大分移住手帖

想定外のピンチを新たなチャンスに。家族や人の縁に支えられ、不屈の精神と持ち前の行動力で切り拓いた理想の暮らし。

Kg

取材者情報

お名前
安部 尚徳
出身地・前住所
出身地:大分県大分市
現住所:埼玉県桶川市
現住所
大分県豊後高田市
年齢
41歳
家族構成
3人 + 犬
職業
焼きいも「ふたごや」
Twitter
https://twitter.com/258_foodstand
Instagram
https://www.instagram.com/yakiimo_258_futagoya/

ミュージシャンやプロデューサーとして活躍した華やかな都会を離れ、豊後高田市で焼き芋の移動販売や農業に取り組む安部さん。全く違う職種に進んだように見えますが、マネジメントなどで共通するやりがいを感じているそうです。そんな彼に、移住に至るまでの過程や都会と田舎の暮らしの違い、現在の生活についてお聞きしたいと思い、彼が営む農園を訪ねました。

安部さん一家

音楽の仕事を離れ、新たなステージへ

大分市明治で生まれ育った安部さんは、19歳になる目前で「このまま地元しか知らずにバンド活動を続けて、はたして本当に自分の辿り着きたいところまで行けるのだろうか? そして後悔しないだろうか?と」思い、双子の弟と共に上京を決意したそうです。

安部さん : 東京でバンド活動に勤しみ、22歳でプロのミュージシャンとしてデビューし、30歳まで続けました。作詞作曲を手掛け、レコーディングを経て音源をリリースし、ライブで全国を飛び回っていました。

ちょうどサブスクが誕生しCDが売れなくなる時代への過渡期で、月間20曲を制作したり、当時の所属事務所の意向と指示で売れそうな季節に合わせた曲を作らされたりと、自分が本当にやりたいこととのギャップを感じていました。今考えれば、私自身は音楽が好きというより、音楽をやっていた格好良い先輩に憧れていた気がします。あと、努力や工夫の結果、売れていく過程が楽しかったように感じます。

無我夢中になって物事に取り組んでいる際に、様々なアイディアが湧いてくる瞬間が好きだと話す安部さん。新たに熱中できる何かを探していたそうです。

安部さん : バンドを解散してから10年間は楽曲提供やアイドルのプロデュースをしていましたが「これでいいのか?」と自問自答を繰り返す日々でした。結局、自分で作曲・演奏するセルフプロデュースが楽しいと感じて辞めました。

仕事面で葛藤を抱えていた安部さんですが、プライベートでは掛け替えのない出会いに恵まれたそうです。

安部さん : 10歳年下の妻とは、渋谷のタワーレコードで行われた入場フリーのCD購入者特典のリリースイベントで知り合いました。当時、中学生だった妻が私達のバンドを気に入ってくれたようで、その後もCDがリリースされれば買ってくれていたそうです。私も妻もたまたま双子で、アイドルのマネージメントなどを手伝ってもらうなど、仕事上でも良き理解者です。

結婚して子どもが生まれてからは、子育てのために都内から離れて、埼玉県桶川市にある妻の実家に住みました。義父母も子どもの面倒を見てくれるので、妻と将来についてゆっくり話す時間があり、二人で一緒にできる仕事に就きたいと考えるに至りました。色々と調べる中で、自分で作って売るという過程が音楽の仕事と似ていると感じ、農業に興味を持ちました。

いつかはUターンしようと考えていた安部さん。農業と子育てを重視して移住先を検討したそうです。

安部さん : 従姉妹のお姉さんから、大分県に移住するのであれば子育て世帯への支援が手厚い豊後高田市がいいと教えてもらいました。妻は面白そうということで賛同してくれました。2019年11月に空き家バンクの物件などの見学のため豊後高田市を訪ね、翌年に移住しました。

