取材者情報
- お名前
- 西澤 奈那
- 出身地・前住所
- 出身地:兵庫県西宮市
前住所:東京都
- 現住所
- 大分県宇佐市
- 年齢
- 36
- 家族構成
- 夫36歳、息子6歳
- https://www.instagram.com/nishizawa_7/
より良い子育て環境を得るために、東京での何不自由なかった生活を手放し、宇佐市に移住した西澤さん。ご家族と共に、都会ではできなかったのびのびとした日々を送っているそう。そんな西澤さんから、移住に至るまでの想いや、都会と田舎での暮らしの違いなどをお聞きしたいと考え、彼女が働く宇佐市の竹林を訪ねました。
都会の真ん中での生活
移住前の西澤さんは、東京の都心部で何不自由ない暮らしを送っていたそう。
西澤 : 東京の中央区日本橋に9年間住んで、父が営む会社で会社員をしていました。東京駅まで歩きで行けますし、銀座にも自転車で行ける場所で、子育てしないのであれば、楽しい環境だったと思います。何不自由ない日々で、不満はありませんでした。
結婚し子どもを授かり、子育てする中で、今の生活に不安を感じるようになったそうです。
西澤 : 子どもが生まれてからは、子連れで出社していましたが、幼稚園を選択しなければならなくなった時に、息子に吃音が発現しました。「吃音は成長過程で自然におさまることもある」という事でしたが、当時は先行きが見えませんでした。仕事のため夫の帰宅は遅く、子育てを一緒にするのが難しくもありました。
そんな中、当時住んでいた中央区は、高層マンションが立ち並び爆発的に人口が増えていたそうです。
西澤 : 住み始めた頃はオフィス街で土日は人がいませんでしたが、気付けば土日の公園は人で溢れかえっていました。
そんな急激な人口増加に合わせて、通う予定の幼稚園や小学校は生徒数が多く、「大勢の中で息子の心が萎縮してしまうのではないか」「吃音という個性を持ちながらのびのびと生活できるだろうか」と悩みました。吃音は繊細な子供に多いということもあり、私たち家族にとってはここはベストな環境ではないと感じました。
そこで、思い切って田舎で子育てをしようと思ったそうです。
ご両親も田舎が好きで「仕事のキリがついたら私達も移住したい」という考えだったこともあり、賛成してくれたそう。
移住ツアーを経て
こうして、田舎への移住を決めた西澤さん。お母様の出身が大分県だったこともあり、2017年11月に臼杵市と豊後高田市の移住ツアーに参加したそう。
西澤 : 対応していただいた職員の方、地域おこし協力隊の方、農泊の受け入れ家庭の方など、関わってくださった方がとても素敵な方ばかりだった臼杵市が移住先として良いなと思いましたが、あいにく条件に合う空き家がなく断念しました。
夏休みなどの長期休暇の際には、宇佐神宮やアフリカンサファリなどに足を運んだこともあるなど、宇佐市にも縁があったとのこと。そこで、翌12月には宇佐市の移住ツアーに参加したそうです。
西澤 : 宇佐市は母の故郷ということもあり一緒に移住ツアーに参加しました。母が住んでいた地域に足を運んだところ、良い空き家を紹介して頂いて即決しました。
3月の息子の幼稚園入園に間に合わせたかったので、2018年3月に宇佐市に転入した西澤さん。ふるさと回帰支援センターの方、移住ツアーで関わった方、地域おこし協力隊の方などの協力や空き家バンク制度、宇佐市の移住支援制度もあり、移住に関する不安も迷いも全くなかったと言います。
のびのびとした暮らし
移住前の生活と比較すると、何もかも変わったと話す西澤さん。宇佐市で充実した毎日を過ごしているそう。
西澤 : 何より家族の時間ができました。移住前は仕事のため22時以降にしか帰宅できなかった夫が、今では17時半には家に帰ってきて、みんなで食事をしたり田畑の中をお散歩したりしています。「のびのびと生活したい」という当初の計画が実現できたと感じます。
孫ターンということで地元の方々にもすぐ認識され、本当に良くして頂いています。
都会ではまずなかったことですが、宇佐市では小学生が「こんにちわ」と挨拶してくれるなど、皆さんが気軽に声を掛けてくれ、田舎の人は人懐っこいと感じます。そういう環境で暮らす中で、引っ込み思案だった息子が、人の輪に積極的に加わるほど活発になり、良い変化がありました。息子が通うこども園も本当に良い園で、懸念していた吃音も、もうほとんどなくなりました。
近所のおじちゃん達が息子をかわいがってくれるのですが、最初は私の後ろに隠れていた息子が、すれ違った際には自ら「こんにちは!」と言うようになり、今ではおじちゃんの軽トラに乗り込むまでになりました。逞しく育っているなと思います。
西澤さんは、仕事面でも充実した日々を過ごしているそう。
西澤 : 現在は地域おこし協力隊として、竹林整備の事業を行っています。私はたけのこが好きで、近所のおじさんからもよく頂きます。そのおじさん達が地域にある放置された竹林を気にしていましたが、必要な許認可申請やどこから手をつけていいのか分からないなどもあり、誰も整備はしていませんでした。それならば「私がやろう」と思い、取り組み始めました。活動を続けているうちに「自分の山の竹林を整備したい」という賛同者も増えました。山の斜面などで竹を伐採して加工するなど、作業は大変ですが、やりがいを感じています。
