大分移住手帖

会社員から農家へ。夫婦二人三脚で農業と地域の可能性をさぐる。

廣瀨 凪里

関西で会社員をしていた堀彰太さん由佳さん夫妻が兵庫県神戸市から大分県豊後大野市へ移り住んでから今年で10年目になります。それまでほとんど訪れたことがなかった大分で、はじめての農業を夫婦二人三脚でスタートさせました。移住する約半年前、デートで行った大阪の農業フェアで豊後大野市の担当者に出会ったことが移住のきっかけだったとか。その後、結婚、転職、移住など一気に環境が変化したふたりにこの10年のことを振り返り、お話を訊きました。

会社員からピーマン農家へ

関西で会社員として働いていた彰太さんが、農業を視野に入れた転職を考えはじめたのは30代半ばのころでした。大学卒業後15年ほど勤めていた会社でそのまま働き続けるか、転職をするか、はたまた独立をするかで悩んでいました。数年かけて仕事のことやこれからの暮らし方について調べて行くうちに地方で暮らすことに興味を持ちはじめたそう。そこで、関西で開催されていた農業フェアへ行くことにしました。

 

彰太さん「独立してなにかをはじめるのなら何がいいだろうって。農業かドロップシッピング(*1)のどちらかで悩みましたが、最終的に屋外で身体を動かすことも好きだったので農業を選びました。そこから農業に関する本を読んだり、農業をするのなら地方かなと思ったら、自然とあわせて移住を考えはじめて。場所は四国とか九州あたりの西日本で探していました。暖かいイメージがあったんです」

 

「それで、大阪での農業フェアへ行くことに。その当時は彼女だったいまの奥さんと一緒に話を聞きに行きました。いろんな自治体のブースがあったのですが、各担当者の方がわりと移住についてシビアな話をされていて。『農業は簡単ではないですよ。それでも来る覚悟はありますか?』と言ったような。ところが豊後大野市の担当者さんは、ほかの自治体とは少し違ってとにかく雰囲気がよくて、前向きな印象でした。ちょうどインキュベーションファーム(*2)を立ち上げることもあって移住者の受け入れに力を入れていて、『ぜひ来てください!』という感じでした。それで、まずはインキュベーションファームの農業体験へ行ってみようと豊後大野市を初めて訪れました」

農業体験からバタバタ移住劇!そして、農家として独立へ

彰太さん「農業体験に来たのは2011年8月で、体験してすぐに農家への転職と豊後大野市への移住を決めました。そこから退職、12月に結婚式をして、2012年1月には引っ越しました。移住の担当の方から『カップルより夫婦の方が…』と言われてバタバタと結婚式をしたんですけど、きっとインキュベーションファーム的には夫婦や家族がいる方が、受け入れやすいんだと思います。夫婦や家族だとすぐに辞めることはなさそうだし、子どもも生まれれば地域に人口が増えますし。それで(由佳さんと)結婚を前提に付き合っていたので、そのまま結婚したんです」

 

由佳さん「移住を決める前から、農業に関する本を渡してきたり『ちゃんと食っていけそうだから』とか言われていて。最初はあまり本気にはしてなかったけど、8月の農業体験直前に彰太さんが退職したんです。急に仕事を辞めて農業をすると言ったら心配するじゃないですか。なので、わたしの家族にはしばらく退職したことは伏せていました(笑)」

 

彰太さん「豊後大野市に引っ越した2012年1月から2年間の農業研修が始まりました。僕らはインキュベーションファームの一期生だったのですが、インキュベーションファームの運営側もいろいろなことを模索していて楽しかったですね。例えば、作業をするため畑に集合したものの、農機具が揃っていなくて買いに行くところからその日の研修がスタートしたり(笑)」

 

由佳さん「インキュベーションファームの一期生ってところに、夫婦ともに魅力を感じたところもありました。2年間の研修で住む宿泊施設とかもきれいでいいんじゃない? 新婚だしねって。インキュベーションファームの運営側も私たちもお互い一期生な感じがして、楽しめましたね」

 

