取材者情報
- お名前
- 江藤健司
- 出身地・前住所
- 広島県福山市(出身地:玖珠郡九重町)
- 現住所
- 玖珠郡玖珠町
- 年齢
- 43歳
- 家族構成
- 妻・長女(中2)次女(小6)三女(小3)
- 職業
- 革職人
- Webサイト
- http://guilty-lf.jp/
- https://www.facebook.com/guilty6679
大分県玖珠郡九重町出身の江藤さんは日田市で土木関係の企業で働いていましたが、ずっと興味のあったレザークラフトを学ぶため広島県福山市へ移住した後、玖珠郡へUターン。今では全国各地にファンを抱えるオリジナルのレザークラフトブランド「GUILTY FLAME」のアイテムや、アパレル・バイク用品などを扱うセレクトショップを経営しています。また、不動産業や地域のお祭り、婚活パーティなどにも携わり、多方面で活躍しています。そんな江藤さんに玖珠町での起業についてや住み心地などをお聞きするべく「Guilty Leather Factory」を訪ねました。
揺るがない夢と情熱が、玖珠での開業へと導く
江藤さんは自然豊かな玖珠郡九重町で生まれ育ち、高校卒業後は日田市の土木関係の企業へ就職し、仕事に没頭しながらも趣味であるバイクからレザーへの世界に足を踏み入れます。
江藤:バイクといえば、レザーウォレットがセットなんです。落とさないようにウォレットチェーンにレザーウォレットを繋いでツーリングへ行きます。ですが、高価なので当時は買えなかった(笑)。 そこで買えないなら自分で作ろう!って思い立ったんです。
レザーウォレットを自作していると、周りからも頼まれるようになり、どんどんレザークラフトの魅力にハマっていった江藤さん。いつしかこのレザークラフトで自分のお店を持ちたいという思いが生まれたそう。
独学で一通りのレベルまでは作れるようになりましたが、自分の技術がどこまで通用するのか、プロのレベルはどんなものなのかを実際にプロの元で学んでスキルアップしたいと思うようになり、仕事を辞め、修行のために広島県福山市に移住したとのこと。毎日師匠の元でレザーと向き合う日々を経て、様々な技術や人脈を得たそうです。
広島にいる間に人生を共にするパートナーとの出会いもあり、独立という次なる人生のステージへ進むために二人で玖珠郡への移住を決意したそう。
お店を開くなら玖珠町で
現在の奥さんと一緒に玖珠郡九重町へUターンした江藤さん。九重町へ帰郷してからは、しばらく実家の倉庫で革製品を作りながら開業準備に勤しんだそう。お店を開くなら玖珠郡の中でも商業ベースがある場所がいいと思っていたため、九重町の隣に位置する玖珠町で開業しようと考えていました。
当時はネット環境もまだ整っておらず、不動産会社に足を運んで住居付き店舗物件を探していました。都会と違い物件数はそんなに多くはなかったものの、無事玖珠町で見つかったそうです。
江藤:見つかった物件は、そのままではオープンできる状況ではなかったため、友人に手伝ってもらいながら改修しました。床に板を貼ったり、ペンキを塗ったりしてお店っぽく仕上げましたね。資金調達などに関しては商工会の方々にとてもお世話になり、日本政策金融公庫から融資を受けられることになりました。
こうして玖珠郡玖珠町にて待望の工房と自社の革小物を置くお店「Guilty Leather Factory」をオープン。同日に現在の奥さんと入籍し、玖珠郡玖珠町での新たな生活が始まりました。
江藤:お店がオープンした日はワクワクでいっぱいでしたね。何よりお店を出すことが目標で進んできたので、嬉しいと同時にひと段落ついてホッとした気持ちでした。
ゆとりある玖珠時間
広島県福山市は、人口46万人の中核市。そこでの都会生活を経て、田舎の玖珠町に来た江藤さん。県外に住んだ経験があるからこそわかる玖珠町の良さがある、と教えてくれました。
江藤:まず、生活の中心に自然があることで心がとても潤っているという実感があります。何より、玖珠町で生活する大きなメリットはゆとりある時間の使い方ができることだと思います。
例えば、通勤時間などは都会に近ければ近いほど渋滞や通勤ラッシュに巻き込まれますが、玖珠町に来てからは、通勤にかかっていた時間を趣味のツーリングに使うことができています。自然豊かな景色を楽しめ、贅沢な時間を満喫できます。朝起きてそのままツーリングを楽しんだ後に開店準備をするので、存分にリフレッシュして気持ちよく仕事に取り掛かれます。
都会で同じように開業したとしても通勤時間のストレスや、高い家賃、物価の中で商売しなければならないことはリスクになると思います。
“無い”からこそ可能性がたくさんある
