取材者情報
- お名前
- 村上 広尚・美史
- 出身地・前住所
- 広尚さん 出身地:福岡県田川市
美史さん 出身地 : 福岡県直方市
前住所:福岡県直方市
- 現住所
- 杵築市杵築
- 家族構成
- 夫妻
- 職業
- いちご農家
杵築市に移住した村上 広尚・美史夫妻は、福岡県直方市の会社員から一転し、いちご栽培から農業経営まで学びながら、独立に向けて準備を進めているそうです。そんなお二人から、移住に至る経緯や就農への想いなどをお聞きしたいと思い、村上夫妻が学ぶ杵築いちご学校を訪ねました。
夫婦で独立して仕事を
福岡県田川市出身でトラック運転手として働いていた広尚さんと、福岡県直方市出身で看護師として働いていた美史さんは、直方市で出会い結婚したそうです。
広尚さん : 2人とも会社員で休暇が取れたら、温泉を求めて大分県や熊本県によく遊びに行きました。そのうち、どうせなら移住したいと考えるようになりました。
自営の仕事について考えていた際に、福岡市博多区で開催された大分県の移住イベントに参加し、就農の話を聞き、これだと感じました。
移住先として、杵築市以外にも佐伯市・豊後大野市・豊後高田市を検討したという村上夫妻。豊後高田市は実際に足を運び、農家さんを見て回ったそう。
美史さん : 豊後高田市にあるほおづき・スイートピー・白ねぎの農家を見学させて頂き、農家さんの生の声を聞きましたが、ほおづき農家の方には「夏のビニールハウス内の作業が大変なのでやめた方が良い」と言われました。スイートピーなどの花に関しては広い農地で5〜6人のスタッフが必要で、夫婦2人だけでは難しいと感じました。
広尚さん : 白ネギに興味を持ち、ちょうど豊後高田市の大分広域白ねぎ就農学校ができる直前で勧められましたが、白ねぎも広い農地が必要で、就農は難しいと思いました。
最終的にいちご農家としての就農を選んだ村上夫妻。直方市で生活しながら仕事の休日を利用し、杵築市にあるいちご農家での実地研修を受けた際に、研修先や周りの農家さんからアドバイスなどを頂いたそうです。
広尚さん : いちごは他の農産物と比べて単価が良く収入が安定し、夫婦で 20アールの農地があれば専業が可能なため、夫婦での就農はいちご農家が一番いいとアドバイスされました。
また、研修先の農家さんから「杵築産のいちごを盛り上げていきたいので、ぜひ移住して欲しい」とも言われ、一緒に頑張りたいと考えました。
こうして、いちご農家として就農しようと杵築いちご学校に入校を決めた村上夫婦は、杵築市に2020年8月に移住したそう。
いちご農家として
現在は杵築いちご学校の5期生として実習しながら、独立に向けて着々と準備を続けている村上夫婦に、仕事ついてお聞きしました。
広尚さん : 杵築いちご学校では、1年目に講師並びに指導員から実地栽培研修・座学研修を受けていちご栽培全般を学び、2年目は研修生による模擬経営を行い、実際の農業経営により近い環境での研修を経て独立します。
美史さん : 研修生はこれまで10組で、夫婦の場合と単身の方で半々ぐらいの印象です。8年前にスタートして今まで1〜4期生が卒業し、ビニールハウスの耐用年数である8年目の私達5期生で終わりとなります。
現在はいちごの収穫が終わり、2022年9月からは独立に向けて、着々と苗の準備をしているそうです。
広尚さん : 4期生までは土地を探してビニールハウスを新設していたのですが、現在の5期生は、材料高騰のため新設が難しく、山香町の農家さんの跡を借り、ビニールハウスを改修し、機械類も刷新してしてスタートします。ただ、現在もその山香町の農家さんが農業を続けていて、改修が間に合わないので、1年間は研修用のビニールハウスを借りる事になっています。
美史さん : 改修などの費用がかかるため、しばらくはカツカツです(笑)。返済まで12年ほどかかると見積もっています。それでも、ビニールハウスを新設するよりは随分コストカットできましたし、いちごは収入が良いので頑張れます(笑)。
自分達で全て決められるので、今のところは就農を選んで良かったと話す村上夫妻。会社員を経験した夫妻に、農業との違いについてお聞きしました。
広尚さん : 農家なのできちんとしたお休みというよりは、その時の状況に応じて休む感じです。雨の日にする作業もあり、会社員の頃のように決まった休みはありません。とはいえ、自営業なので自分達の都合に合わせて、ある程度調整できます。自営業だからこその自由を感じます。
美史さん : 就農してからは連休をとったことがないので、欲しいです(笑)。
農家は頑張った分だけ収入に繋がると話す村上夫妻。大変と感じた事についてお聞きすると、いちご農家ならではの答えが返ってきました。
美史さん : いちごはパック詰めが大変です。年に何度かある繁忙期には朝から夜中まで詰め続けます。いちごは収穫して終わりではなく、パックに入れないと売れません。杵築市にもパック詰めをするいちごパッケージセンターはありますが、小規模でコストもかかるため、みんな自分達でやっています。
