大分移住手帖

‘‘らしさ’’ってなんだろう?教師を辞めて自分らしさを発揮する場づくりを仕事に

Tomoe Sato

取材者情報

お名前
森 遼太
出身地・前住所
千葉県市川市
現住所
大分県臼杵市
年齢
33歳
家族構成
独身
職業
自営業
Webサイト
https://manaban.peatix.com/
Facebook
https://www.facebook.com/ryota.mori.146/

大分県臼杵市の無人島で行われている‘‘無人島合宿(キャンプ)‘‘をご存じですか?無人島合宿を開催している森遼太さんは元々青森・埼玉で小・中学校教師をしていました。しかし、画一的な学校教育に疑問を感じ、もっと日常生活や遊びを通した体験学習を行っていきたいと思い、自然豊かな臼杵市へと移住したとのこと。現在は無人島合宿以外にも、大学生を対象としたセミナーや子どもを対象とした自然体験学習など様々な活動に取り組まれています。

無人島合宿とはどういったものなのかや、森さんの現在の活動、移住前と後で生活がどう変わったかなど、お話をお聞きしました。

‘‘個を大切にする’’教育とは何か、自問自答する日々

千葉県市川市出身の森さんは、大学卒業後に青森県の中学校で幼少期からの夢であった教師として働き始めました。

教師時代の森さん

森:地方の教育と都会の教育の違いを知りたいと思っていました。まずは、地方の教育を知るために青森の中学校に赴任しました。経験豊かなベテランの先生方から丁寧に指導をしていただき、教師としての基礎を固めることができました。

3年間働いた後、都会の教育を知るために埼玉県の都市部の小学校に赴任しました。その学校では児童数が多いこともあってか、昔ながらの画一的な教育が行われていました。

例えば、笛の合図で同じ動きをする指導や教室内ルールの徹底などです。こうした指導の中には「個性を軽んじているのではないか?」と思うものもありました。多様性が尊重される今の世の中とは逆行する教育現場を目の当たりにし、“誰のための教育活動なのか?”“個を大切にする教育とは何か?”自問自答する日々でした。

 

森さんは日本社会の余裕の無さにも漠然とした不安や危惧を抱いていたそうです。

 

森:学校現場で関わる親は仕事や子育て、子どもは勉強や習い事に追われ、いつも心に余裕が無く、疲れているように見えました。このままでいいのかと、モヤモヤする日々でした。

日常を忘れ自然の中で過ごし気づいた‘‘遊び’’の大切さ

子どもたちに海の危険を教えている様子

森さんは小学校の頃から、長野県で行われている自然体験活動に参加されていたそうです。この活動は3泊4日でキャンプを行い、自然体験を通して、人生の礎となる生きる力を育むものです。さらに森さんは、高校生からは運営側のボランティアとして参加するようになり、当時キャンプスタッフだった臼杵市在住の佐藤陽平さんと出会ったそうです。この出会いが臼杵市への移住のきっかけになったのだとか。

 

森:私がちょうど教育について悩んでいた2016年に、(一社)ひとねるアカデミーの佐藤陽平さんから「臼杵の海でとにかく遊ぼう!」と誘われ、陽平さんのお宅にお邪魔し自然体験活動をさせてもらいました。自然の中で日常を忘れ、遊びにのめりこんだことは、私にとって未知の体験でした。

この時に「遊び」の中での気づきや学びがいかに大事かということを改めて実感しました。この日の夜に陽平さんと話している中で「僕がやりたかったことは、こういう遊び体験の場を作っていくことだったんだ」と気づき、モヤモヤが晴れ、臼杵市への移住を決断しました。

 

森さんは臼杵市で佐藤さんと過ごしたことで、これまで抱えていた悩みを解決できる可能性を感じたそうです。大自然の中でアクティブラーニングを展開することで、子どもたちが主体的に学習に取り組むようになるとのこと。‘‘遊び’’の中で得られる生活の知恵や、生きるうえで大切な‘‘人との繋がり’’の大切さも、このような体験活動の場から学ぶことができるそうです。

 

自分の意志で自分らしい人生を創る

遊び体験を通した教育を行うために、臼杵市への移住を決断された森さん。前職の引継や住まいの準備などを行い、2018年に移住してきたそうです。教師を辞めて移住してきた森さんの現在の活動についてお聞きしました。

無人島キャンプの事前ミーティングについて話してくれた森さん

森:現在の主な活動は‘‘遊びの場を作る仕事‘‘です。臼杵市内で青年向け無人島合宿や寒中水泳合宿などの人材育成合宿を2017年から行っています。また2020年から週1回、先生を目指す学生さんを対象にしたオンライン講座「まなばん」の運営も始めました。その他にも、地域に入って困りごとを聞きながらまとめていくファシリテーター業務や講演活動、オンラインでも遊びや自然体験活動ができるコンテンツ制作など行政や地域の方と一緒に様々なことに取り組んでいます。

今の社会は何事も効率化・合理化していくことを優先する傾向にあります。しかし、無駄を省くことだけに注力していたら、大切にすべき物事の本質が見えなくなってしまうと思います。無人島での合宿や寒中水泳は一見、生産性のない無駄なことに思えます。しかし、この合宿に参加された方からは「あの時大丈夫だったから大抵のことは大丈夫。自信が持てるようになった」という声をたくさんいただきました。

