大分移住手帖

自分たちらしさを見据えながら、アイデンティティを選択できるように。

Tomomi Imai

取材者情報

お名前
ポルミア田上佳代・ピーター
出身地・前住所
前住所:オーストラリア・Perth
出身地:佳代・福岡県 ピーター:オーストラリア
現住所
宇佐市
年齢
45才・41才
家族構成
5人
職業
e- eco and organic
Webサイト
https://www.e-eao.com/
Instagram
https://instagram.com/e_eco_and_organic

オーストラリア人のピーターさんと、日本人で福岡県北九州市出身の佳代さん。ポルミア田上夫婦はオーストラリアでご結婚、お子様を授かり二国間を行き来する暮らしの中で見つめたのは、子どもの将来と自分たちらしさだったといいます。そんなポルミア田上家が宇佐市への移住に至ったお話と、今の暮らしについてお聞きしました。

広大なアウトバックのオーストラリアから日本の緑豊かな大自然へ

ピーターさんの故郷

ピーターさんはオーストラリア空軍の父親の仕事の関係でオーストラリア全土を行ったり来たり、小学校を6回転校、アメリカにも移住したりするなどの移動多拠点生活が続きました。そんな中オーストラリアを深く感じられたのが祖父母の住まい、西部の田舎の町でアウトバックが続く赤土が広がり、最寄りのスーパーまで車で片道1時間以上かかっていたその場所。田舎と都会それぞれの生活を幼いころから感じ取っており、その原体験が今に繋がっている。異文化である日本に初めて訪れた感じたのは日本の大自然、豊かな土の香り、雄大さ、人々の和の営みは驚きの連続だといいます。

ピーター:社会人を経験したのちに大学へ進学しました。その後休学して日本へ福岡県へワーキングホリデーで渡り、妻と出会いました。この時の日本での出会いが今に多くつながっています。その後パースに戻り大学を卒業し結婚を機に再度日本へ。ワーキングホリデーでは感じられなかった本物の日本を感じられ、家族も増えて将来について考えることが深くなっていきました。

佳代:前職の日本語教師の時に教え子の友人としてピーターと出会いました。その後国際遠距離恋愛が続きましたが私がオーストラリアへ渡り結婚。日本へ二人で移住し、その後子供に恵まれました。長女が幼稚園の時期になった時に教育について考え話し合い、幼児教育はオーストラリアでと決断しパースに戻りました。その後長男を出産し子育ての一番コアな時期をオーストラリアで過ごしました。

日本語が話せなくておじいちゃんと会話しきれない息子を見て。

パース時代の様子

3人いるお子さんはオーストラリアの祖父母と英語で会話し、保育・学校教育ももちろん英語。加えてオーストラリアの価値観で育って行きました。家族間はほとんど英語で会話する日々。なんの不自由もなかったそうですが、佳代さんが日本に里帰りした際に、一番下の子が日本の祖父との会話がいまいち理解出来ず、しどろもどろになったのだとか。これがきっかけで、自分たちの暮らし方や今後の子育てについて見直すことになったそうです。

ピーター:上の2人は出産などの関係で日本で暮らしたこともあったので、まだ日本語を理解できていたのですが、一番下の子はパースで生まれ日本語理解が難しくて、日本の祖父とうまく交流できていないことに気がついたんです。3人の子どもは現在オーストラリアと日本の両方の国籍を持っていますが、このままではアイデンティティに関する選択肢が偏ってしまうのではと感じた経験でした。

子どもには選択肢を持っていて欲しいから。

不自由はないけれど、果たして自分たちらしい暮らしはこの地でできるのか。先の出来事から、ポルミア田上夫妻は自分たちが本来送りたい暮らしについて、たくさん会話を重ねたそうです。その中で優先したかったことの1つが「子どもには選択肢を持っていて欲しい」ということでした。

佳代:親がアイデンティティを決めるのではなく、自分たちで決めて欲しいという思いはピーターと一緒でした。ただ、選択できない状況にあるとしたら、それは機会を失ってしまうことになると感じたんです。子育て環境の良し悪しではなく、これから彼らが生きていく上での選択肢を考えると、日本というアイデンティティを知っていて欲しいと思ったんです。

先住していた友人を伝って。

現在の家。橋を渡って到着する。

話し合いを繰り返し、日本への移住を決意したポルミア田上夫妻は、佳代さんの出身地である福岡県を基本にしつつ、インターネットで移住先を探し始めたのだとか。また、日本に関わりのある友人からも情報を集めたそう。その中で、現在暮らす宇佐市に先に移住していた友人夫婦から、この地について教えてもらったそうです。やるぞ!となればすぐに行動できるお二人はすぐにここをホリデーで訪れ、近くにそびえ立つ仙の岩の美しい姿や、川のせせらぎを感じて、移住を決意したのだとか。

ピーター:空き家の情報が少なかったのですが、今の家は宇佐市の空き家バンク、そして友人たちの計らいで見つけました。静かで畑があって、何より仙の岩が美しくて。

佳代:学校が案外近いし、少し行けばスーパーもある。オーストラリアにいた頃は家も施設も規模が大きく買い物に移動距離があるのが当たり前だったので、車で20分くらいなんて、とても近く感じるんですよね。町の方からはこんな田舎にって言われるけど、私たちはそれよりずっと広大な場所に暮らしていたから、不便だなんて思わなかったんです。

ペーパーワークが不便だった。

いざ移住!と日本に来たポルミア田上家。日常には不便さを感じなかったものの、一番不便だったのは「行政の書類」への対応だったのだとか。

佳代:オーストラリアでは、日本で言うマイナンバーがほぼ全土、色々な領域に普及していて、1つ登録しておけば全てインターネットで完結します。確認も自身でできて行政手続きなど全て。ですが、日本に来た途端に、同じような書類を沢山描かなくてはならないし、それがインターネット上になくて、わざわざ取りに行かないと行けなかったり。私たちの名前は少し長いので、同じ内容を何度も書く作業には骨が折れました。

