取材者情報
- お名前
- 堀場貴雄(ほりば たかお)・さくら
- 出身地・前住所
- 千葉県
- 現住所
- 大分県竹田市
- 年齢
- 40代
- 家族構成
- 夫婦、子ども一人
- 職業
- たけた駅前ホステルcue
- Webサイト
- https://solairodays.com/
- https://www.facebook.com/taketacue/
JR豊後竹田駅から歩いて3分ほどの場所にある3階建の古民家。風にたなびく藍色の暖簾が目印のゲストハウス「たけた駅前ホステルcue(キュー)」は、旅人たちの終着地であり、出発地であり、地域の人や文化とを結ぶ場となっています。
営むのは、堀場貴雄さん・さくらさん夫妻です。宿の名前は英語で「きっかけ」を意味する言葉です。
二人は2014年に地域おこし協力隊として竹田市に赴任し、地域のまちづくりに携わる仲間と共に築80年を超える古民家を改装。2017年に宿をオープンしました。
移住して8年目を迎え、竹田市への移住のキーマンともなっている二人ですが、第一子誕生を経て「さらにこの町が好きになった」と口を揃えて語ります。
夫妻が世界各国から訪れる旅人や地域の人々と触れ合いながら見つけた竹田市の魅力とはー
二人の移住ストーリーとともにご紹介します。
人々の営みが見える小さな町に一目惚れ
東京都でスポーツ用品メーカーに勤めていた貴雄さんと、福岡県で小学校教諭をしていたさくらさんは、旅先の沖縄で運命的に出会い、2012年に結婚。その後、貴雄さんが住む千葉県で暮らしていた二人。移住を考えたのは、東日本大震災がきっかけでした。
当時、さくらさんは都市部での生活に不安を抱えていたと振り返ります。
さくら:千葉県に移り住んだ時期が震災後だったこともあって、近くに知り合いがいない都市部での生活や、食の安全面などに不安があり、次第に「自然豊かな地域で、コミュニティに溶け込んだ暮らしをしたい」と思うようになりました。
「移住をしたら人と人との交流が楽しめるゲストハウスを開業したい」という夢も生まれた旅好きな二人は、開業に向けて移住フェアやインターネットなどで情報収集を始めます。
そんな中、二人の目に留まったのが竹田市と「地域おこし協力隊」の制度でした。
さくら:初めて竹田を訪れた時に、高台から小さな城下町を見下ろしてみたら、ここで暮らす人々の営みが見えました。その際に、自分たちの暮らしやゲストハウスを営んでいる姿が想像できたんです。また、地域活動をしながら開業の準備ができる地域おこし協力隊の制度が自分たちにぴったりだと思い、移住を決めました。
「もう少し慎重に」と考えていた貴雄さんとの話し合いを重ね、さくらさんの直感を信じて竹田市へ移り住むことを決めた二人。
2014年、夫婦揃って「地域おこし協力隊」に任命され、二人は竹田市へと移住しました。
新しい世界のきっかけをくれるゲストハウス
「地域おこし協力隊」として貴雄さんはまちづくり会社のスタッフとして、さくらさんは教育の支援活動を行いながら、憧れのゲストハウスオープンへ向けて準備を進めます。
しかし、ゲストハウスを開業するためには、交通の便が良く、ベッド数をある程度確保できる十分な広さの物件を見つけることが必須。空き家はあれど、借りることができる状態でなかったり、立地が悪かったりと、なかなか良い物件に巡り会えなかったそうですが、任期が残すところ1年となった時に、運命的な出合いを果たしました。
それが現在の「たけた駅前ホステルcue」である駅前の元化粧品屋さんでした。
貴雄:立地も規模も理想通りだったのですが、築80年を超える古民家だったのでかなり手を入れる必要がありました。どうしようか悩んでいましたが、「ゲストハウスをしたい」という想いに共感してくれた地域の仲間が物件を購入し、そこを賃貸して宿運営をさせてくれることになったんです。リノベーションの費用の一部はクラウドファンディングを活用し、たくさんの方々がサポートをしてくれました。
また、古民家で使われていた古材や棚材、古道具などを生かし、竹田の歴史や匠の技を散りばめながら作り上げた1階は、豊後大野市にあるパン屋さん「キッチンウスダ」が営む「かどぱん」とシェアをする形に。ベーカリーカフェも備えた複合施設の中に、2017年「旅の先に続く、日々の暮らしに新しい世界のきっかけを」をコンセプトに掲げた「たけた駅前ホステルcue」がオープンしました。
宿が大切にしているのは「旅の楽しさと竹田らしい丁寧な暮らしを伝えること」。そして、それをより良い状態で「次世代へとバトンを繋ぐこと」。宿では月に一度、宿泊客でなくても参加できるイベントを開催したり、お客様に提供する食べ物や飲み物、アメニティなどを竹田に由来のあるものを取り入れたり、環境保護にも積極的に取り組んだりしています。その世界観のファンとなるリピーターが徐々に増え、今では世界各地から旅人が訪れるゲストハウスとなっています。
