大分移住手帖

二度の移住で辿り着いた「シンプルな暮らし」を目指して。

青木 奈々絵

取材者情報

お名前
佐藤 千恵子(さとう ちえこ)
出身地・前住所
東京都
現住所
大分県日出町
年齢
50歳
家族構成
3人家族(夫、娘)
職業
ヨガ講師

一冊の写真集に出会い、興味を惹かれた国東半島での田舎暮らしが始まった佐藤さん。限界集落での家探しと、地域づくりのために奮闘した日々。あらゆることに挑戦した上で、ヨガ講師としてシンプルな暮らしを目指し始めた佐藤さんは二度移住したのだとか。その経緯を伺いました。

一冊の写真集がきっかけで、車に荷物を詰め込んで親子二人で大分へ。

東京都出身の佐藤さん。カメラマンとして雑誌や写真集の撮影を手がけるなど、主に創作活動を行っていたそうです。そんなある日、友人が見せてくれた一冊の写真集をきっかけに、大分に興味を持つようになったのだとか。

「国東半島に住んでいる船尾修さんの『カミサマホトケサマ*』という写真集を見て、興味を惹かれて、大分に行ってみたいと思うようになりました。一度遊びに行くつもりで大分に行くことにしたんですが、大分に住む友人が『短期間なら家を使ってもいいよ』と言ってくれて。まだ大分に住むかどうかもわからなかったけど、せっかくなら全国各地を旅しながら九州まで行こうと思い、当時小学生だった娘も学校をやめて、家の荷物をすべて車に詰め込んで大分を目指しました。」

全国を旅しながら、約半年かけて大分に辿り着いたという佐藤さん。友人の家を拠点にしながら生活を始めました。日々暮らす中で、いつしか自分たちの家を探すように。土地勘もなく、まだ空き家バンクの制度もなかった頃で、知り合った地元の方が紹介してくれたものの、家探しには相当苦労したと言います。

「東京から来た母子二人というのは不審がられるのか、貸家を断られることもありました。限界集落でまだ移住者もいない時期だったので、受け入れる体制が整っていなかったんだと思います。それでも、集落の美しい景観がすごく気に入って、おにぎりを持って家を探し歩いたりしていました。そうして出会った当時の区長さんが移住にとても理解のある方で、車一つで飛び込んだ私たちを優しく受け入れてくれました。」

今も昔の里山風景が残る豊後高田市の集落

少しずつ集落にも移住者が増えた頃、国東半島周辺に住む仲間とともに地域を盛り上げようという動きがあったそう。美しい景観や残していくべき素材を、より持続可能な形で伝えていこうと、毎週のように仲間で集まり、地域のマップをつくったり、様々な取り組みをしていたんだとか。

「初めての田舎暮らしを全力で邁進した時期でした。自然と共存する暮らしは、文化や習慣の違いもあって、都会で育った自分にはまるで外国のような暮らしでした。大変だったことや乗り越えたこと、たくさんの体験は、時間の経過とともに喜びになっていきました。私にとって、人生の宝物です。」

ライフステージに合わせて日出町に暮らしを移す。

自宅の畑で育つたくさんの野菜。目の前には別府湾が広がる。

豊後高田市に移り住んでから、1軒目は2拠点生活をする友人の家を一時的に借りて住んでいた佐藤さん。2軒目は、知り合った地元の方の力添えもあって「次の家が見つかるまでなら」と、住む場所を得る事ができました。3軒目は、全国に展開しているエコハウスモデル事業*の管理人を担うことになり、1年間住み込みをしながら管理人をしていたそう。そうして豊後高田市で過ごした約5年間で、3軒の家を転々としたという佐藤さん。いよいよ次の住まいを考えた時に、別の地域での暮らしを考えるようになったんだとか。