ピーター:名前を日本語表記でしか受け付けてくれない書類あり、表記の字数の長さ制限で申し込みできないとかも。本人確認の行政書類は英字表記なのにこちらは日本語?など厳しいけれど曖昧な感じがもどかしかったです。

価値観の違いに少し戸惑うも、溶け込めた子どもたち

どうにかこうにか宇佐市への転入を済ませ、学校に通い始めた子どもたち。オーストラリアの教育と日本の教育は価値観の部分から大きく違ったようで、オーストラリアの地で天真爛漫に育った長女はその差に少し苦労したようです。

佳代:勉強の仕方や考え方など、多くの面で違いがあり、多感な時期に入っていた長女にとっては最初は辛かったようです。勉強はできる方だったのですが、日本の教育の中での”できる”に対する価値観の違いに翻弄されて、一時は落ち込んでいました。ただ、クラスの同級生がとても良くしてくれたので、すぐに友達ができ、あっという間に溶け込み、今は学校が楽しいそうです。

町の活動には積極的に参加

町の活動に参加した様子が新聞に取り上げられる。

国際間移動を繰り返すポルミア田上家は、郷にいれば郷に従えというように、町の活動に積極的に参加していったそうです。特に比較的若手のピーターさんは、男手として大活躍しているそう。

ピーター:オーストラリアで地域単位での活動を経験したことがなかったのですが、こちらでは草刈や交流事業など町の活動が結構あるので、積極的に参加しました。おかげですぐに色んな方々に覚えてもらえ、良くしてもらっています。男手のいる活動は結構あるので、忙しいくらいです(笑)。

自分たちらしい暮らしのための準備中。

現在インターネットショップ事業について学んでいるピーターさん

移住後、子どもたちが環境の違いから少し苦労したものの、3年ほど経って落ち着き、子どもたちが各々の暮らしを展開し始めています。そんな姿を見守りながら、ポルミア田上夫妻は自分たちらしさに再度目を向け、各々準備を始めています。

ピーター:僕らはもっと移動や多拠点生活をしたりしながら生きていきたいんです。そのために何が必要なのだろうと、日々話をする中で、仕事や暮らし方などを変えていっています。オーストラリアで立ち上げた事業はコツコツ進めつつ、場所にとらわれない暮らしをするために、インターネット販売事業を学び始めました。日本の良いものを海外に届けられるなと思ったので。まだまだ勉強中なので大きな売り上げには繋がっていないですが、少しずつ大きくしていきたいですね。

良い文化を伝えるために自分のブランドを立ち上げる。

佳代さんがオーストラリア暮らしの中で学び作った蜜蝋ラップ。

自分たちらしい暮らしをするために試行錯誤する中で、佳代さんはオーストラリアの環境に配慮した環境文化そのものを伝えていきたいという想いから、蜜蝋ラップのブランド『e-eco and organic』を立ち上げました。ロゴにあるかわいい鳥は、オーストラリアではグリーティングカードに良く印字されるほど大切にされている佳代さんが大好きな「ルリオーストラリアムシクイ」をモチーフにしています。このロゴを作ったのはピーターさんです。

佳代:オーストラリアのお店には環境に配慮した商品が数多く並んでいて、みんな当たり前のようにエコな暮らしを自ら選択しています。プラスチックをできるだけ出さない暮らしは日本で少しずつ注目され始めているけれど、実際にどう使うのかわからないという商品が多いです。そこで、文化そのものを伝えていきたいと思い、蜜蝋ラップを作ることにしました。少し不備が出てきたら修理を承っています。何度も直して使って欲しいし、その方法を伝えています。

よりこの地に根ざして。

オーストラリア人のような佳代さんと、日本人のようなピーターさんの掛け合いが楽しい。

子どもが大きくなってきたら、この地を拠点にして2国間を行き来した暮らしをしていきたいというポルミア田上夫妻。各々自主事業を立ち上げ、自分たちらしいペースで歩みを進めつつ、夫婦二人三脚でその過程を楽しんでいるのが良く伝わってきます。

ピーター:ここ数年は祭など地元の行事が少なかったので、もっと地元らしい活動に今まで以上に参加していきたいですね。今1番の目標は、僕はDIYが好きなので、自分たちらしい家にどんどん改装していきたいです。手が回ってないけれど、畑などももっとやっていきたいと思っています。

佳代:私も、自分のブランドを中心に、より環境に配慮した暮らしを広めていきたいです。海外の環境関連の情報をわかりやすく日本で取り入れやすく伝え、講演やワークショップ、マルシェなどに積極的に出ながら、どんどん地域を巻き込んでマイペースで進めていきたいです。

出店用にピーターさんが作ってくれた木箱

最後に

終始「自分たちらしさ」という言葉を大切にしていたポルミア田上夫妻。育った環境が違うからこそ沢山話して、お互いを理解し合いながら歩みを進めている様子が良く伝わる時間でした。進む方向が決まればすぐに行動するフットワークの軽さや、距離感を不便と感じないといった心持ちは、日本の地方で暮らしていく上でとても大事な感覚だと感じました。目標を掲げ、そこに向かって楽しみながら進むポルミア田上家の今後の展開が楽しみです。

WRITER 記事を書いた人

Tomomi Imai

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25歳でフリーランスとして独立し、多様な分野にてプロデュースやディレクター業を経験。モノコトヒトをつなぐひと。多様な伴走を得意とする。絶賛子育て中。ヨガ・サーフィン・音楽・映画・コーヒー・日曜大工が趣味。

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