移住の際には豊後高田市の子育て世代いらっしゃい引越し応援事業移住者応援事業 ~ウェルカム未来の高田っ子応援金~を利用しました。

イベント出店中の安部夫婦

ピンチをチャンスに変えた焼き芋の移動販売

新天地で新たなスタートを迎えた安部さんですが、予想外の事態に直面したそうです。

安部さん : 2020年はタイミングが悪くコロナ禍が広がった頃で、4月から農業研修に参加する予定でしたが移動制限で延期になり、結局6月に移住しました。先行きが見えず不安や焦りを感じました。

また、豊後高田市の新規就農支援事業を受けるつもりだったので、移住後の2年間は農業研修の予定でした。希望のブルーベリーは、市内に手掛けている農家がなく、豊後高田市役所に何度も相談した上で、似た作物である葡萄の研修を受ける予定でした。ところが、移住後にブルーベリーでは新規就農の支援ができず、葡萄と葱であれば支援できると言われたのですが、好きでもないことでリスクを背負うのは難しいと感じ、制度の利用を断念しました。

それに伴い、新規就農の家賃補助や空き家バンクの利用も断念しました。当時は予定が狂ってしまい、精神的にも経済的にもこれ以上辛いことはないところまで追い込まれました。

ピンチを乗り切るために、自分で何か始めるしかないと考えた安部さんは、移住前に興味を持っていたアイディアに目をつけたそうです。

安部さん : 妻の実家に住んでいた際に、夫婦で「焼き芋の販売って面白そうだね」と話して、色々と調べていたことを思い出しました。既に知識は持っていましたので、ゼロからのスタートではなく取り組みやすいと考えました。費用などを考えると店舗は難しいため、移動販売と決め、2021年10月から「ふたごや」を開業しました。夫婦揃って双子というのが名前の由来です。

安部さんが販売する焼き芋

スタートした頃は知り合いがおらず信用がないため、豊後高田市内のどこの業者も芋を卸してくれなかったので、大分市や豊後大野市まで足を運んで仕入れました。お陰様で販売は好調でしたが、交通費などの高騰に伴い原価が上がってしまいました。

当初、芋は調達することを想定していたため、新たなピンチを迎えた安部さんですが、支えてくれる方々との出会いを通じて、乗り越えたそうです。

安部さん : 私が働きながら農業を学んでいる和泉農園の和泉さんに、農作物の作り方から農具の使い方レンタル、農地の貸し出しや人との繋がりなど、様々な場面で大変お世話になってきました。

その和泉さんのお父さんが趣味でさつまいもを作っていたので、ご好意で栽培ノウハウを教えていただきました。現在やりとりを続けている苗屋さんなども、和泉さんからご紹介頂きました。イベントへの出店についてもご尽力頂き、感謝の気持ちでいっぱいです。

耕作放棄地を開拓する安部さん

奥さんと二人三脚で畑を切り開いた

現在の安部さんのさつまいも畑

並行して20年ほど使われていなかった耕作放棄地を見つけ、豊後高田市役所に所有者との間を取り持ってもらいながら賃貸契約を結び、時間を作って切り開いて整地し、さつまいも農園を始めました。SNS上での話題性などを考慮し、大分県内では珍しく農家にも知られていないハロウィーンスイートシルクスイートという品種のさつまいもを育て、パッケージなどにもこだわっています。

安部さんが育てているブルーベリー

こうして辛い時期を脱した安部さん。今後は新しいことに挑戦していくそうです。

安部さん : 農業は繁忙期とそれ以外の時期の収入の差が激しく、想像以上に大変でしたので、今後は新たに土地を開墾しながら、ブルーベリー園や観光芋掘り園、オートキャンプ場などを始めたいと考えています。

昔とは違い動画などから知識を得ることができるので、まずは少数のブルーベリーを育てています。今年に入って畑を訪ねてきた友人から「ここにキャンプ場があれば泊まりたい」という助言を受けて、まずは一棟のログハウスを建てました。間も無く電気を通し自販機を設置するなど、着々と拡充していきます。