遊び体験を通して、参加者が自分の価値観を確率したり、自分らしさを発揮できるようになればいいなと思っています。また近年、SDGsが話題となっていますが、臼杵市は古くから人々の心に質素倹約の精神が宿っていたり、一つのまちで山川海の水の循環が完結する地形をしていたりと、循環型社会の実現に適しています。この素晴らしい臼杵市の環境や、私がこれまで培ってきた経験を活かして、大人も子どもも体験しながら学ぶことができる場づくりを推進していきたいと考えています。

無人島合宿で指揮を執る森さん

「臼杵っ子サマーキャンプ」の様子

青年を対象とした‘‘無人島合宿‘‘

現在行っている無人島合宿は、18~30歳くらいまでの男女を対象としたものです。無人島合宿とはどのようなものなのかお聞きしました。

無人島合宿の様子

森:無人島合宿は夏場に臼杵市の津久見島で行います。津久見島は十数年前までは人が住んでいたそうですが、今は誰も住んでいません。しばらく人が住んでいない島なので、危険が多い場所でもあります。

参加者は15~20人程度で、スタッフが同行します。無人島に行く前に、まず作戦会議を行います。そこで無人島合宿とはどういうものなのか説明し、私たちの考えや想いを伝え、その後、自分たちで何が必要か、食材はどうするのかなどを全て話し合って決めてもらいます。キャンプ経験がほぼ無い人からベテランまで様々な人がいますが、みんな思いは1つ、‘‘他者のために’’という気持ちを大切にone teamで頑張ってもらいます。

参加者にとって2泊3日の合宿は、想像以上に体力が削られ、苦労も多いと思いますが、自分たちだけで無人島で過ごすことができたという経験や、その経験を他者に話してアウトプットすることで自信に繋がります。

 

現在では、企業の新人教育や社員研修で無人島合宿を行いたいという問い合わせも多くあるとか。周囲との繋がりを絶ち、新たな自分に出会うことができる無人島合宿。非日常体験の中で、これまで気づかなかった自分の魅力や‘‘自分らしさ’’を再発見する機会になりそうですね。

移住が‘‘目的‘‘とならないように。環境ではなく自分自身が変わる為に

移住後の生活について語る森さん

臼杵市に移住された当初は、漁師町の古民家で暮らされていた森さん。家探しには苦労されたそうです。

 

森:理想の家は「海が近くにあって、畑付きで安い物件」でした。移住するまでに何度か臼杵市を訪れて、空き家バンクや不動産屋を通して探していましたが、なかなか見つかりませんでした。最終的にはたまたま見ていた住宅販売のサイトで見つけた空き家に決めました。そこは、中心部から車で40分ほど離れており、少し不便な場所でしたが、自然豊かなところで気に入っていました。

 

千葉や埼玉などの都市部で生活されていた森さんですが、田舎の地域になじめるか不安はなかったのでしょうか。

 

森:移住するまでに市役所の方に、引越し挨拶のことなど地域の風習を教えてもらっていました。また、地区の寄合が月に一回あったのですが、毎回参加してはお酒をたくさん飲みました。大変でしたが、顔の見える関係づくりを大切にしていたので必ず参加していましたね。他にも物々交換やお互いの家を行き来するなど対話を繰り返し地域の方と関係を築いていきました。その漁師町には2年ほど住み現在は臼杵市の中心部に近い場所に引っ越しました。今でもその地域の方々との関係は続いており、漁師体験学習の企画をした際に協力していただいたこともあります。ただ、一部のご近所の方と上手く関係が築けず、トラブル等もあったので田舎暮らしの良いところばかりを目的に移住していたら心が折れていたかもしれません。移住して不安や苦労もたくさんありましたが、陽平さん家族始め、多くの臼杵の方々の温かい気持ちに支えられました。「応援してくださる皆さんに少しでも恩返しがしたい」という想いで乗り越えましたね。

無人島合宿の様子

「移住して環境を変えるだけで理想の暮らしが手に入る」と思うと、現実と理想のギャップに苦しむかもしれないと森さんは話します。移住を考える際には、移住先で自分が何をしたいかを大切にしてほしいそうです。

オンライン漁業体験学習の様子

おわりに

森さんのお話は全て経験に基づいており、自分らしく幸せに生きる為の方法が詰まっていました。そんな森さんの元には、仕事の依頼だけでなく移住相談なども寄せられているそうです。「臼杵市は山川海など様々なフィールドでいろいろな体験ができますし、それに協力してくださる素晴らしい方々がたくさんいます」と森さんは言います。

移住前に教師を辞めるということで否定的な意見もあったそうですが、森さんの活動は教師の経験を活かせる新たな活躍方法の1つではないでしょうか?

森さんは臼杵市だけでなく大分県に移住を検討している方の相談も受けているそうなので、気になる方は一度、森さんのお話を聞いてみてはいかがでしょうか。

WRITER 記事を書いた人

Tomoe Sato

大分生まれ、大分育ちの根っからの大分人。現在は子育てをしながら趣味の延長線でライターとして活動している。

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