大分移住手帖

持続可能な農業を目指し、限界集落で里山の風景を守る農家としての生き方。

青木 奈々絵

取材者情報

お名前
村上 明日美(むらかみあすみ)
出身地・前住所
東京都→別府市、日出町
現住所
大分県九重町
年齢
34
家族構成
独身
職業
あすみ農園
Webサイト
http://asumi.farm/

仕事の影響で大分に移り住み、現在九重町で「あすみ農園」を営む村上さん。農業を行うには過酷な環境下でスタートしつつも、人の繋がりを頼りに行きついた九重町での暮らし。農業生産だけでなく、6次産業やさらにそれに観光要素等を組み合わせた取り組みを通して、限界集落で地域と共に生きていく村上さんにお話を伺いました。

会社員から農家へ。険しい環境下で始まった農家としての生活。

山口県出身の村上さん。東京農業大学卒業後、東京都の食品流通商社で働いていたそうですが、そこでの業務で別府市の農園主を担うことになり、大分で農業をすることになりました。その後別府市に移り、仕事を辞めた後も大分に定住することにしたんだとか。

収穫した自然薯とあすみさん

「実際に大分に住んでから、都会と地方とで働き方の違いを感じていました。大分に住み続けることを決めて別府市で新規就農を目指すことにしたんですが、当時はとても農家としてやっていけるような環境ではありませんでした。」

村上さんが農業を始めたのは、作業効率の悪い段々になった農地。トラクターや軽トラすら入れない立地だったうえ、出荷作業を行う倉庫も無いような場所だったとか。農業の知識や経験がなかったことで険しい環境下で始まった就農ですが、周囲の助けもあって少しずつ農地を増やしていったそうです。

「当時住んでいたシェアハウスの大家さんが農地付きの家を貸してくれて、日出町で新たに場所を持つことができました。立地や日当たり等の条件が良かったんですが、別府市の畑との掛け持ちや家賃が高かったこともあり、ずっと続けるのは難しかったですね。そこで改めて、今後暮らしていく環境を考え直すようになりました。」

壁にぶつかって出会った他ジャンルと掛け合わせた農業の道。

彩鮮やかな野菜たち

腰を据えて農業ができる場所を探し始めた村上さん。別府市、日出町での経験から、農家としてだけではなく、農業体験やワークショップなど「農業と観光」「農業と教育」というように他ジャンルを掛け合わせた事業の展開を考えていたそうです。

「農業生産だけでは食べていけないという壁にぶつかった時、畑で農業体験やワークショップをしてみて、そのやり方が自分にはとてもよく合ってるなと思ったんです。自分たちの食べるものがどうやって作られているかをたくさんの人に知って欲しい。特に子どもたちにその場を提供して、感動や驚きを感じてほしいと思いました。」

そうしてやりたいことを実現するため、場所探しに奮闘した村上さん。家と倉庫と農地、そして立地を兼ね備えた理想の場所にはなかなか出会えず、土地探しには苦労したそうですが、それまでに培った人脈から、力になってくれる存在のいる九重町に移り住むことに。

みんなで自然薯を収穫

「それまでの4年間で農業に対する知識も身に付き、同業の方々との横の繋がりもできていました。集まりにはなるべく積極的に行くようにしていたし、女性の就農は珍しかったので良くも悪くも注目されることが多かったですね。そのおかげでキーマンとなる方を紹介してもらったり、人の繋がりには助けられました。」

持続可能な形で作る、自分が考える農業の姿。

現在九重町に移住して約1年半となる村上さん。現在「あすみ農園」として農産物の生産、販売を行うほか、近隣の農家さんの収穫物などを使ってジャムやお菓子などの加工品を作るなどの取り組みも行っています。また、農業と観光・教育を掛け合わせた様々な取り組みを実践されているんだとか。例えば、自身の農園や近隣の農家さんの畑で農業体験を行った後、地元公民館のおくどさん*を使って、薪でご飯を炊く体験のイベントを行ったそうです。村上さんが企画をしつつも、全部を自分でやるのではなく、周りと協力し合って取り組んでいきたいと考えているのだとか。

「自分も農家だけど、別の農家さんの畑で体験をしてもいいし、いわゆるグリーンツーリズム*のように農家さんのお宅に泊まらなくても、宿泊は旅館やホテルを使ってもいいと思うんです。それぞれに負担が少ない、持続可能な形でやっていけたらなと思っています。」

約20名の集落で気付いた「田舎スタンダード」

九重町の山々

村上さんの住む野倉地区は、住民約20名の限界集落。車があれば不便なく生活できる地域ですが、車の運転が難しい高齢者の方などはタクシーを利用したり、買い物は移動販売を利用しているそう。

九重町の住民自治協議会が運営する「ここのえ生活サポートセンター*」では、病院の送迎や自宅の電球を変えるなど、日常のちょっとした困りごとをお願いできるような仕組みがあります。サービス利用会員と支援活動会員があり、村上さん自身は支援活動会員となり、地域をサポートする側として参画しているいるそうです。

「自営業であれば仕事に融通を利かせて地域の取り組みに参加できますが、勤めに出ている人には難しいことだと思うんです。それでも、『自分たちももっと高齢になればいずれ世話になるから』とまだまだ元気なセミシニア世代の方もサポートしていて、お互い協力し合うという流れが自然とあります。それが“田舎のスタンダード”として当たり前に成り立っていることこそ、こういう地域の魅力だと思います。」

地域を残して、里山の風景を守りたい。

満開の自然薯の花

「里山の維持・活性化」をミッションに活動しているという村上さん。農家としての生産、加工だけでなく、里山の環境を活用したイベントや講演なども行っているんだとか。里山の景色を維持していくために、新しく作るのではなく、今あるものを繕って残していきたいそうです。

「地域づくりは『地域残し』だと思うんです。そこに人が住んでいて生活があるという、当たり前のことを残していきたい。農業が健全でないと里山の風景は守られません。シンプルで当たり前のことが続いていくよう、これからも里山の風景を守っていきたいです。」

最後に

厳しい環境下で始まった農業の道で、積極的に人と繋がり、今の暮らしに辿り着いた村上さん。ただでさえ人数の少ない女性ひとりでの就農で、自らのやり方を見つけて邁進する姿は、農業の世界に新たな風が吹くような希望を感じました。これからのあすみ農園がどんな活躍を見せてくれるのか、そして九重町での村上さんの暮らしがどんな景色になっていくのか、今から楽しみです。

 

*6次産業化とは、農作物を生産だけでなく、加工から販売まで行うこと。

*おくどさんとは、竈(かまど)のある場所や、かまどそのものを指す。

*グリーンツーリズムとは、農山漁村に滞在し農漁業体験を楽しみ、地域の人々との交流を図る余暇活動のこと。 

*ここのえ生活サポートセンター http://www.oct-net.ne.jp/smile9/kokosapo.html

WRITER 記事を書いた人

青木 奈々絵

大分県杵築市へ移住。地域おこし協力隊として移住支援活動を行う。国東半島に伝わる七島藺(しちとうい)に惹かれ、工芸の技術を習得し、杵築七島藺マイスターとしても活動している。農家民泊の開業を目指して、築150年の古民家をセルフリノベーションに奮闘中。

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