大分移住手帖

山香の懐の大きさ、振り返ってみると計画より直感だった。

熊代 はるか

取材者情報

お名前
牧野史和さん(まきのふみかず)
鯨井結理さん(くじらいゆり)
出身地・前住所
牧野史和さん(山口県)
鯨井結理さん(埼玉県)
現住所
大分県杵築市
年齢
牧野史和さん(30代)
鯨井結理さん(30代)
家族構成
牧野史和さん(独身)
鯨井結理さん(独身)
職業
牧野史和さん(山香文庫オーナー)
鯨井結理さん(ヨガインストラクター兼結日(むしび)主宰)
Instagram
https://www.instagram.com/yamagabunko/ 

風情あふれる城下町で知られる杵築市の農村部、山香エリア。そこで農家民泊「山香文庫」を営む牧野史和さん(以下、史和さん)と鯨井結理さん(以下、結理さん)。首都圏での生活も経験したことのある彼らを引き寄せた杵築市山香の魅力へ迫りつつ、山香文庫に込められた想いを伺いました。

杵築市に一目惚れ。農業への情熱を注げる場所を探して。

2014年、東京で身体表現(ダンス)を学んでいた史和さんは大学卒業後の進路を考えていました。友人の大半が選ぶ企業勤めへの道ではなく「農業の世界へ行きたい」。これが史和さんが唯一自身の中で決めていたことだったそうです。就職活動中のある日、東京ビックサイトで行われていた移住フェアに足を運んだ史和さん。そこで、偶然手に取ったパンフレットに写っていた杵築市の城下町に強く惹かれたと言います。

それまで大分県には足を運んだことがなかったという史和さんが、はじめて杵築市の地を踏んだのは、なんと地域おこし協力隊に赴任してからのことでした。

史和さん「全然知らない場所でしたが、まさに一目惚れでした。新しい地へ訪れることに一切の不安はなかったですね。むしろ、農業を発信していきたいという気持ちが上回ってました。ただ、当時は協力隊の任期を終えた後に完全移住するかは決めていませんでしたし、杵築市の人になりきっていない外の人間だからこそ、農業に集中できるかな、とも思っていました。」

「こんな暮らしがいいな」が見つかった2年目。

1年目の活動を通して杵築市の魅力に引き込まれた史和さんは、本格的に移住を決めることにしたそうです。都会で抱いた「農業をしたい」という情熱からはじまった杵築暮らし。協力隊の活動を通してさまざまな杵築市の側面を見ることで、これから実現したい暮らしが、この場所にあると感じ始めたそうです。史和さんが語る、移住の決め手は次の2つでした。

“山が香る”という地名のとおり、静寂で自然に還れる場所であったこと。

山香文庫の庭からの一枚

現在、お二人が住まれている山香町は静寂に包まれた場所。朝は里山の景色を見ながらヨガや体操で一日が始まり、縁側からは山あいから届く光がいつもあたたかく山香文庫を見守っています。「住んでいる場所が、山が香る場所というのも素敵な地名だなと思って」と語る史和さんの表情からは、この場所で暮らしていることへの喜びがにじみ出ていたことが印象に残りました。

国東半島の南端に位置する山香は、山や谷に囲まれ、杵築市の城下町や隣接する宇佐市・豊後高田市などの歴史・文化を感じられるエリアにも近く、非常に恵まれた環境にあります。

昔から変わらない山香の人のあたたかさを感じるような文化

かつて山香は金山で栄え、鉱夫がたくさん暮らしていたそうです。人の往来も多く、その名残りがあるのか、いまも遠方より来た人々を受け入れる温かさを感じると言います。山香の人があたたかいと思えた印象的なエピソードってあるか聞いてみました。

史和さん「地元の人間でもない、外から来た僕でもよくご飯を誘ってくれたり、結婚式にも呼んでくれます。何より、山香の人は彼らの時間をお裾分けしてくれるんです。例えば、稲の配達をしているおじいちゃんが、山香から車で30分もかかる安心院の観光地へ連れて行ってくれたこともありました。杵築市役所で働かれている職員さんが遠方へ連れて行ってくれたことも。昔から、杵築市ではこうやって人を受け入れてきたことで、あたたかさが出来上がっていたんだと思うんですよね。」

いつの間にか住む家を探していた3年目

2年間の協力隊生活を経て、気づけば移住するための家を探し始めていたという史和さん。最初は休日のドライブで空き家を見て周り、気になった空き家の近所にお話を聞きながら「家を探している」と周りに伝えるようにしていたところ、まるで自分の家族のように親身になって協力頂いたそうです。

史和さんが空き家を探す上で自身の家の条件としていたのはこの3つ。

・古民家であること
・景色がひらけていること
・石垣があること

この3つにこだわり抜いて山香の人々のおかげで現在住んでいる家を見つけることができたそうです。その空き家に訪問したのは冬の夕方頃で、縁側から差し込んだ夕日を見て、決断したそうです。

史和:僕からのアドバイスは住みたい家が見つかったら、ご近所さんにアタックするべし!

