大分移住手帖

人口400人。日本のナポリで島暮らしを楽しもう

Tomomi Imai

取材者情報

お名前
島田勝さん
出身地・前住所
出身地:大分県津久見市保戸島
前住所:大分県大分市
現住所
大分県津久見市保戸島
家族構成
4人
Webサイト
https://tsukumiryoku.com/publics/index/109/

津久見市にある別名「日本のナポリ」とも呼ばれる保戸島。ここで生まれ育ち、整体師を経てUターンの後津久見市議会議員となった島田さん。整体師をしながら議員の活動をしつつ、保戸島がもっと暮らしやすくなるよう尽力されています。そんな島田さんに保戸島の魅力や課題、島暮らしや移住を考えている方へのアドバイスをお聞きしました。

人口400人。イタリアの港町のような島。

見えてきた景色にうっとり

島田さんが生まれ育った保戸島は、津久見港から14kmのところに位置する人口400人程度の有人離島です。港からは船で25分。日豊海岸国定公園にも指定され、マグロの遠洋漁業の基地として栄えました。他の離島と明らかに違うのは、到着したその港の景色。なんと、3〜4階建の立派な建物が海岸ギリギリまでびっしりと建てられており、歩いていると映画の中に入り込んだかのような異空間が広がります。

まるでヨーロッパの港町のような景色の保戸島港

島の時間軸は、船の時間で決まることが多く、滞在中も「何時の船だから逆算してこのスケジュールでいきましょう」と、訪問者の時間を気にしてくださる島民のみなさん。島の外に仕事がある方もいて、みなさん朝の便で出て、夕方の便で帰るというような生活をされているそうです。かつては浄水がなく、水を貯めて使っていたこともありましたが、そのおかげで水を大切にする習慣もあるそう。高齢化が著しく、かつて繁栄した際に広がった個性豊かな家々も、今はほとんど空き家になっていると言います。

船は1日6本。

島を出て整体師に。島に通う日々。

そんな保戸島で生まれ育った島田さんは、高校卒業後進学と仕事を求めて島外へ出ました。福岡の大学に通い卒業後、大分市の企業へ就職。その後脱サラし、整体師の道へ。整体師の養成学校に通いながら整体店へ就職。そして、ご自身でもお店を開業しました。いつかは島に戻れればと思っていたものの、島にそもそも整体やマッサージ店がないことに気づき、店が休みの日に島に渡っては訪問整体を行っていたそうです。

島田:これだけ高齢者が多いのに、整体やマッサージの事業者がいなかったんです。そこで、月1回ベッドを持って保戸島でも施術し、大分市に戻るという暮らしをしばらく行っていました。

そんな中、津久見市の地域おこし協力隊の募集を知り、応募。1年半は協力隊として活動しましたが、活動する中で市民の暮らしを良くするために、もっと幅広く活動したいと思い、市議会議員に立候補しました。現在津久見市には市議会議員が14名いますが、島から出ている議員は島田さんただ1人です。

島田:元々保戸島出身で、整体で通っていたのもあり、当時の保戸島在住の市議会議員がご高齢で引退するからなってみないかと多くの方々からお声をいただいていて。当初はお断りしてたんですが、協力隊の活動をしている中で活動できる範囲に限界も感じていたので、もっと島のためになることをしたいと思い、手を挙げました。

島には課題がいっぱい

島民のみなさんは気さくに話しかけてくれるのですぐ会話になる

市議会議員になって3年が経った島田さん。現在は津久見市内と保戸島を行き来する毎日。高齢化に加え、島には多くの課題があると言います。例えば、「航路」の問題。なんと、2022年9月末にライフラインである離島航路運営事業者の撤退が決まっているのだそう。

島田:津久見市全体もそうですが、保戸島の現在の課題は生活に直結しています。航路の維持・確保は、今一番議論していることです。島にはまだまだ暮らしている方々がいて、その方々が住み続けられるようにすべきです。他にも、診療所の課題があります。現在でさえ週4日しか開いておらず、今後人口が減っていくとサービスを維持できるかわかりません。

少ないと言えど、現在400人程度の島民がいる保戸島。高齢化率は75%。残りの3割も、多くは50-60代なのだと言います。島内にはデイサービスセンターはあるが、入居施設が無いため、島での生活が厳しくなった高齢者は島外の施設や親族の元に行ってしまうなどで、人口流出が止まらないとのこと。最近では子どもの姿も見なくなったと感じるそうです。

島には欧米のようなスタイルの空き家もいっぱい

都会的で個性的な住居。これも空き家になっているそう。

保戸島の観光資源はマグロ料理と島の景観だと話す島田さん。島に仕事は少ないですが、栄えていた時に増えたコンクリート造りの都会的な住居の多くが空き家となっており、テレワークやフリーランス、芸術家や建築家など、場所にとらわれない働き方ができる方なら、アイディア次第でかなり自由度の高いことができるのが今の保戸島の魅力だと言います。