都会と田舎の暮らしの違い
都会と田舎の暮らしを両方体験した西澤さんに、その違いをお聞きしました。
西澤 : 夫と2人で仕事を辞めて移住してきたので、年収は3分の1以下になりました。ただ、東京に住んでいた頃は60平米のマンションに家賃20万円と駐車場5万円もかけていたのですが、今は広い一軒家を月4万円でお借りしています。必要な生活費もかなり違いますね。今思えば移住前は“消費して消費されて”暮らしていました。移住してから価値観が変わった気がします。日々の暮らしに不満はなく、楽しい日々が続けば良いなと思います。
都会にいる時は常に気を張っていた気がします。人も多いし、いつも綺麗にしておく必要がありましたが、田舎だと自然体で過ごせます。
もちろん、不便な部分もあります。例えば、家で晩酌している最中に「カラオケに行きたい」と思っても、今は気軽に足を運べる場所にはありません。必要かどうかは別として、娯楽は少ないと思います。でも、カラオケはないから、ギターやウクレレを買って練習するなど、無いなら無いで楽しもうと工夫しています。
他にも、都会と比べると交通網が少なく、どこに行くにも車が必要なので、夫も私も一人一台所有して、さらに作業用に軽トラックも購入しました。車検代やガソリン代等で、車に関するお金は結構かかってしまいます。運動しなくなって太りました(笑)。
田舎だからこそできること
都会ではできない、田舎だからこその体験もたくさんあるそうです。
西澤 : 東京のママ友が家族で遊びに来た際には、都会では土に触ることもないので、家庭菜園で野菜を一緒に収穫した際に喜んでもらえました。都会のスーパーなどで見る野菜は既に綺麗に成形されているため、例えば玉ねぎの葉が付いている姿を見る機会がないです。子ども達は見た目では何の食べ物か当てることができず、匂いを嗅いでやっと気付いたりしていました。たけのこをとって皮むきをするなど、都会ではできないことをたくさん体験してもらって、子供達にとって良い経験になったと感じますし、食育にも繋がっていると思います。
都会と田舎では教育環境に差があるという話を聞きますが、子どもの力を信じているので、学業などは気にしていません。都会では子どもに英語やバイオリンなどの習い事をさせるのが一般的でしたが、必ずしも必要なことではなかったと気付きました。私の父や母は田舎で育ちましたが、塾に通わなくても努力して大学に入り、事業を起こしています。田舎と都会双方に特徴があるので、教育面でのメリット・デメリットはそこまで差は無いのではと感じています。
これからのこと
地域おこし協力隊を卒業後は、竹を活かした活動を考えているという西澤さん。
大分は竹林の面積が全国2位で、国から伝統的工芸品として指定された「別府竹細工」が有名なこともあり、何かしらできそうだと思っているそうです。
大分県では竹工芸産業の後継者を育成するために、県立の竹工芸訓練センターに「竹工芸科」を設置し2年間の職業訓練が実施されています。今後はここに通い、しっかりと技術を身に着けて、竹林整備から竹細工まですべてできる竹のプロになりたいそうです。
移住希望者へアドバイス
都会の生活を離れて、宇佐市で充実した日々を過ごす西澤さんから、移住を希望する皆様へアドバイスを頂きました。
西澤 : いろいろな理由で移住される方がいると思います。私も地域おこし協力隊というお仕事をする中で「移住者」と呼ばれる方とたくさん出会いました。その中で感じることは、ネガティブな感情で移住した人、不遜な態度で地域の人と接する人は上手くいかないということです。地域に馴染めない人もいますし、移住したにも関わらず都会にいたことがステータスの人もいます。そういう人たちが、地に足を付けて真面目に活動しようとしている移住者の足を引っ張る、周囲に対する誠実さがないために、軋轢を生じることがあると思います。
移住するのであれば「田舎なんて」と思わず、ポジティブな感情で移住をし、地元に馴染もうと努力してみて欲しいです。田舎暮らしでは今までの生活で得られなかった「ヒト・モノ・コト」に出会えます。私は宇佐市に来て暮らしてみて、移住して本当に良かったと心から思っています。ぜひ自分に合った場所で素敵な「田舎暮らし」をしてみてください。
最後に
より良い子育て環境を求めて、何不自由ない都会を離れ、宇佐市へ移住してきた西澤さん。お仕事の現場で真面目に事業に取り組んでいる姿や、取材中に偶然足を運んでくれた近所のおじいさんとわきあいあいと話す姿などを通じて、しっかりと地域に溶け込んで活躍されていることを感じさせてくださいました。西澤さんのように、移住先との信頼関係を作りながら、自分のやりたいことに誠実に取り組むことで、のびのびとした心豊かな暮らしが送れるのではと思いました。