地域にも馴染んできた頃ではあったものの、娘さんが高校進学のタイミングだったため山奥の集落から毎日の通学は難しいと感じていたそうです。加えて、田植えや収穫などの季節行事や集落ごとの寄り合いが多い地域での暮らしは日常での負担も多く、限界を感じたそうです。そんな時、たまたま立ち寄った不動産屋さんで、娘さんの通学や病院・駅へのアクセスなど、希望条件に合う物件が見つかって、今の家に移ることになったんだとか。

「なんだかんだ都会っこだったので、バランスがとれた今の生活はとても心地よいです。地域にどっぷり浸かって、自分から地域活動に参加する暮らしも刺激的だったけど、年齢や家族の環境によって暮らしも変えていくことがいいのかなと思います。」

心の支えとなった国東半島のお寺の存在。

現在はヨガの講師として活動する佐藤さん。日出町を拠点にクラスを持つ他、保育園や小学校などの教育現場や、各地でワークショップを開くなどして活動しています。外国人ツーリストへのリトリートツアー*や、インドでの経験を活かしたスパイス家庭料理の講座を開催するなど、さまざまな取り組みをしてきたそう。

日本ではスタジオなどで行われることの多いヨガですが、ヨガの発祥国であるインドでは寺院で行われることが多く、佐藤さん自身も国東半島の寺社でヨガを行うこともあるんだとか。

「ヨガは身体のエクササイズに限ったものではなく、ライフスタイルそのもの。身体が整うと、自然と心も整います。富貴寺さんや両子寺さんなど、国東半島のお寺さんにはいろいろな活動に協力していただき、とても感謝しています。移住するうえで心の支えになり、おかげで大分を故郷と思えるようになりました。」

やりたいことをやり尽くしたからこそ見えた、シンプルな暮らしを目指して。

大分に移住して12年目となる佐藤さん。移住当初は小学生だった娘さんも大学生になり、春から一人暮らしを始めるそう。大分で出会い再婚されたご主人との二人生活となり、これからまた新たな暮らしが始まろうとしています。

「初めて大分に来たときは、東京とは全く違う環境のなかで、今までの自分の考えや生活をすべてリセットして田舎暮らしに臨みました。バイタリティ溢れて行動し、周囲の人たちと何かを生み出すことも大きな歓びだったけど、それを経験したからこそ、これからはいろんなものを少しずつ取り払うように生活していきたい。一つ一つと丁寧に向き合えるような、シンプルに暮らしたいなと思っています。」

これからがスローライフ本番だという佐藤さん。自然に寄り添って、1日1日を豊かに暮らしたいと語ってくれました。

最後に

都会の生活から、親子二人で限界集落に飛び込んだ佐藤さん。初めての田舎暮らしでは家探しや古い家で暮らすことの大変さに直面しつつも、自分の暮らしにあわせて環境を変えていく柔軟さが素敵だなと感じました。たくさんの経験を積んできたからこそ思う、佐藤さんの「シンプルな暮らし」。これからどんな日々が繰り広げられているのか、楽しみです。

*船尾修「カミサマホトケサマ」

大分県在住の写真家。第9回さがみはら写真新人奨励賞を受賞している。

*リトリート

仕事や生活から離れた非日常的な場所で自分と向き合い、心と身体をリラックスさせるためにゆったりと時間を過ごす旅のスタイル。

*環境省エコハウスモデル事業とは、「環境基本性能の確保」「自然・再生可能エネルギー活用」「エコライフスタイルと住まい方」の3つのテーマを基本的な考えとした上で、地域の特性を十分に活かした家づくりを目指しており、豊後高田市では地域住民にエコハウスのメリット等を直接体験してもらうため、展示見学会等の普及啓発を行いエコハウスの需要を創出し、環境負荷の少ない地域づくりを行っている。

WRITER 記事を書いた人

青木 奈々絵

大分県杵築市へ移住。地域おこし協力隊として移住支援活動を行う。国東半島に伝わる七島藺(しちとうい)に惹かれ、工芸の技術を習得し、杵築七島藺マイスターとしても活動している。農家民泊の開業を目指して、築150年の古民家をセルフリノベーションに奮闘中。

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