島田:僕が島出身だということもあり、空き家に関するやりとりもやっているので、穴場物件などは紹介できます。こういう地域は不動産業が成り立っていないので、物件の大家さんと繋がっているかがとても重要です。仏壇がある家など、交渉が必要な物件もありますが、僕を通じてなら交渉しやすいですよ。

島田さんが暮らしている間だけでも、島のインフラは結構整ったのだとか。またお店は17時には閉まり、日曜はやっていないので、それに合わせて生活の時間軸も整理されていく感覚などは、島ならではだと言います。

街並みの中に隠れているレトロなタイルたちは思わず写真を撮りたくなるようなかわいいデザインばかり。

レトロなタイルがたくさん。思わずどんどん探したくなる。

wifi環境は問題なし。船の時間だけ気にしよう。

「乗るかい?」と聞いてくれる船長。待ってといえば多少待ってくれる。

一見不自由そうに見える保戸島暮らしですが、現在は光ケーブルも引かれたので、リモートワークを行うにはなんら不自由はないそうです。

島田:空き家はあるので、起業などに興味がある方には今はある意味チャンスではあるんですよね。カフェも今ないから、そういうことがしたい方にはうってつけの状況ではないかとも思うんです。

不自由をあえて伝えるとしたら、大変なのは「船の時間」とのこと。そんな大変さに、市内の方も合わせてくれるので助かるのだとか。

島田:日帰りの仕事は船の時間にどうしても縛られます。18時出航の便が最後なので、市内で会議があり出席すると、17時半には出てこないと間に合わないです。逆に、午前中の会議だと待ち時間が長すぎたり、ちょうど良い便が少ないので、会議の時間自体を調整してもらいます。市内の方も慣れているので、時間を合わせてくれるのはよくあることですね。

また、市内や他の地域から移動販売を呼ぼうにも、船で車を運ぶ大変さやコストのこともあり、まだまだハードルが高いと話します。

何もないが強み。コミュニケーション好きにはもってこい。

いつの間にか増えていた椅子たち。ここに時間になると毎日島の方々が集まり談話が始まる。

保戸島の港を少し歩いていると、椅子が何気なく置かれているゾーンが2つほど見えます。ここには毎日同じ時間になると、どこからともなく島の方々が集まって、おしゃべりが始まるのだとか。昼間は男性が、午後は家事を終えて一息つく女性が集まります。私が取材していた時も時間になると集まり、「どこから来たのか?」など尋ねてくれたり。

少し散歩しただけで広がる大自然は圧巻。

少し歩けば大自然で、青い海と木々の緑が広がっている保戸島。広告はほぼなく、建物は都会的でも、各々の家の隙間を利用した家庭菜園があったり、井戸水があったり。ゆったりとした島暮らしを楽しめます。島田さんは今保戸島は盛り上がるか廃れるかの瀬戸際だと感じているのだとか。そんな保戸島に今向いてるのは“コミュニケーションが好きな方”だと言います。

島田:リモートワークなど仕事はなんでも良いのですが、今島にある日常を楽しめる方が良いと思います。家に籠るだけでなく、町のおじさんやおばさんと話したりすることでいろんなことを知れると思います。どんどん積極的に話しかけたり、参加したりするような方が向いている島ですね。良い人だと思ってもらえたらすごく良くしてもらえます。最初は少し様子を見られるかもしれないけど、気にせずどんどん関わってもらえると良いですね。お子さん連れの方はとても歓迎されますよ。安心して連れてきて欲しいですね。みんなで世話してあげられるので。まずは通ってみて欲しいですね。その間に自分の暮らしがどうここで作れるか想像を膨らませて、色々相談してみて欲しいです。

最後に

離島の人口減少はどこも著しいですが、保戸島も例外ではなく、深刻な問題ではありますが、だからこそ1人増えるだけでも嬉しいと話す島民のみなさんの顔が忘れられません。どの町でもそうかもしれませんが、1人の価値の大きさを感じられる環境で、密度の濃い暮らしを堪能するのも良いかもしれません。制度が全て整っている場所では物足りず、むしろ自分たちの手で作っていきたいと思っているような方に向いているかも。今回の取材時も街中を一緒に歩いて案内してくれた島田さんは、本当に町を熟知していて、島の方々からもよく声をかけられていました島田さんのような、移住者と地域の方を繋いでくれる方がいると、とても安心できますね。何より、保戸島の方を取材するということで、お仲間が一緒に同行してくださったのは保戸島が初めてでした。それだけ「来て欲しい・知って欲しい」という想いが強いのだなあと、私も心が温かくなりました。津久見港まで来れれば島まで船1本。あっという間に着くのでぜひ行ってみてください。

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WRITER 記事を書いた人

Tomomi Imai

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25歳でフリーランスとして独立し、多様な分野にてプロデュースやディレクター業を経験。モノコトヒトをつなぐひと。多様な伴走を得意とする。絶賛子育て中。ヨガ・サーフィン・音楽・映画・コーヒー・日曜大工が趣味。

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