大分移住手帖

 どんな私も認めてくれる。辿り着いた居心地のいい街。

Tomoe Sato

取材者情報

お名前
中村香純
出身地・前住所
福岡市
現住所
佐伯市
年齢
33歳
Facebook
https://www.facebook.com/kazumi.nakamura.77/

佐伯市の中心部にある「新町通り」に面した建物の2階にあるレトロモダンな雰囲気の投げ銭ゲストハウスさんかくワサビ。中村香純さんが経営する、全国でも珍しい投げ銭システムのゲストハウスです。

中村さんが「たくさんの人からもらった恩を周りの困った人へと返していきたい」という想いから始めたゲストハウスは、2021年10月で2周年を迎えました。そんな中村さんの佐伯市に移住する前から現在に至るまでの生活についてお話を伺いました。

 

少しでも常識から外れると非難される環境が嫌になった

中村さんは福岡県で生まれ、その後神奈川県横浜市へと引っ越し幼少期を過ごしたそうです。20歳の時にはワーキングホリデーの制度を利用しオーストラリアを訪れました。

 

中村:最初は友人を訪ねてメルボルンに行き、農場での季節労働やベビーシッターをしながら各地を転々としました。

1年後、福岡に戻り祖母の看取り介護をしました。祖母の他界後、友人の多い東京へ引っ越し、介護の資格を取得したことをきっかけに、4年ほど重度身体障がい者の自立支援に従事しました。

仕事にも友人にも恵まれていましたが26歳の時に、東京に住む幼い子を抱えた母親の行動が非常識だと、Twitterで炎上しているのを見ました。私からしたら「そんな小さなことで非難されるの⁉」と思うようなことだったんです。私も子どもが生まれたら周りから非常識だと言われる行動を無意識のうちにしてしまうのではないかと思い、このまま東京ではやっていけないと考え車で旅に出ました。

今思うとよくわからないきっかけですね(笑)。

 

笑いに包まれた地域おこし協力隊の面接

旅に出た時に、総務省が運営している地域おこし協力隊のマッチングサイトにて、佐伯市の地域おこし協力隊のことを知ったそうです。なぜ佐伯市なのかと伺うと「子どもの頃に大好きだった芸人のダイノジが佐伯市出身だったから」だそうで、そのまま面接を受けることになった中村さん。面接の前は、「固い話ばかりなのだろう」と思っていたそうですが、実際は想像と違っていたそう。

 

中村:面接を受けるのにスーツがなくて、当時の自分の一張羅を羽織って行ったんです。江戸時代の庶民が着ているようなつぎはぎだらけの和服です。そうしたら、面接官の人が「その服はどこで買ったんな⁉(買ったのですか?)」と笑いながら聞いてくれて(笑)。

 

そこからずっと終始笑いの絶えない面接でした。「こんな朗らかな人たちがいる地域だったら良い場所なのではないか」と思ったんです。合格通知は来ましたが決め手が足りなくて、市役所の方に「良い家が見つかったら移住します」と伝えたところ、移住担当の方が一緒に不動産屋を回ってくれました。また、佐伯市にUターンされた先輩移住者さんも紹介していただき、一緒に家探しをしてもらいました。

その日の夜に帰るつもりでしたが先輩移住者さんに「泊まっていくやろ?」と言われ、急きょ佐伯市に泊まることになり、そのまま飲みに行きました。言われた居酒屋に行ってみると、その先輩移住者さんと市役所の移住担当の方とその家族までいて、気づけば10人くらいになっていました(笑)。その場がすごく心地良くて、居酒屋さんのご飯も美味しくて、最終的に移住することに決めました。

 

佐伯市の“おいさん”を探して

月刊『佐伯のおいさん』

地域おこし協力隊として佐伯市に移住することになり、観光課に配属された中村さん。佐伯市にしかない魅力を伝えるにはどうしたらいいか考えていたところ、ある企画を思いつきました。

 

中村:佐伯の魅力と言えば魚が美味しくて人が温かいところですが、これって全国の漁師町ならある程度共通することじゃないかと思って、佐伯ならではの魅力はないかと考えていました。そこで、地域のことを知るために水の子島海事資料館に見学に行ったところ、館内を案内してくれる面白いおじさんに出会ったんです。

案内してくれるのは有り難かったんですが、その方の方言が強すぎて八割方何て言っているか分からなかったんです(笑)。困っていたら、いきなり標準語で「分からなかったでしょ?」って聞いてきて、分かってやっていたんだってことが判明してこれがまた面白くて(笑)。

この方以外にも面白いおじさんが佐伯市にはたくさんいるのに、なんでこの魅力にみんな気づかないんだろう?と思ったんです。そこで、観光スポットにいるおじさんに光を当てるという企画書を市に提出したところ実現できることになり、フリーペーパー『佐伯のおいさん』を発行することになりました。

 

佐伯市の街にいる、中村さんが気になる“おいさん”に声をかけては取材を行い、フリーペーパー『佐伯のおいさん』を10号まで発行したそうです。地域おこし協力隊を終えた今でもWEBメディアで書き続けているそう。気になる方はこちらをご覧ください。

