取材者情報
- お名前
- 近藤 広典
- 出身地・前住所
- 出身地:高知市
前住所:南国市
- 現住所
- 宇佐市
- 年齢
- 51歳
- 家族構成
- 嫁・子供2人(中1・高1)
- 職業
- (株)ひかりファーム 代表取締役
稀に見る販売記録を獲得したCD・レコードショップ店員、世界100ヶ国以上を巡ったバックパッカー、大手金融・保険会社で優秀な営業成績を収めた会社員… どれもなかなか達成できない経歴ですが、そんな経験を積んできたという近藤さん。一念発起して未経験だった農業の世界に飛び込み、現在は宇佐市を中心に活躍されている、そんな彼の移住ストーリーをお聞きしました。
移住に至る経緯・大分県に決めた理由
近藤さんは高知県で生まれ育ち、大分市内の大学に進学後、同市内にあるCD・レコードショップで働き、その後世界を旅したそうです。
近藤さん : 就職活動をする気がなくて、アルバイトで働いていたCD・レコードショップからお声掛けを頂いて、そのまま就職しました。自分が担当するコーナーで好売上を出すなどの経験ができましたが、次第に疲れてしまって… 仕事を辞めて世界を旅して回りました。
帰国後、故郷の高知県で金融・保険会社に就職し、全国でも優秀な販売成績をおさめるほど活躍されたとのこと。そんな忙しい日々の中、顧客の資産形成などを考えるために一次産業の問題点を調査していた際に、肥料が地元で生産できず県外から購入している事を知った近藤さんは、地産地消の肥料づくりを通じて田舎で地域おこしができるのではと考え、脱サラして未経験の農業で起業しました。
近藤さん : 高知県四万十町で肥料づくりからスタートし、その後はにら・卵・米・トマトと品目を増やしました。経験者と比べると苦労する場面も多かったですが、全ての作業を自分達だけでやりました。未経験で手探りだったため失敗もありましたが、データを解析しノウハウを蓄積する事で、事業を拡大していきました。
そんな近藤さんが宇佐市への進出を考えたきっかけは、友人である大学の先生からの紹介だったそう。
近藤さん : 他県へ進出するにあたって、今の自分の農地で起こりうる災害リスクを避けたいという考えがありました。 最終的に埼玉県上尾市と宇佐市で悩みましたが、運賃など流通コストの面で上尾市は魅力的でしたが、候補地の農地が0.3ヘクタールしかなく、ビニールハウスも骨組みしかない状態でした。先生からご紹介頂いた宇佐市の候補地は1.2ヘクタールの農地と使用できるビニールハウスがあり、スケールメリットが大きいため宇佐市へ進出する事にしました。
関東と比べると宇佐市は温暖な気候で、にらを育てる際に使用する暖房が不要なのではと感じるほどで、結果的に宇佐市を選んで良かったそうです。
近藤さん : 災害を避けたはずなのに、宇佐市で事業を開始した後に台風が直撃した際は驚きましたが(笑)、農地が広く大量生産が可能なので生産コストを考えた時に、農業は宇佐市が適していると思いました。
移住後の仕事について
宇佐市とひかりファームで「ニラなどの生産拡大に伴う協力協定」を結ぶなど、順調に成果を上げている近藤さん。と同時に、民間と行政の違いに戸惑う事もあったそう。
近藤さん : 民間事業者は仕入れをできるだけ安くするなど現状に合わせて対応する事が当たり前ですが、行政の場合はしっかり決められた予算と計画があるので、当然ながら計画に沿って進めなければいけないという違いがありました。農業は自然が相手で、気候や災害などの影響を受ける産業のため、計画どおりに進まない場合もあり、その点が上手く噛み合わないというもどかしさを感じました。
四季の移ろいを感じる生活
近藤さん : 宇佐市は、太平洋戦争を今に伝える旧宇佐海軍航空隊掩体壕跡や平和資料館をはじめ、葛原古墳・凶首塚古墳・小部遺跡などの歴史を学べる史跡が数多くありますし、家族で楽しめる大きな公園や温泉もあり、魅力的な街だと思います。夏は米、秋は麦など、四季で移ろう景色も風光明媚で素晴らしいです。
商品の配達で日田市や熊本県に足を伸ばす事があるのですが、宇佐市から玖珠町を抜けて九重町や小国町と車を走らせていくと、美しい山々を見る事ができます。四国の山は険しいため、ドライブがてら九州の景色をゆっくり眺める事が新鮮で楽しみとなっています。国道387号線沿いは耶馬溪の渓谷の岩造りなどもあり、コンテンツが豊富だと思います。宝泉寺温泉や杖立温泉などの温泉街も多いし、本当に良い場所だなと思います。
九州の雄大な自然を手放しで褒める近藤さんですが、狭い範囲で地域を見てみると問題に感じる部分もあるそうで…
