取材者情報
- お名前
- 阿南 英樹(アナミ ヒデキ)
- 出身地・前住所
- 出身地:大分市
前住所:東京都江東区
- 現住所
- 由布市
- 年齢
- 47歳
- 家族構成
- 妻・息子
- 職業
- 日々の暮らしにまつわる工芸品、日用品を集めたセレクトショップ「HAUS」
- Webサイト
- https://haus.handcrafted.jp
- https://www.instagram.com/haus_yufuin/
慣れ親しんだ都会の生活から、起業や家族との豊かな暮らしのため地縁のない由布市に移住した阿南さん。一般的な田舎とは一味違った、観光地ならではの土地柄を感じたそうです。移住に至るまでの経緯や起業への想い、現在の暮らしについてお聞きしたいと思い、彼が営むセレクトショップ「HAUS」を訪ねました。

HAUSの外観
起業のため、都会から由布市へ移住
大分市出身の阿南さんですが、子どもの頃から就職後まで東京都と大分県を行ったり来たりの生活だったそうです。
阿南さん : 東京都で生まれ、小中学校は大分市と東京都の両方で過ごし、高校は大分市で過ごしたものの、大学進学のため上京しました。そのまま都内の商社に就職して3年働いた後、国内のアパレルブランドに転職して18年間勤めました。
本社は東京都にありましたが、店舗運営や営業で全国を回るなど業務全般に携わりながら、終電で帰宅する事も多い生活をしていました。商売の仕方や考え方は、仕事に厳しく誠実に向き合っていた前代表から大きな影響を受けました。
自分の時間の大半を仕事に注ぎ込んでいた阿南さんに転機が訪れます。
阿南さん : 30代後半で結婚し、翌年には子どもが生まれました。そこから少しずつ1日24時間の配分の中で「家族と接する時間を設けたい」と考えるようになりました。都会で長い間過ごしてきましたが、時間の流れが早く追われるような日々の生活の中では、家族との時間を確保することが難しく、このまま歳を取るのはもったいないと感じました。
以前からいずれは起業したいという想いもあり、具体的に考え始めました。従業員を雇用し規模を大きくするのではなく、自分の目の届く範囲で全てコントロールできる業態が理想でした。出店場所については、アパレル企業が都心部から郊外に直営店を展開する時流を参考に、東京近郊か実家がある大分県のどちらかが良いと感じていました。
都内か大分県か出店先を考える中で、小さい時から観光で足を運んで好印象だった湯布院に惹かれたそうです。
阿南さん : 独立して商売を始めようと決心し、ネットで色々な市町村の物件を探す中で、当時住んでいた家の近くで開催された大分県主催の移住セミナーに参加しました。その際に担当してくれた由布市の職員や、民泊をされている方々に地元の工房などを案内してただき、大変お世話になりました。
湯布院は立地こそ田舎ですが、国内外から多くの観光客が訪れる有名な場所です。地縁こそ全くありませんでしたが、地元の名士の方々の本を読む中で、まちづくりへのパワーに共感しました。仕事で培った人脈があるので、移住後に観光に訪れた友人や知人をもてなすことができるとも考えました。現在は両親が大分市に住んでいるため、親元まで近い点も魅力的でした。
移住に関して奥さんに同意を得るために、少しずつ想いを伝えたそうです。
阿南さん : 妻は兵庫県出身で湯布院に所縁がなかったため、いきなりではなくじっくり時間をかけて、子どもが生まれた2014年ぐらいから移住や起業について意志を伝えながら話を進め、2019年に移住しました。

店内は阿南さんがセレクトしたアイテムが展示販売されている
地域おこし協力隊を経て起業
由布市に移住した阿南さんは市役所観光課に在籍し、観光振興のために働いたそうです。
阿南さん : 元々は移住に伴いすぐに起業する予定でしたが、移住セミナーに参加した際に由布市の担当者に地域おこし協力隊の制度を紹介して頂き、働きながら地域について理解を深められると考え応募しました。
観光協会では3年間に渡って湯布院映画祭や音楽祭などのイベントの準備・運営などの業務に従事しました。市内中心部の旅館の方々と接することが多かったおかげで、地元で交流を深めると共に今に至る人脈ができました。任期最後の1年間は並行して起業の準備にも注力しました。

大分県内で活躍する作家の作品をメインに取り扱う

阿南さんの人脈で、希少なアイテムも並ぶ
こうして2022年4月29日に念願の、日々の暮らしにまつわる大分県内在住の作家が手がける工芸品と、アパレル業に従事していた際に取引のあったメーカーなどの日用品を集めたセレクトショップ「HAUS」を、由布市湯布院町でオープンしたそうです。
阿南さん :店舗は元々旅館の離れの物件を見つけ、地元の大工さんに手伝ってもらいながらDIYで改装しました。店舗自体は少し奥まっているものの、緑に囲まれた敷地が湯の坪街道に面しているので、お客さんも自然と足を運んでくださいます。
まだオープンして1ヶ月(取材時)ですが、お客さんに喜ばれると本当に嬉しくてやりがいを感じます。都会はアクセスの良さや人の目に触れる数の多さなどの利点がありますが、どこの都市も商業施設など建物の中に入ると同じ様な内容で、エンドユーザーに商品の魅力を伝えることが難しいと思います。湯布院は自然が多く、街並みの景観も大切にされてきた土地なので、空間から作品の世界観まで表現しやすいと感じています。
妻もまた、都内の百貨店で働いていた経験を活かし商品構成を一緒に考えるなど、充実感を持って取り組んでいると思います。
都会では夜遅くまで働くのが当たり前でしたが、ここでは家族とゆっくり時間を過ごすことができます。