結理さんが山香と出会うまで

パートナーの結理さんは、かつて移住地を探すために日本中を旅していたそうです。
沖縄、屋久島、鎌倉・・・各地を転々としながら、現代から浮世離れした、理想郷のような土地を求めていたそうです。

結理:理想の移住先を見つけるために各地のゲストハウスに滞在したり、惹かれる土地には積極的に足を運んでみたんです。」

そこから結理さんは徐々にこの土地に住むイメージを膨らませて行きました。

結理:はじめは、海や山、川といった自然環境を求めていました。理想は高台にあって、風の抜けるような平屋。いろんな場所に訪れて分かったことなんですが、先に挙げたような条件に当てはまる場所は、たくさんあったんです。だからもっと、具体的な条件で絞り込もうとしました。

例えば、こんな感じでより具体的に条件を定めていったそうです。

・しきたりや習慣がほどよく残り、ご近所さんと心地よい人間関係があること
・地元の方が大事にしているアイデンティティや価値観があること
・移住者に対する支援や補助金など受け入れ体制が整っていること
・結婚や出産に対して支援があり生活を継続できること

そうした条件にマッチする場所を探す旅は、和史さんの元を訪ねたことで急展開を迎えることになりました。和史さんと結理さんは共通の知り合いや趣味であるフィルムカメラを通してよく連絡を取り合う中でやっと実際に会えたそうです。
移住先リストには入っていなかった大分。しかも、そこは聞いたことのない場所。
山香の人々の温かさに触れ、和史さんと楽しく過ごす時間へ喜びを感じ、これまで巡った移住先候補地を思いながら結理さんは移住先の条件を最後にひとつ加えました。それは

「好きな人たちに囲まれて過ごしていくこと」

こうして結理さんも山香へ移住を決めたのでした。

なんだかすごくロマンチックなストーリーに、胸を打たれてしまうほどです。

農家民泊「山香文庫」とは?

「本を通して、山香と世界をつなげる場所にしたい。」

そんな思いを込めて2人は全国各地から本を寄贈された本たちとともに農家民泊をはじめることにしました。山香文庫に宿泊すればたくさんの本を通して、世界とつながっているような気持ちになってほしい。そして、山香の田舎の暮らしを楽しんでほしいという思いも持たれています。

*築150年以上の古民家を回収し、泊まれる文庫として農家民泊を行っています。置いてある本は全て全国各地から寄贈された本で、今でも随時募集をされています。

全国から寄付された本が集まる、山香文庫の一室

和史さんが摘んできた茶葉などが干されているダイニングの一角

和史さん「僕たちにとって、本とは、どこにいてもいろんな世界へアクセスできる媒介。本のページをめくることは、まだ見ぬ場所とつながったり、時間や国境を越えた旅へのはじまりのようなもの。自分が幼少期に過ごした地元に欲しかったものを再現しました。いつか地元の人が、ここを離れた時に、山香文庫があるから帰りたいと思ってもらうことを目指しています。

それに山香には、いろいろな色をもった農家やクリエイターや職人がいます。まずは、山香の色の1つになれればと思います。昔から受け継がれてきた山香に住む人々の思いを滞らせないように、いつか、山香のいろんな色が混ざり合うパレットのような場所になれると良いですね。」

 

ダイニングで楽しそうにお話されるお二人

最後に

移住希望者へのアドバイスを聞いたところ、「計画も大事だけど、直感を信じていいんだよ。」と締め括ってくれたお二人。

和史さんはダンス、結理さんはヨガのインストラクターとしても長年活動されていて、そこに共通するのは、”身体”を元にした表現を深めているということ。そして、知恵を得ているということ。2人が言葉にしていた直感とは、”身体”で受け取ったメッセージに素直になるということかもしれないですね。わたしもライフワークを通じて完成を鍛え、直感力を身につけようと思いました。

WRITER 記事を書いた人

熊代 はるか

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