取材者情報
- お名前
- 中野 リカ子
- 出身地・前住所
- 出身地:東京都
前住所:宮崎県
- 現住所
- 杵築市南杵築
- 家族構成
- 夫1人 犬1匹(宮崎在住) 猫1匹(杵築在住)
- 職業
- 一般社団法人うつりくらす 代表理事
- https://www.instagram.com/utsurikurasu/
一般社団法人うつりくらすの代表理事である中野さんは、自らも移住経験者で杵築市の地域おこし協力隊として活躍後、移住者目線で杵築市と移住者の橋渡しをする活動を続けています。そんな彼女が移住に至るまでの経緯や、現在の暮らしについてお聞きしました。
仕事のやりがいを求めて杵築市へ
都会で生まれ育った中野さんは、時代の変化とともにライフスタイルが変化したそうです。
中野さん : 神奈川県で会社員として働いた後に、ワーキングホリデーでカナダを放浪しました。その頃、アメリカで同時多発テロが発生したため帰国できず、通常だと1年間の滞在期間が1年8ヶ月に延びてしまいました。カナダののんびりした生活に慣れてしまったためか、帰国後は満員電車が嫌になってしまって(笑)。
その後建築士の夫と結婚し、都会で生活を続けていた中野さんですが、漠然と田舎暮らしへの憧れを持つようになったそう。
中野さん : 夫の故郷である宮崎県国富町に何度か帰省するうちに、義実家の古民家にあるL字型の縁側の佇まいにすっかり魅了されてしまいました。ネットが普及し始めた頃で、どこにいても仕事ができるとも考えましたので、田舎暮らしに消極的だった夫を説得して、既に空き家になっていた義実家へ2002年に移住しました。
こうして憧れだった田舎暮らしをスタートした中野さん。生活上での不便はなかったそうですが、仕事上で不満を感じるようになったそうです。
中野さん : 宅地建物取引士の資格を取得し、不動産屋で働いていたのですが、次第に利益だけを重視する事が嫌になってしまい… 空き家バンクのような人の役に立つ不動産に携わりたいと考えるようになりました。
新たな仕事は、宮崎県に限らず九州内で探したそうです。
中野さん : 宮崎県に移住したのをきっかけに九州の良さを実感していたのと、単身での移住を考えていたため、陸続きの九州内で探していました。空き家バンクを勉強したくて、探していたところ偶然ご縁があったのが杵築市でした。
地域おこし協力隊から起業
空き家バンクの案内という杵築市の地域おこし協力隊に応募し、2週間後には面接を受け、更に面接2週間後の2019年1月に着任した中野さん。最初から起業を念頭に置きつつも、そのためにまずは経験を積みたいと考えていたそうです。
中野さん : 仕事面でいきなり知らない土地に行くのは不安だったので、地域おこし協力隊を探していました。杵築市に着任してからは、地域に居住しながら空き家バンク業務や移住・定住のサポートを行い、特に移住者の住まい探しに従事しました。そして3年の任期後、今までの経験と協力隊としての実績から、杵築市で一般社団法人うつりくらすを起業しました。
地域と移住希望者の橋渡しをしたいと語る中野さん。大分県や杵築市などの自治体や様々な団体と協力しながら、活動の幅を広げているそうです。
中野さん : 杵築市の空き家バンクに登録されている物件やそれ以外の物件について、移住希望者で興味を持たれた方にご案内し契約までサポートするというのが主な業務です。成約時に契約書を作成する場合もあります。
中野さんによると、空き家バンクに登録されている物件は、全てではないですが下記の理由のため、地域の不動産屋が紹介している物件とすみ分けができているそうです。
・山中の遠い場所にあり、足を運ぶのが大変な物件
・山深いため調査・見学が大変な物件
・古くて傷んでいるため価格が安い・リノベーションが必要な物件
・相続が済んでいない物件
・家の裏側が崖で建て直せないなど問題を抱える物件
・境界が曖昧・測量が入っていない物件
通常の不動産屋で取り扱う物件の条件がはっきりしており、普通に働いていたら空き家バンク登録物件に出会うことはまずないため、予定外の事柄が多く勉強になるそうです。
中野さん : 一般的な不動産屋目線で考えると、二の足を踏んでしまいそうな物件をうつりくらすでは引き受けていこうと考えています。遠い場所にあるため調査が大変ですし、古く傷んでて住むためにはリノベーションが必要な物件が多いので、改修業者をご紹介するなどの対応も行っていきたいです。
起業前後で働き方にも変化を感じているそうです。
中野さん : 大分県での一般的な働き方というのはわかりませんが、地域おこし協力隊時代は17時に仕事を終えて完全に頭をオフにでき、ワーク・ライフ・バランスが本当に良かったと感じています。