休みの日でも農業に取り組むのが好きだと話す安部さん。音楽活動と通じる面白さを見出したそうです。

安部さん : バンド解散後はこれと言ってやりたいことが見つからず悶々として過ごしていましたが、ようやく夢中になれるものが見つかりました。農作物を育てるだけでなく、どうやったら売れるかなどのマーケティングやプロデュースを考える時は、色々なアイディアが浮かんで、やりがいを感じます。

キャンプができるように新設したログハウス

理想の一軒家

現在はペット可のアパートを借りて住んでいる安部さん。家探しは苦労したそうです。

安部さん : 豊後高田市内でペット可の物件は少なく、現在住んでいるアパート以外に選択の余地はありませんでした。アパートなので農具の倉庫などはありませんが、移住後に空き家バンクを利用して一軒家を探す予定でした。ところが、移住を済ませてしまった点や新規就農支援事業の支援を受けてないこともあり、空き家バンクの利用ができなくなりました。

そのため、自力で理想の住まいを探した結果、和泉さんのご紹介で知り合った方から、豊後高田市香々地に念願の一軒家を見つけて頂き、同年齢ぐらいの優しい管理人とやり取りをして今年9月から住むことが決まり、引越しの真最中です。ペット可で庭や倉庫もあるなど条件を全てクリアしていて、建物状況も良く小規模の改修で済みそうです。もし、空き家バンクで物件を見つけた場合は、もっと改修が必要だったと考えると、結果的に良かったと思います。

理想の住まいに出会った安部さんですが、豊後高田市ならではの慣習に驚くことがあったそうです。

安部さん : 全てではありませんが田舎に行けば行くほど、家や畑の契約などについて、やり取りを書面で残して契約書を交わすのではなく、口約束で行うことが多いと思います。都会の生活ではありえないので、当初は驚きました。

良く言えば繋がりや信頼関係を重視しているのだと思いますが、後々言った言わないでトラブルの元になるかもしれませんし、もし管理人や所有者が変わった際に反故にされるという危うさを感じました。特に近所付き合いの延長でやりとりしている部分があると感じました。知り合いの乗りでやってくれて助かる反面、怖さもあると思います。

私の場合は、トラブルにならないようにできるだけ書面に残すようにしていますが、畑の手入れのついでに隣接している畑の草刈りを申し出たら、地主に好意を持って頂けたようで「じゃあ、その畑も使っていいよ」と言って頂けたことがありました。素直に嬉しいのですが、実際に耕作放棄地を口約束で借りて、畑を作って作物が売れ出したタイミングで返してと言われ、書面がないためどうしようもなくなったという話を耳にしたこともありますので、一抹の不安は感じます。とはいえ、現在もその畑はありがたく使わせて頂いています(笑)。

安部さんの畑の裏にある粟嶋社

豊後高田市の特色と都会の暮らしとの違い

現在まで住んでいる市街地にあるアパートは移住してきた方が多いこともあり、田舎ならではの行事は引越後に経験できるのではと話す安部さんに、地域についてお聞きしました。

安部さん : 豊後高田市は移住者を大々的に募集している事もあり、地元の方々が移住者慣れしていて偏見なくウェルカムな雰囲気で生活しやすいです。娘は4歳で保育園に通っていますが待機児童はゼロですし、高校生まで医療費が無料など、本当に子育て世帯に寄り添った地域だと思います。お年寄りが多いため、子どもは地域ぐるみで可愛がって頂けて、のびのびと育っているように感じます。

都会では挨拶するだけで怪しい人になってしまいますが、ここでは学生が知らない人でも挨拶してくれます。最初は慣れませんでしたが、今では自分から挨拶できるようになりました(笑)。