近藤さん : どこの田舎でも共通している課題かもしれませんが、住宅の需要と供給が合っていないと感じます。古民家などは安いのですが生活できるようにリノベーションを必要とする物件もあります。アパート・マンションで生活しようとすると、大分市よりも家賃が高いほどです。田舎なので物件数が限られている事もありますが、職場の近くで探したところ、ちょうどいいと感じる物件がなかなか見つかりませんでした。若い世代の田舎での移住定住促進のためにも、このミスマッチの解消は必要だと感じます。
田舎暮らしについて
事業が落ち着くまではと、単身赴任を続ける近藤さん。年末年始や長期休暇シーズンは、家族と離れていることや店も閉まっているなど、寂しさや不便さを感じるそう。
近藤さん : いつかは高知県にいる家族の移住も考えているのですが、間もなく始まる予定の新しい取り組みなどもあり、まだ先になりそうです。今は事業にしっかり専念する時期だと考えています。その際には家族で住める家も探さないといけないかなと思います。
そんな近藤さんは、宇佐市も含めて、田舎暮らしには共通する特徴があると感じているそう。
近藤さん : 田舎は車社会です。例えば、家族がいる方は通園や通学の移動距離が短い方が良いでしょうし、道が細くて車の渋滞も多いので、事前のリサーチも大切になってくるかと。
また、都会と比べて人と人との距離が近いと思います。良い意味だと面倒見がいいけど、悪い意味だと境界線を超えてくるような感じかもしれません。寄り合いなど地域のみんなで取り組まなければならない行事や仕事もあります。私は人付き合いが好きなので特に問題ないのですが、そういう地域独特のコミュニケーションに馴染むまでに時間がかかる方もいらっしゃるかもしれません。
近藤さん : 私は移住者を受け入れる側・移住者として受け入れられる側のどちらも経験しました。それを踏まえて、移住者を受け入れる地域の一員としては、そっと見守ってあげるぐらいの接し方がいいと思います。また、移住者側の立場の場合は、自然体で付き合った方がいいでしょう。
近藤さん曰く、地域には独自の風習やルールがあり、その地域のキーパーソンの方にお聞きして助かった事もあるそう。社交性が高い近藤さんはBBQなどを通じて親交を深めたそうですので、これから移住するという方も、暮らしはじめて落ち着いたら地域に住む方とコミュニケーションを取って、その土地の事を知って欲しいと感じました。
田舎暮らしを希望している皆さんへ
農業への新規参入から移住まで、様々な体験をしてきた近藤さんに、移住を希望する皆さんへ、アドバイスを頂きました。
近藤さん : まず、各市町村の窓口になっている移住担当に相談した方がいいと思います。自分は何をしに移住したいのかを事前にまとめて、担当者にこういう事がしたいと伝えて、仕事や住居の相談などを行うと、具体的な支援やヒントが頂けます。
移住に関しては、県内でいくつかの自治体を回って比較することも大切かと。更には、産業によっても住む場所が違ってくるかと思います。
農業の場合は農地ありきなので、まずは自分が何を作りたいかを考え、全国を調べてその作物の栽培が盛んな地域などを把握し、その地域の気候や個人商店に販売するか・大規模に販売をしたいかなどの売り先、家族で取り組むのか企業なのかなどの経営形態によって選択肢を絞り込む必要があります。時間はかかりますが、このリサーチがしっかりできないと成功できません。
また、家族構成でも移住先が変わってくると思います。特に小さいお子さんがいる家庭だと、幼稚園・保育園や学校・小児科が近くにあるかどうかは重要ですし、自治体によっては医療費や教育費に補助が出る事もあります。車さえあれば、職場が遠くても通う事ができますので、子供の通園・通学を優先するのもいいかと思います。加えて、子供が育てやすい・情報を共有できるなどの理由で、田舎でも同じぐらいの世代の子供がいるような地域に住む方がいいかと思います。
最後に
国内大手の金融会社で優秀な成績を収めた社員から一転して未経験の農業に飛び込み、地元の高知県だけでなく宇佐市でも躍進を続ける近藤さん。ゼロからスタートして苦労を重ねて成功した彼の話には、努力と経験の積み重ねを続け結果を出して来たからこその説得力がありました。移住の際に想いや勢いも大切ですが、近藤さんのように時間をかけてしっかりとしたリサーチを行い分析を経た上で実行すれば、成功する確率も上がるのではと感じます。近藤さんの手がけた商品が食卓を彩った際には、近藤さんの話に想いを馳せたいと思いました。