“本物”と巡り会える町で、子育てができる喜び
移住して8年目、すっかり地域の顔となった堀場家には、2018年に第一子が誕生。子どもの誕生が、さらに地域の良さを見直すきっかけになったと話します。
貴雄:息子は私たちの家がある地区で15年ぶりとなる赤ちゃんだったそうなんです。そのせいか、近所の方々がすごく喜んでくださって、可愛がってくれています。温泉や買い物に行けば名前まで覚えられていて、お菓子やおかずをもらうことも。良い意味で人との距離が近く、安心して子育てができるなと感じています。子どもにとっても、たくさんの人と触れ合える環境ってすごく良いんじゃないかなと思いますね。
さくら:子育てってうまくいかないことの方が多いですよね。それで産後うつになったり、育児ノイローゼになる方がいると思うんですけど、地域の方が「挨拶ができてすごいね」とか「こんなこともできるなんて偉いね」って話しかけてくれたときに、「あ、この子はこういうところがあるな」って気づくことができるんです。親にとって周りの一言にすごく助けられていたり、励まされているなと感じています。
都会とは異なる人との距離の近さは、二人にとっても子どもにとっても心地よい環境を作り出してくれているそう。さらに二人はこの町で暮らすことによって「子どもの世界は広がっている」とも続けます。
貴雄:移住当初は地方は選択肢が少ないというのがウィークポイントだと思っていました。でも子育ての分野だと、近所のお兄ちゃんお姉ちゃんと一緒に何かに取り組む環境だったり、いろんな分野で長けてる大人たちが身近にいるのはすごく良いことだと思うんです。子どもが何かを「やりたい」と夢や目標を見つけるまでに、いろんな世界に触れるという経験をさせてあげたいですね。
さくら:自分が子どもの頃を振り返ると、学校と家の往復ですごく世界が狭かったなと思います。父親は会社員で朝から夜遅くまで働いていて、実際に仕事をしている姿は見たことなかったですし、周りの大人がどんな仕事をしているかをあまり知らなかった、というか関わることが少なかったです。でもここにいると、パンを売っている人がいたり、タクシーの運転手さんがいたり、駅長さんがいたり、アーティストさんがいたり。徒歩圏内で様々な仕事をしている方と出会えるんですよね。“本物”がすぐ側にいることは、子どもの世界が広がることに繋がるのではと思います。
キャプション:宿の1階はベーカリーカフェ「かどぱん」。素材に拘ったパンや焼き菓子、お土産を買うこともできる
小さな町だからこそ広がる世界があることに気付いたという堀場夫妻。これからは自分たちが気付いたことや、町の魅力をもっと発信していきたいと思っています。
発信者が増えたことで気づく“知らなかった”竹田の魅力
貴雄:ここ数年で町にはコミュニティの中心となる人や拠点が増えてきたなと感じています。地元のおじいちゃんおばあちゃんが集える施設だったり、シェアハウスがあったり、新しくできた飲食店が地域と移住者との交流の場となっていたり。これからも地域の仲間と連携しながら、外の人たちに竹田を広める活動をしていくことが私たちの役割かなと思っています。
さくら:最近はUターンしてきた若い世代も多く、たくさんの人が地元を見つめ直して発信するという活動をしています。それを見ていると、移住して7年経っても「まだこんな魅力があるんだ」と知ることもあるんです。これから移住を検討している方は、私たちの発信と併せていろんな人の活動や、また地域にあるいくつもの交流拠点を訪れると、竹田の暮らしを垣間見ることができると思います。
歩いていける距離に自然や文化を感じられる場所があること、美味しいご飯屋さんがあること、心地よい温泉があること、面白い人たちが暮らしていること。竹田の価値を客観的に見て発信をすることで、竹田を訪れる人たちや暮らしたいと思う人を増やしたいと話してくれました。
最後に
「こんなに長くこの土地に暮らしているということは、ここが私たちのライフスタイルに合っているんだなと思います」と、さくらさんの一目惚れは間違っていなかったと笑う堀場夫妻。
これからは外への発信に加え、ファミリーや少人数のグループを受け入れることができる個室や、ワーケーション対応の空間作りにも邁進している夫妻。更には「古物商」を取得し、古道具の販売で竹田の古き良きものを伝えていきたいと語ってくれました。
新しいことへ挑戦する好奇心が湧くのは、この町のポテンシャルがあってこそ。それを見つけた二人のもとを訪れると、きっと竹田という町を好きになれるはずです。