投げ銭ゲストハウス「さんかくワサビ」

さんかくワサビ 外観

佐伯市で地域おこし協力隊として勤める前から、「ゲストハウスをやってみたい」と思っていた中村さん。「旅をする側から、いつかは居心地の良い土地で旅人を受け入れる側になれたらいいな」、という思いが頭の片隅にあったそうです。宿泊料金を投げ銭というユニークな方法にした理由を尋ねると、旅をしていた際にたくさんの方に助けてもらった恩を次の旅人にまわす仕組みがあったら面白いと思ったんだとか。

 

そんな想いから始まったのが投げ銭ゲストハウス「さんかくワサビ」でした。

さんかくワサビ 中央スペース

中村:移住して3年目にはゲストハウスの物件工事に取り掛かりました。

投げ銭のシステムとしてはチェックインの時に1000円を頂いて、投げ銭を入れるポチ袋を渡します。そして、帰る際に自分の思う金額をポチ袋に入れて返してもらうというものです。

決して「安く泊まれる」「1000円だけでも泊まれる」ということではないんです。

たまたま隣に居合わせた人の必要としているものを自分が持っているのなら「あぁ、どうぞ」と渡せる場所があったらいいなと思っています。

例えば安定した収入があり、趣味で自転車旅をしている人と、移動費節約のために自転車旅をしている大学生がたまたま同じ日に宿泊することになって。さんかくワサビの居間で仲良くなり、大学生を食事に連れて行ってくれたり「出会わせてくれたこの場所に、大学生の分も投げ銭するよ」と言ってくれる、なんてことが普通に起こるのです。

お客さんは東京や京都などの有名観光地に飽きた外国人や大学生の一人旅など様々です。また、ゲストハウス以外にもコワーキングスペースやランチのあるカフェ、第2、4週の金・土曜日の夜はオイスターバーもやっています。平日は佐伯市に下宿している高校生達が夜ご飯を食べに来るなど、にぎやかな毎日を過ごしています。

宿泊された方には希望に応じて、佐伯市の飲食店や観光スポットを紹介します。美味しいお店の情報だけでなく、お店の夫婦のやり取りが面白いとか、一人で飲みたいならここがお勧めなど裏話も伝えるんです。後日お客さんから「あの店すごくよかった」という声や、お店の方から「この前紹介してくれたお客さんにまた来て欲しい」という声をいただくことも多く、とても嬉しいですね。

全14床のドミトリー(うち2つはダブルベッド)

投げ銭システムは全国的にも珍しいサービス。ポチ袋に入れる金額に戸惑う方には平均額の3000円(最初の1000円含む)を入れてもらっているそうです。ゲストハウスで観光情報を教えてくれるところは他にもありますが、さんかくワサビの良さは中村さんのお話の面白さにあります。宿泊される方はついつい笑ってしまう中村さんのユーモアあふれるお話を聞いてみることをおすすめします。

 

良い距離感で自分を見守り、認めてくれる場所

佐伯市に移住して想像と違ったことなど、現在の生活のことをお聞きしました。

 

中村:嫌になればいつでも出ていけばいいという思いで移住しましたが、最初から今まで嫌になったことはありません。田舎だから世界が狭くて生きづらいとかそんなことも全然ないですね。今はUターンの方が多く、若い人も増えて、佐伯市はこれからさらに元気になると思います。

移住する前は田舎だから飲食店がそんなに無いだろうと思っていましたが、意外と多いので全然不便じゃありません。本格的な料理が安く食べられるし、東京みたいに並ばなくていいから、居心地がいいですね。

 

商店街の中に店舗を構えていますが、面倒な事もなく区長さんも親切だそうです。また佐伯市に移住してから気持ちの面で変化したことがあったそう。

洗面スペース

中村:東京にいた頃は、人と違うことがあっても言わない方がいいと感じていたし、言っても埋もれてしまって誰かに認めてもらえるような場所がありませんでした。

今は、おかしなことをしても「あの人は都会から来ているからね」と微笑ましく見守ってくれて、良い距離感で“よそ者”として扱ってくれます。新しいことを提案しても「いいね!」と言って否定せずに認めてくれて、前向きに考えてくれるんです。才能を見出してくれるというか、認めてもらえることで移住してから自己肯定感が上がった気がします。

 

移住して5年目を迎える中村さんは、佐伯市での暮らしやさんかくワサビをより豊かにするために、積極的に市外の方と関わったり、新しい活動に挑戦したり、研修も兼ねて他のゲストハウスを回ったりしているそうです。町に暮らしを委ねるのではなく、自ら住みやすくしていきたいとのこと。自分らしく暮らせているこの町だからこそ、同じように気に入ってくれる人が増えて、一緒に楽しく暮らせたらより嬉しいと語る中村さん。移住して知り合いも増え、充実した日々を過ごしているそうです。

さんかくワサビ内装

おわりに

いろいろな出会いを繰り返し、佐伯市に移住することになった中村さん。佐伯市の魅力を誰よりも知る彼女は、もはや“よそ者”ではなく立派な佐伯市民と言えるのではないでしょうか?

佐伯市を訪れた際は、さんかくワサビで観光情報を手に入れ、観光スポットや街にいる‘‘佐伯のおいさん’’を探して巡ると、新たな魅力が発見できるかもしれません。

WRITER 記事を書いた人

Tomoe Sato

大分生まれ、大分育ちの根っからの大分人。現在は子育てをしながら趣味の延長線でライターとして活動している。

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