広尚さん : いちごはサイズ・形・色・重さで規格が分類され、それによって値段も違います。重さは計量できますが、サイズ・形・色は目視で、出荷場で検査もあるので、経験を積んでしっかり覚える必要があります。1日200〜300パックの出荷が目標ですが、最初は1時間10パックしか詰められないなど苦労しました。
美史さん : 季節や熟れ方によって、収穫時期が異なります。いちごは下部から赤くなっていくのですが、暖かい時期は七分取りでヘタの所が白く、冬場は九分、完着で赤く染まった状態で収穫するなどの違いがあります。JAが行う見合わせ会で、季節に合わせて収穫時期についての説明があり、指示に従って対応しています。
広尚さん : いちごを作るには受粉が必要なので、養蜂家の方から養蜂箱をお借りして、ミツバチに受粉してもらいます。受粉する事で、美味しくて綺麗な形のいちごになります。ちゃんと受粉していないと、味が落ちボコボコで規格外のいちごになります。
美史さん : 他にも、いちごは親株からランナーを伸ばして子株を作る必要があります。親株は株分けのみで使用し、子株を定植していちごができます。私達が育てているゆめのかという品種の場合、親株から約12株ほど株分けします。全ての親株から子株を手作業で分けるため、手間と時間がかかります。
便利な暮らし
いちご農家として、着実に経験を積んでいる村上夫妻。杵築市中心部にある現在のお住まいについてお聞きしました。
美史さん : 賃貸物件を不動産屋で探して見つけました。杵築市役所の近くで、スーパーなど何でも徒歩圏内にあり便利です。また、中心部に病院があり安心です。交通の便も良く車もあるため、生活する上で不自由はありません。
広尚さん : 当初は空き家バンクで探したのですが、リフォームが必要ですぐ住めない物件が多く、断念しました。移住の際に、杵築市からの補助があると聞いたのですが、空き家バンクを利用しないと受けられないらしく、諦めました。
移住先としてとりあえず貸家に住んでみて、生活に慣れてから空き家バンクで物件を購入してリフォームしたいと考える方もいると思いますが、補助は移住後1年間しか使えないそうなので、その期間を踏まえて物件を検討する必要があります。
柔らかい地域性
杵築市に移住して2年ほどの村上夫妻に、地域の特色についてお聞きしました。
美史さん : 新型コロナウイルス感染症の影響で、住んでいる地域の集まりごとはありませんが、近所のおばちゃんが話しかけてくれたり野菜をくれたりなど、福岡で暮らしていた頃はなかった昔ながらの人付き合いがあります。野菜は買わなくていいぐらいです(笑)
広尚さん : 地域の特性なのかわからないですが、色々な方が気にかけてくれるなど良い意味で近所付き合いがあり、今までの常識と違ってびっくりしました。移住してきた他の先輩農家さんには「そのうち慣れるよ」と言われました。私達にとってはありがたいのですが、他人と接するのが苦手な方は難しいかもしれません。
美史さん : 他にも、農場近くの寄合では、男性は男性、女性は女性でテーブルが違い、夫婦一緒に席を囲みません。昔ながらの城下町ならではの文化があるのかもしれません。
移住の先輩としてのアドバイス
今後は有機肥料を使用して、美味しいいちごを作りたいと話す村上夫妻。これからについてお聞きしました。
広尚さん : 現在はほぼ化成肥料のみで育てていますが、独立したら有機肥料のみで、農薬はできるだけ使わずに、安心安全でより美味しいいちごを作りたいと考えています。肥料代は何倍にも上がりますが、味が全く違うので、消費者の皆様にもぜひ味わって頂ければと思います。
美史さん : ビニールハウスが20アール、育苗を合わせると約50アールの農地を夫婦でしっかりと経営していきたいと思います。
杵築市で独立に向けて日々奮闘している村上夫妻から、移住を希望する方へアドバイスを頂きました。
広尚さん : 私達の場合、大分県に移住したいという希望が先にあり、そのために自分達で独立できる仕事を探し、準備を整えてから実現しました。移住したい場所があれば早く移住した方が良いですし、やりたい事があるならすぐにでもやった方が良いと思います。
美史さん : まず、お金は貯めておいた方が良いです(笑)。やりたいことがある方はその内容によって住む場所が決まることがあると思います。私達は大分県でいちご農家をしたかったので、杵築いちご学校がある杵築市に移住しました。やりたいことで複数の場所が選べるのであれば、その中で補助などが手厚い市町村を選ぶのも良いと思います。
最後に
常に笑顔を絶やさず、優しく接してくださった村上夫妻。暖かな日差しの下ですくすくと育ついちごの苗を見ながら、丁寧にお話してくださるその姿から、現在の暮らしが充実していると感じました。9月の独立を経て新たなスタートを迎えるお二人の今後の活躍に期待しつつ、丹精込めて育てたいちごが食卓に並ぶ日を楽しみに待ちたいと思います。