もともとものづくりが大好きだったという江藤さん。起業する上で、都会より情報量などが劣り、不利とされている田舎の玖珠町で職人として長年店を続けてこれた秘訣はそこにあるそう。
江藤さん:もちろん意地もありますが、やっぱりレザークラフトが好きで、好きなものを作れるという喜びがここまで連れてきてくれましたね。あとは売れればどこで作ってもいいというわけではなく、ここ(玖珠町)で作って、ここで販売するというプロセスを私は大事にしていました。”Made In Kusu” というブランディングや付加価値をつけたいという気持ちがあったんです。
初めの頃はレザーだけで生計を立てるのは大変でしたが、その都度どんな風にやっていくのかを考え実践するうちに、気づけば横のつながり、クチコミ、SNSを通して認知度は上がり、今は収入も安定しているとのこと。
江藤さん:今はオンラインで販売できるので、都会からどれだけ遠い場所で商売しても全く問題はないと感じています。休日の日に都会から足を運んでくれるお客さん達は、自然などの観光と絡めて楽しんで来てくれていますね。お客さんが“これがいい”と感じてくれるなら、場所などは全くハンデにならず求めてくれると実感しています。
お客さんの8〜9割は実際に店舗に来て購入されるそうで、週末にはお客さんが来てくれて、平日はゆっくりとものづくりに集中できるというバランスも江藤さんにとってはちょうどいいと感じているそうです。
江藤さん:私が子どもの頃は、周りの大人は農業をやっている方が多く、町にファッション文化やポップカルチャーがもっと欲しいなとずっと思っていました。こうやってお店をずっとやり続けているのも、ただお金を稼ぎたいというだけではなく、子どもの頃に欲しかった文化を作っていきたいという気持ちが強いからです。
玖珠町は映画館やファッションビルなどがないのでそれをマイナスに感じる若者が多いように感じますが、無いからこそそこに可能性があるとプラスで考えています。
仕事以外にも学生の頃から愛している音楽を発信したいと、自社ビルの空き店舗を使った音楽イベントを開催するなど、“若者が住みたい”と思えるまちづくりに尽力しているそう。
玖珠町の住み心地は?
江藤さん:広島県福山市出身の奥さんとは、玖珠町へ移住することについてしっかり話し合いました。最初は不安がっていた奥さんも今となっては自然豊かでのんびりとした玖珠に住んで良かったと思っています。
玖珠町に実際住んでみてびっくりしたことは、産婦人科が一軒しかなく選べないということでした。設備が整った大きな病院もなく、少し大きな病気をしたら隣町まで行かなければならないことには少し不便さを感じているそう。
そうはいっても、玖珠町は交通の便が良く、高速道路を使えば福岡市や大分市にも気軽にアクセスでき、中心部にはスーパーはもちろん家電や衣服などの買い物ができるお店もコンパクトにまとまっていて、充分住みやすいそうです。
学校の行事や地域のイベントに参加する中で、自然と地域の方とつながり、どんどん知り合いが増えていったという江藤さん。学校は児童数が少ないためコミュニティ自体もコンパクトで、子どもとその親もみんな知り合いという田舎ならではのアットホームな近所付き合いをしているとのこと。商工会議所の青年部の活動として玖珠祇園大祭に参加したり、毎年開催される地元の婚活パーティーで司会を担当したりと、玖珠町での生活を楽しんでいるそう。
江藤さん:子どもが小さい頃はよく自然を堪能しにパラグライダーができることで有名な伐株山へ遊びに行きましたが、自分が子どもの頃には気がつかなかった側道を見つけるなど、馴染みがある場所でも新たな発見があります。子育てをしながら「玖珠にはこんな良い場所や、知らない部分があったんだな」と改めて感じましたね。
これからもっと玖珠町を盛り上げたい
今後は、地域でレザーを利用した産業を育成して、雇用が生まれるような活動をしていきたいと思っているそう。
江藤:玖珠では、害獣駆除として鹿や猪は処分されることが多く、それ以外の部分を何か活用出来ないかと考えていました。そこで昨年「玖珠産ジビエによるオリジナル商品開発とPESOメディア活用したファクトリーブランド化」としての事業計画を発表し、大分県の経営革新計画の認定を頂き、現在玖珠産の鹿革を使った商品開発を行っているところです。今年中には形にして、玖珠町を盛り上げていきたいと思っています。
最後に
玖珠町を大切に想う気持ちと、レザークラフト、音楽、バイクなどを愛しむ想いを1つずつ柔軟に着実に形にしていき、いつの間にか玖珠町でファッションや音楽文化発信の中心となっている江藤さんと「Guilty Leather Factory」。これまでの経験やアイディアを活かし、どんな風に玖珠町から発信していくのか、今後の展開がとても楽しみです。