HAUSの暖簾
日々の暮らしについて
結婚式を由布市内のギャラリーで挙げたほど、地元に溶け込んでいる阿南さんに、現在の暮らしについてお聞きしました。
阿南さん : 移住する前に空き家バンクの物件を勧められたのですが、リノベーションが必須の物件が多く、家族で住むのは難しいかなと感じました。その後、地元の不動産で見つけた一軒家にずっと住んでいます。子どもが今の家を気に入ってくれており、住居に関する不満はありません。
冬は予想以上に寒く冷え性の自分としては辛いですが、逆に夏はとても快適です。由布市は大分県内で中心部に位置し、他県へのアクセスもしやすいなど交通の便も良いと思います。
何より、自然や温泉が充実していてとても素晴らしい場所です。温泉好きなので、市が運営する施設に家族で通い、地元の方との交流を深めています。
休日は家族で山登りやキャンプに出かけるなど、自然と触れ合うアクティビティを満喫している阿南さん。
阿南さん : 都会に住んでいた頃は車がなかったため接する機会がありませんでしたが、現在は気軽にアウトドアを楽しんでいます。
収入に関しては都会の方が良かったのですが、その分お金を消費する生活でした。湯布院は観光地のため物価は高いですが、都会と比べるとスーパーの商品も鮮度が良く、近所の方々から野菜をいただけるなど、お金をかけずに豊かな生活を送ることができると感じます。
もちろん、湯布院には100円ショップがないなど、ちょっとした買い物のために大分市や別府市まで足を運ぶ必要があり不便さはありますが、予めそれを踏まえた上で移住しているので、そこまで気にしていません。

ゆったりとしたHAUS店内
観光地「湯布院」の土地柄
日々の暮らしを満喫している阿南さんは、湯布院について一般的な地方と違う観光地ならではの土地柄を感じているそうです。
阿南さん : 私自身が転勤族だったため、住んだ事の無い土地に移り住むことに対しての抵抗はそこまで大きくありませんでしたが、受け入れる側からすると見知らぬ人間を受け入れることに対する抵抗もあったと思います。
ただ湯布院は地元住民の皆さんが他県から訪れる観光客と接し慣れていて、他者を受け入れる土壌があり、以前の都会での生活と大きくかけ離れていない様にも感じます。
教育の面では、子どもの人数が都会と比べると少ないため、親の責任感が必然的に強くなり、子どもが真っ直ぐ育っている様に感じます。
妻は都会生活が長かったため環境に慣れるまで時間がかかりましたが、地元の方と接する姿を見る限り、楽しんでもらっているのではと感じています。また、移住前に訪れた際にお世話になった地域の方々とは、移住後も家族共々とても良くしていただき感謝しています。

HAUSのフライヤーとノベルティ
これからの展望と、移住希望者へアドバイス
念願のセレクトショップをオープンした阿南さんに、今後の展望についてお聞きしました。
阿南さん : これからも規模は広げず自分達の目の届く範囲で、しっかり地に足をつけてお店を経営していきたいと思います。
また、いつの日にか物販と絡めた健康増進事業に取り組みたいと考えています。妻がヨガインストラクターの資格を持っており、私もニューヨーク発祥の整体術でヤムナボールという特殊なボールを使って身体をセルフケアできる「ヤムナメソッド」の資格を活かして、地域住民の方々や温泉を楽しむ観光客向けに展開したいと思います。
阿南さんの実体験を踏まえて、移住希望者の皆さんへアドバイスをいただきました。
阿南さん : コロナウィルスや気候変動等の理由で生活の見直しを考えられている方も多いと思います。移住先や仕事について真剣に比較検討しつつ、自分自身が持つ直感を信じて行動に移すことも大切だと思います。人生を左右するので慎重さも必要ですが、一生定住しないといけない訳ではないですし、色々考えすぎて実行できないのはもったいないので、肩の力を抜いてある程度は勢いで行動を起こしても良いかと思います。
移住先として、どういう移住先を選ぶかは、自分達がどこに価値観を置くかだと感じます。
また、各自治体によって移住者の受け入れ制度が違うので、下調べはしっかり現地に行った方が良いです。

湯の坪街道沿いに設置されたHAUSの看板
最後に
都会からの移住を通じて、夢だった起業を果たすと共に、豊かな自然の中で家族と寄り添うゆったりとした暮らしを手に入れた阿南さん。目標や目的を具体化する中で、周囲としっかりコミュニケーションを取りながら理解を得ることの大切さや、タイミングを逃さず行動することの重要性を教えてくださったと感じました。湯布院を訪れる機会があればぜひ彼の営むHAUSを訪ね、色々と話を聞いてみると良いと思います。