彰太さん「研修では、任せられた畑で習った方法と、少し環境を変えた方法でピーマンの育ち具合を観察してみたり。農業に関するさまざまなことを学び、その後の独立に活かせるような実験もたくさんしていました」

インキュベーションファームで積極的に独自の方法で試して収穫量と面積を増やしていった堀さん夫妻。研修期間の2年が経過し、独立を迎えます。しかし、抱える問題は、農家としての農地と住む場所。どうやら豊後大野市のインキュベーションファームは、独立後のサポートも手厚いようで…。

 

彰太さん「研修の2年を終えて3年目からは独立になります。豊後大野市のインキュベーションファームの特徴は、独立をするときの農地や住まいも自治体などが一緒に探してくれるところですね。他の地域では、研修が終わる年になっても自分の農地が見つかっていないという話を聞いたこともありました。当時のインキュベーションファーム研修生のほぼ全員が今も豊後大野市で僕たち夫婦のように農業をしています。その実績があってか、ここをモデルケースに大分県内各所で同じような取り組みが始まりました。杵築市の『杵築いちご学校』や、中津市の『中津市梨学校』などその地域に合った野菜・果物を育てています。ちなみに僕たちが育てているピーマンは、育ちやすく、値崩れしにくいんです。初期投資もそれほどかからないので、農業初心者でも始めやすく続けやすいのかなと思います。ピーマンのシーズン以外は、主にスイートピーを育てています」

地域に馴染むことと、まさかの驚き

休日に行った農業フェアからすぐに農業体験へ行き、そこから結婚、転職、移住、と一気に環境が変化したおふたり。いざ、移住!と言っても意外と一筋縄ではいかないことも。神戸市から豊後大野市へ引っ越してきましたが、地域独自の文化や雰囲気に戸惑ったこともありました。

 

彰太さん「実は、ほとんどが想定内でした。移り住んでくる前に色々と覚悟していたので、実際には大変と思うことはほとんどなかったです。農業を含めてうまく生活していくために夫婦でルールを作っていました。二人で協力し合うことと地域に馴染むこと。まずは、奥さんにこのことを伝えてふたりで一緒に頑張っていこうと。地域に馴染むことで言うと、作物を育てている者として食育のために小学校を訪問したり、地元消防団に入ったり、率先して道の駅や農業の役員を引き受けています」

 

地域に馴染むことに積極的に力を注いできた彰太さん。地域のためになることであれば、とにかく労力と時間を惜しまなかったと言います。しかしながら、その気持ちとは裏腹に地域の考え方は少し違うところにちょっとした戸惑いが生じます。

 

彰太さん「大変だったというか戸惑ったことがひとつありました。それは、地域の方々との考え方の違いみたいなものです。『このまちを活性化させたい』『地域になにか協力したい』と思い、地域の活動や行政の講演会などに参加していると、いい変化とわかっていても賛成しない方がいたり、移住者には賛同できないという方がいたりすることがわかって、取り組みなどをどう伝えればいいのか迷うことがありました。少しずつ信頼してくれる方が増えて提案が伝わるようになったように思います

住むことでわかる地域の本当の良さ

少子高齢化が進む町では、若者が町に来てくれるのはうれしい反面、若者がいない影響が移住者にも少なからずあるようです。

 

彰太さん「地元の方は、良く来てくれたと歓迎してくれるのですが、心のどこかで『どうせ若い人は出ていってしまう』と思っているそうなんです。後から聞いた話ですが、僕たちも2019年に家を建てたことをきっかけに、ようやくここに長く住むつもりであることを理解してもらえたようでした(笑)」

由佳さん「ここに住んで良かったと思うことは沢山ありますよ。例えば農家さんが多くいらっしゃるので地域のなかで野菜の交換をできたりするんです。それがすごく幸せで。それぞれに育てている野菜を交換して、お互いに旬のものを食べることができる究極の物々交換だと思っています。子どもたちにも積極的に野菜を持って行ってもらって、なるべく子どもたちも地域の方々と交流するようにしています。」

 