起業して全部自分の責任になった今、その反動で24時間気の抜けない生活になっていますが、気持ち的には充実しています。収入に関しては、都会と比較してもしょうがないと考えているのと、食べていければいいと思っているので、おおむね満足しています。
風情ある城下町にある家と事務所
現在は杵築市中心部に住む中野さん。宮崎県に移住した際とは違った視点で住居を選んだそうです。
中野さん : 関東から宮崎県に移住した際は、空き家だった義実家の古民家を2人で改修し、農村地帯でいわゆる「THE田舎暮らし」を満喫していました。反動で杵築市では中心部の城下町内に住みたく、歩いて空き家を探したり、地元の方に聞いたりしながら1年かけて現在の住居を見つけました。
一般社団法人うつりくらすの事務所は、史跡「野上家」のすぐそばにある古民家です。
中野さん : 元々畳屋から骨董屋になった物件を大家さんから借りました。2階からの眺めが素晴らしい庭付き古民家でとても気に入っています。
以前空き家バンクに登録していた物件で、大家さんが大事に保存してくれていたので電気をLEDに替えたぐらいで自分でリノベーションは行っていません。
杵築市のちょうど良い暮らし
夫は宮崎県と福岡県にある事務所を行き来しているため、杵築市と合わせて3拠点で生活している中野さん夫婦。杵築市について、田舎ではありますがコンパクトで交通アクセスが良く、利便性が高いと感じているそうです。
中野さん : 少しでも時間があれば温泉にすぐ行けて幸せです。杵築市内は温泉の数が少ないので、別府市まで足を延ばす事が多いですが、アクセスが良いので気軽に行けます。湧水が多く、水に関しては贅沢させてもらっていると感じています。
病院は小さい医院はありますが、それ以上の診療となると住民の皆さんは、別府市や大分市まで行かれているようです。その点で、県内の大きな市に近いというところが便利だと思っています。
また、小さい街ですので行動を起こせばすぐ広まります。それを良しとするか嫌がるかは人それぞれですので一概には言えませんが、商売や自営で仕事をする面では有利かなと思います。
移住に伴う苦労に関しては、杵築市に移住後は感じないそうです。
中野さん : 最初の移住先は農村地帯でしたので、しきたりは近所の方に叩き込まれましたが、杵築市で苦労したことはありません。市内中心部の地区なのでそこまで濃い近所付き合いもありませんし、核心まで踏み込まれたことはありません。古い慣習などはないようですし、区費は使用用途が明瞭で値下げされたほど楽です。農村ではなく商業地区であるためか、女性の方が意見する場が多いと感じます。構えていた分、肩透かしをくらったみたいですが、九州の方言や文化を理解してから杵築市に移住したことは良かったと思っています。
私は地域おこし協力隊から杵築市に入ったので、市役所職員を含め、市議の方々、市役所周辺の地元商店街の方々に大変お世話になりましたし、現在もお世話になっています。特殊な例とは思いますが、その面では恵まれていたと思います。
移住希望者へアドバイス
一般社団法人うつりくらすの活動を通じて、県外からの移住希望者と会って話す事にやりがいを感じるという中野さん。これから移住を希望する皆さんへアドバイスをいただきました。
中野さん : 私は杵築市に移住する際、深く考えず・調べず、エイッと勢いで来てしまいました。移住前は当然知り合いはいなかったですが、現在は地域に溶け込ませてもらっています。空き家バンクを担当していた頃や起業してからも、移住希望者にお会いすると「きちんと調べられていて凄いな」と心から思っています。
その反面、様々な地域を比較し続けると良くないところばかりが目について、決めきれないという方を何人も見てきました。移住にはある程度の思い切りとラフさ、100%の場所はないという諦め・妥協が必要かなと思います。
例えば、杵築市は中心部しか光ネット回線が通じておらず、中心部以外はケーブルテレビと契約しなければネットに接続できません。他の移住先と比較すると欠点になるかもしれませんが、多くの自治体も同じような欠点を抱えています。これらを比較するとキリがないと思います。
また、詳細に調べるのは良いと思いますが、現在暮らしている住民に不満な点を伝えるのは、反感を買うだけで違うかなと思います。「住めば都」と言う言葉もあるので、気になったら足を運んでみて、気に入れば移住するなどの思い切りも必要ではないでしょうか。
最後に
地域おこし協力隊での経験を活かし、杵築市と移住者との架け橋となって活動の幅を広げる中野さん。「うつりくらす」という柔らかで優しい語感を体現したかのような、人当たりが良く丁寧な中野さんのインタビューは、ゆったりとして心地良さを感じました。移住で迷った際は、ぜひ杵築市の事務所を訪ねてみてください。きっと的確なアドバイスを頂けるのではと思います。