本来であれば豊後高田市は行事が多いそうで、一年中お祭りなどを開催しているそうですが、コロナ禍に移住してきた事もあり、残念ながらまだ未経験です。

豊後高田市にある移住者の会に参加するなど、移住者同士の交流も深めている安部さんですが、都会の暮らしとの違いを感じることもあるそうです。

安部さん : 自分が畑の手入れをすれば、何も言わなくても隣接する畑も綺麗にしてくれます。都会では自分の土地であれば放置しようが掃除しようが何をしても良いという感じですが、田舎は隣近所をよく見て合わせてくれると感じます。

方言の違いについて、妻は都会で生まれ育ったため、大分弁を聞くと口調や語尾が強くて怒られているように感じるそうです。私が知っている都会出身の方も同様で、会話の際に細かいニュアンスや意図が伝わらず怒られていると感じた事が原因で、仕事を辞める方がいました。大分の方は都会の方言に冷たい印象を持ちますが、都会の方は大分弁が怖くて慣れるまで時間が必要だと思います。

また、大分はプライベートに深入りせず、程よい距離感を取ってくれ、優しいと感じます。女性は逞しくコミュニケーション能力が高いのですが、男性は物静かで内弁慶な印象です(笑)。

都会は人が多いので、積極的に声を掛けて目立たないと抜きに出られず、空気を読んで黙っていては成功できませんが、田舎は狭くて周りにアピールしなくても知ってもらえるためか、言葉に出さない奥ゆかしさがあるように感じます。その一方で、人の目を気にしているのか、やりたいと言いながらやらない方が多い気もします。目立ちすぎると人に嫌われると考えているのかもしれません。

また、空き家バンクを利用したことがある移住者の中には、想像以上に傷んでいてリノベーションをしても理想の住まいにできなかった等の理由で、空き家バンクの利用を再度希望される方がいるので、各市町村にはぜひ検討頂きたいです。

自然豊かな畑の周囲

移住希望者へアドバイス

豊後高田市にお世話になった感覚が強いので、自分の収益を追い求めるだけではなく、キッチンカーや音楽などのイベントの開催を通じて地域を盛り上げて恩返ししたいと話す安部さんに、移住を希望する方々に向けて、アドバイスを頂きました。

安部さん : 自分はやりたい事に関して迷わないタイプなので、移住の決断は早かったのですが、即断即決ではなく下調べはしっかり行いましょう。出来れば移住候補地に1週間ほどお試しで住んでみて、地域や生活環境を把握することをお奨めします。あと、家を選ぶ際は自分達の要望を踏まえて、慎重に選んだ方がいいです。

あと、移住先の制度の謳い文句の全てを鵜呑みにせず、自分自身や家族の想いを信じて移住すれば必ず道は拓けます。都会はホームレスになっても声を掛けてくれませんが、田舎の方は本当に親切なので、挨拶やありがとう・ごめんなさいが言えれば、本当に何とかなります(笑)。

畑から望む夕景

最後に

移住先の豊後高田市で、紆余曲折を経て理想の住まいや夢中になれる仕事に出会えた安部さん。思い通りにいかないことも、強い想いがあれば、日々の積み重ねや人との縁の中で、いつしか志を達せられると教えてくれました。今後も新たな挑戦を続ける彼の話を聞いてみたい方は、ぜひ粟嶋社の手前にある赤いロッジが目印の彼の農園を訪ねて下さい。きっと笑顔で出迎えてくれることでしょう。

PHOTO

  • 想定外のピンチを新たなチャンスに。家族や人の縁に支えられ、不屈の精神と持ち前の行動力で切り拓いた理想の暮らし。
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WRITER 記事を書いた人

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株式会社モアモスト 取締役・一般社団法人まち元気おおいた 理事・Pdw 代表として、サイト・DTP・DTMなどディレクション〜制作をはじめ、ライターや撮影などの業務に従事。大分市府内5番街商店街振興組合の理事として、まちづくりにも携わる。

SC-RECS.com・クラブイベントインフォ・SCLS・DubRize・PLay・合同写真展などを主宰し、各種イベントのオーガナイズからDJやマシンライブなどまで展開中。テルミン使い。

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