大分移住手帖

便利すぎない暮らしを求めてサラリーマン生活から林業の道へ。

青木 奈々絵

取材者情報

お名前
室橋 春樹(むろはし はるき)、智美(ともみ)
出身地・前住所
神奈川県
現住所
大分県日出町
年齢
40代
家族構成
夫婦
職業
(春樹さん)森林組合勤務、(智美さん)看護師

通勤途中に目にした広告で林業に興味を持ち、「おおいた林業アカデミー*」の制度を利用して移住した室橋さん夫婦。都会での生活から一変、車社会で方言の飛び交う大分へ飛び込みました。自然に近い暮らしを求めて豊かな生活を目指す室橋さん家族にお話を伺いました。

電車の中吊りで見た「職人」に憧れ林業の道へ。

現在、森林組合に勤めている春樹さん。もともとは首都圏を中心に、営業職として会社勤めをしていたそうですが、転勤を重ねる中で自然豊かな場所での暮らしを経験し、山や温泉が身近にある生活に惹かれるようになったんだとか。

木のぬくもりが感じられるリビングにはあたたかな光が差し込む

春樹:通勤途中、電車の中吊り広告で林業に携わる仕事のガイダンスがあることを知り、興味を持ったのがきっかけです。実際に参加してみて、林業の知識や技術を習得することができる「林業アカデミー」という研修があることを知りました。様々な地域で実施されている制度でしたが、せっかくなら今までの生活圏から遠い所へ行ってみたいと思い、九州地方で探しました。

大分県にも「おおいた林業アカデミー」があります。年齢制限などの募集条件にも合致したことや、当時足を運んでいた移住フェアでの大分の印象が良かったこともあり、申し込みを決めたそう。また、移住相談のために通っていた「ふるさと回帰センター*」では、大分県の相談員が各自治体との調整を細かに行ってくれたりと、とても心強かったと言います。

庭先には薪ストーブ用にたくさんの薪が積まれている

2016年に「おおいた林業アカデミー」の一期生となった春樹さん。研修先では刈払機やチェーンソー、クレーンなどの重機の使い方まで学ぶことができ、研修期間の約1年間で林業に必要な多くの資格を取得できたそうです。「職人という存在に憧れがあった」と話す春樹さんは、自然相手に厳しい現場のなかで得られる仕事のやりがいを感じていると言います。

都会での生活から、方言が飛び交う車社会の大分へ。

「おおいた林業アカデミー」の研修先は由布市だったため、通いやすさを考慮して住む地域を決めたそう。都会での生活が長かった智美さんは車の運転に不安があったため、自転車やバスで生活ができることや、看護師として働くことも考え、別府市の空き家バンク物件へ移住することに。地元の方が多く住む集落での暮らしは、地域の方が気にかけてくれたりと、恵まれた環境だったそうです。

智美:移住したばかりの頃は大分の方言がわからないことが多く、理解できるまでに時間がかかりましたね。私は病院での勤務なので地元の方と接する機会が多く、同僚や友人に聞いたりして少しずつわかるようになっていきました。

別府湾を望む日出町での暮らし。日々を彩る温泉コミュニティ。

現在は別府市の隣の日出町に住まいを移し、昨年新居が完成したという室橋さん家族。日当たりのいい家全体に木のぬくもりが感じられ、リビングの中心にはあたたかな火が灯る薪ストーブが置かれていました。

春樹:せっかく自然に近い場所に越してきたので、日常に自然を感じられる場所に住みたいと思って土地を探していました。日出町は小高い場所に住宅地があってどれも南向きなので、とっても陽当たりがいいんですよ。

別府八湯温泉道名人*の称号を取得するくらい温泉好きだという室橋さん夫妻。地域を知るためにいろんな温泉に通っていたそうですが、自然と地域の方と顔見知りになったり、情報交換をしたりと温泉コミュニティを楽しんでいるそう。

リビングに佇む薪ストーブ

智美:お湯に浸かりながらお話をして、地域のことや野菜の育て方、料理のことまでいろんな情報交換ができて楽しいですよ。都会ではなかったコミュニケーションが、ここでは日々の暮らしに繋がっています。

ものに溢れた生活から、自分たちでつくる暮らしへ。

智美さんが制作したした竹細工のかごたち

お米を収穫した時の様子

大分に移住して5年目を迎える室橋さん家族。都会での生活が長かったお二人ですが、移住してから、日頃の暮らしも大きく変わったそうです。

智美:大分に来てから、時間やお金の使い方が変わりました。以前はお店や物があふれていたので意味なくお店に寄ったり、無駄に買い物をしてしまうことが多かったけど、こっちに来てからそういうのがなくなりましたね。時間に余裕ができた分、薪ストーブを楽しんだり、竹細工の教室にも通っています。自分たちのしたいことや暮らしを豊かにする時間をもてるようになりました。

畑には季節ごとに野菜やハーブを育てている

自宅の庭では小さな家庭菜園をつくり、野菜やハーブを育てているという室橋さん。昨年から友人とともに米作りを始めたそうで、今年は2年目に挑戦。自然災害や山からの獣対策をしたりと悪戦苦闘しながらも、食糧を一からつくる大変さを日々実感していると言います。

春樹:暮らしに関わることを、できる限り自分で作っていきたいと思っています。自然にあるものを利用したり、あるもので賄えるような便利過ぎない生活を送りたい。少しずつだけど、そんな豊かさで成り立つ暮らしを築いていきたいです。

最後に

都会での生活から一変し、自然を相手に働き、自然とともに暮らしを営む室橋さん家族。新しい環境で積極的に人と関わり、興味惹かれることを実践している姿が印象的で、そんなお二人だからこそ、自分たちが思い描く暮らしが少しずつ実現しているのだと感じました。室橋さん家族の暮らしがこれからどんな風に彩られていくのか、見守っていきたいですね。

*林業アカデミー

森林組合や林業会社などの林業分野への就業を目指す方や林業を新たに始めようとする方を対象とした、林業の知識や技術を習得する1年間の研修。

*ふるさと回帰センター

東京都にある移住相談センター。全国45道府県の地域情報をそろえ、地方移住や田舎暮らしをしたいみなさんをサポートしている。

*別府八湯温泉道名人

別府市の約140湯の共同温泉やホテル旅館の温泉が参加している「別府八湯温泉道」の中の88湯をめぐり、「スパポート」と呼ばれるスタンプ帳にスタンプを集めることで与えられる称号。

WRITER 記事を書いた人

青木 奈々絵

大分県杵築市へ移住。地域おこし協力隊として移住支援活動を行う。国東半島に伝わる七島藺(しちとうい)に惹かれ、工芸の技術を習得し、杵築七島藺マイスターとしても活動している。農家民泊の開業を目指して、築150年の古民家をセルフリノベーションに奮闘中。

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