得ないまま夫婦で竹田市へ。2泊3日で、竹田市や近郊を巡って過ごすと、夫婦共に「良いところだな」と思ったそうです。特に一誠さんに印象深く残ったのが、竹田の城下町の庖丁塚のてっぺん。ヨガマットを持って行き、1人でヨガをした時に、直感的に“いいな”と思ったのを、今でも覚えているそうです。その後、移住に向けてすいすい話が決まっていきました。
温泉がある暮らしの特別感を贅沢に感じながら、早速自主企画のイベントも開催。
竹田市の中でも温泉で有名な長湯に家を借り、暮らしをスタートさせた2人。一誠さんは、まちづくり会社で電力事業の立ち上げに関わり、地域の人たちの電力事業というものへの理解も低かったために、説明にかなり時間を要することも多かったそうです。また、初めての場所なので道や方向もわかりにくい、誰に話に行くのがいいのか、などわからないことも多かったといいます。まみさんも、家の片付けや知人の誘いでカフェのバイトを始めるなど、忙しくされていたとか。それでもお二人にとっては、暮らしの充実度が高かったそうです。
一誠:今でもありますけど、長湯に最初移住した時の“観光地に住んでる感”という特別感や、炭酸泉に毎日入れるとか、本当に贅沢だと思っています。
移り住んで間もなく、音楽家のまみさんの繋がりで、エストニアのミュージシャンを呼んでイベントを開催した2人。集客など様々な不安がありつつも、「彼女達の音楽を、自然に近いところで聞いて欲しい」という強い思いがあり、特別に地方開催という形にこぎつけたそうです。竹田市での開催に奔走した結果、登壇してくれた彼女達も非常に楽しみ喜んでくれる結果に。移住したばかりの竹田市でもやりたかったことの一歩を踏み出すことが出来ました。
夫婦2人で行ったインドでのヨガの学びや経験が、今の暮らしや生き方に生かされる。
もともとそれぞれでヨガをしていた佐々木夫妻。竹田市に移り住んでからは、自分達がするだけではなく、お二人で指導する立場へと進みました。移住から半年後に2人でインドへ行き、まみさんは学校に通い、“音のヨガ”と呼ばれる【ナーダヨガ】※2 を学びました。一方、一誠さんは学校で個人レッスンを受けるなど、ヨガと瞑想の日々を過ごしたそうです。
インドに滞在した年に大きなヨガフェスティバルが開催されました。まみさんはヨガフェスティバルで、環境活動家のヴァンダナシヴァ博士にお会いした時のことを話してくれました。
まみ:ヴァンダナシヴァ博士は「コミュニティを耕しなさい」と話してくれました。コミュニティは「カームユニティ(calm unity)=静かな融合」であり、ヨガであり、すごく大事だということを話されていたのにすごく感銘を受けて帰ってきたんです。
帰国後、イベントやヨガフェスに主催者側として参加するようになったお二人。その中で本場インドで学んだヨガの考え方を、もっと世の中に表わしていきたいと、農業や食べ物への繋がりを感じてもらうため、自然農をする友人を招く企画を実施したことも。他にも、日本でキールタン※3 を広めた第一人者を招いたり、自分たちの交友関係を広げ多くの方を竹田市に引き寄せていました。
ヨガが暮らしの中心へと加速するなかで、さらに新しい活動がスタート
竹田市に移り住み、自然に近い場所でヨガを暮らしの中心に据えるようになった佐々木夫妻。久住の山々などが北インドやヒマラヤ近くに似ていると感じるそう。竹田市周辺は「九州のチベット」と言われていることもあり、どこか懐かしいような気持ちと共にパワーも感じるそうです。特に住まいのある長湯は、お二人で行かれたダラムサラという自然が豊かで、自然の恩恵がある町のようだとか。インドの人たちがガンジスと共に生きているように、ここでは水、温泉という恩恵が暮らしの中にあるといいます。
この豊かな環境の中で、お2人は2019年5月、ヨガの指導や教室などを行う「suku yoga space」を立ち上げて活動をスタートさせました。
「suku」という言葉は、サンスクリット語の「sukkha」という言葉からきていて、「よどみのない、幸福で満たされた空間」という意味があるそうです。日本語にもある「空く」という言葉にも通じています。
社名には「ヨガや瞑想を行えるようなちょっとの時間を作り、そこによどみのない幸福で満たされた空間を少しでも感じられることで、その人にとってもコミュニティにとっても、地球にとっても、本来の自然な姿に戻れるようなきっかけになってほしい」という想いが込められているそうです。
ヨガの活動と同時に、音楽活動もされているまみさん。「地球が継続していくためにも、人々が心身ともに健やかだということがとても大切」だと考えています。純粋に自分たちが本当に素晴らしくて楽しく、面白いと思える環境を表現することを大事にしながら、音楽作品やサウンドインスタレーション※4 などの活動を続けられるそうです。
竹田という場所を生かした心のゆとりづくりをしていきたい。
まみさんは、エストニア人の暮らし方がこれからの日本人にとってとても参考になると感じています。この国は、世界一デジタルが進んでいる国と言われると同時に、自然の中で遊ぶことや家族同士の繋がりを大事にしたり、伝統音楽や伝統の刺繍を守っていこうという活動も盛んなのだとか。一方、日本は急激にデジタル化が進んだものの、自然を大事にしようという意識はまだあまり感じられないと言います。
今は、あらゆる面で余裕がない人が多く、少しでも自分の心と身体が寛いだ状態を感じてもらえるように、ヨガや瞑想、そして音楽という手段でサポートしていきたいそうです。その上で、竹田市という土地条件も生かし、五感を使ったプログラムの開発や企画作りも積極的に行っていきたいと考えています。
大分にはヨガの考え方を日本の文化や風土に落とし込んで教えている方がいて、一緒に学んでいける恵まれた環境なのだそうです。可能性が詰まったこの地で展開される今後の暮らしが楽しみですと語ってくれました。
最後に
お二人ともやわらかくてオープンハート。とても真が強くて、まっすぐスルスルと人と繋がり交友関係を広げながら、充実した竹田暮らしを送っているなと感じました。何かに導かれるようにこの地にたどり着き、思い描く生き方を少しずつ着実に積み重ねているお二人のこれからの活動が、とても楽しみです。
※1 自然エネルギー
太陽光や熱、風力、潮力、地熱など自然現象から得られるエネルギー
※2 ナーダヨガ
ナーダ(音の)ヨガ。音や声、呼吸や身体の動きを使って心と身体を緩め、本来の自然で調和的な状態になっていくためのヨガ。
古典をもとにしているが、身体知性、感情知性を育むとして近年注目されている。
※3 キールタン
インド版賛美歌、ミュージックメディテーション、音ヨガ、うたうヨガとも呼ばれる。
マントラを繰り返し聴いて 唄うことで、思考からの解放を手助けてくれる楽しい瞑想法。
※4 サウンドインスタレーション
時間よりも主に空間に規定される、音を使う芸術。室内や屋外に音響を設置することで、その空間や場所・環境を体験させる表現形態をとる作品。