「それから地域との繋がりで言うと、私は農業の仕事だけでなく子ども向けの英会話教室の講師もしているんです。はじめは、英語が好きなことや自分の子どもたちに英語を教えたいと思ったのがきっかけなのですが、このことを保護者の方に話したら『ぜひうちの子も!』と言って下さって生徒さんが集まりました。いまは、自分の好きなことを仕事にしています。普段もですが教室のときは、彰太さんが家のことをしてくれたり、子どもたちのことをみてくれています」

彰太さん「ここに移り住んで、仕事が変わって、一番良かったなと思うのは、家族との時間が沢山とれていることです。週末は子どもたちと一緒に畑に行きます

これからの移住のかたちについて思うこと

今では、夫婦ともに先輩移住者として取材を受けることやイベントにてお話しすることも増えたそう。堀さん夫妻が地域に根ざしてきた今だからこそ見えてきた地域の課題やこれからの移住のかたちとはどのようなものなのでしょうか。

 

彰太さん「町の祭りなどに参加していますが、祭り自体がだんだん無くなってきていますね。結局無いものねだりみたいになってしまうのですが、そうやって失われていくのは僕たちみたいに地方へ移住してくる人たちがいるけれども、それよりもここから都会へ行く人たちの方が多いので仕方がないことなのかもしれません。でも、もっと移住する人が増えたらいいなと思っています」

「やっぱり農業、移住ってどちらもハードルが高い印象なんです。それをもう少し気軽な印象に変えていけたらと思っています。行政がしている移住フェアのように、県外の会場で移住や自治体についての説明会をすることも大切ですが、その次のステップとしてインターンシップのようなかたちで移住の体験プラン、例えば農業や直接仕事に関わるようなプランを準備すると良いかもしれません。WEB媒体などを使って発信して、できるだけたくさんの方を受け入れて、そこから、何人かの方が本格的に移住を考えてもらえたらいいと思います。体験で来てみたら意外と良いなって感じることもあると思うんです。『豊後大野市ってそもそもどんなところなんだろう?』とそんな興味本位からでも良いかもしれません。ピンポイントで移り住む人を探すよりもっと話が早い気がします。そんな活動があれば、ぜひ応援したいですね」

移住10年目。これまで夫婦二人三脚で前向きに歩んできたおふたり。取材の間も、移住や結婚、インキュベーションファームの研修時のことを振り返りながら楽しそうにお話をされていたのが印象的でした。移住当初は少し戸惑ったことも、今では笑い話に。『移住や農業に興味を持つ方々に、自分たちのような暮らし方、働き方がひとつの提案になったら』と彰太さん。大分県農業賞若手経営者優秀賞も受賞し、農家としても着実に実績を積み上げている堀さん夫妻。これからも農業と地域の可能性を模索していくことでしょう。

 

(*1)ドロップシッピング:在庫を持たずにネットショップなどで商品を販売し、メーカーや提携業者から購入者へ直接発送されるビジネス形態のこと。在庫を持たずにネットショップを開設できるのが利点。

 

(*2)インキュベーションファーム:2011年度から豊後大野市が取り組む農業後継者不足を解決するための新規就農者技術習得研修とその施設。https://incubation-farm.jp/

取材者情報

お名前
堀 彰太(ほり しょうた)・由佳(ゆか)
出身地・前住所
彰太さん:兵庫県神戸市/兵庫県神戸市
由佳さん:広島県広島市/兵庫県神戸市
現住所
大分県豊後大野市大野町
家族構成
長男、次男
職業
農家(ピーマン、スイートピー)

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WRITER 記事を書いた人

廣瀨 凪里

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ひろせ・なぎり/1993年、大分県生まれ。
学生時代、映画評論を学び卒業後に渡仏。帰国後、芸術祭事務局や文化施設事業担当を経て、現在は由布院駅アートホール、NPO法人由布院アートストックの事務局を務めるほか、個人 [ 藝術新社 漂泊 ]でも展覧会企画や作家のマネジメントなどを行う。趣味は映画を観ること、エッセイを書くこと。

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