取材者情報
- お名前
- 今枝吉伸・幸江
- 出身地・前住所
- 出身地:愛知県
前住所:愛知県名古屋市東区
- 現住所
- 九重町
- 年齢
- 45歳
- 家族構成
- 夫婦2人
- 職業
- 椎茸農家(どんぐりの森 今枝しいたけ農園 2023年11月開園予定)
- https://www.instagram.com/IMAEDA_C_TAKE/
会社員として働きながら起業を志していた吉伸さんと、Jazzのサックス奏者やボーカリストとして活躍し音楽スタジオを経営しながらも、漠然と自然の中での生活に憧れていた幸江さん。そんな2人の夢が交わる場所こそが、移住先の「九重町」での「椎茸農家」だったそうです。そんな今枝夫婦の九重町での生活や、これからの展望についてお聞きするために、お二人の元を訪ねました。
移住に至る経緯・大分県に決めた理由
それぞれ愛知県で生まれ育ち、名古屋市で結婚し暮らしていた今枝夫妻。2人の夢がクロスオーバーした結果、移住を考えるに至ったそうです。
吉伸さん : コロナ禍が広がり、日常生活に制限がかかり自分達が思ったように動けなくなった際に、もっと外の世界を体験できるのではと考えさせられました。とはいえ、当時は農業や田舎暮らしについては漠然としたイメージしかなく、何をしたらそういう生活ができるのかわかりませんでした。
両親は「反対してもやるだろうね」という感じで賛成してくれました(笑)。
幸江さん : 私はいつか自然の中で自給自足のような生活をしたいという夢があり、夫はいつか起業したいという夢がありました。コロナの影響で働き方が大きく変わり、オンラインでの仕事も増え、私たちの中でもっと柔軟な働き方ができるのではないかと考えるようになりました。2人で色々と話し合った結果、自然に囲まれた場所に移住することを決めました。
次に移住先を探すために、二人で旅行をしながら自分達に合った土地を探しました。しかし、ピンとくる場所に中々出会えませんでした。
もう1つ、田舎に移住をして何をするのかが具体的に決まっていなかったので、場所を探しながら働き方についても考えていました。そんな時に偶然インターネットで農業についての記事を読み、農業に興味を持ち始めました。調べていくと、ファーマーズスクールという制度があり田舎に移住をして農業の勉強ができると知り、お互いの夢が繋がるものが農業だと気付きました。そして、色々な野菜がある中で二人が「これだ!」と感じた品目「椎茸」に決めました。椎茸のファーマーズスクールを検索したところ九重町にあると分かり、大分県に一度も行ったことがないまま移住を決めました。
こうして九重町への移住を決めた3ヶ月後の2021年4月には実現したという今枝夫妻。移住の際には九重町の下記制度を利用したそうです。
・九重町民間賃貸住宅家賃助成事業 月額15,000円
・移住応援給付金(引越費用に対する補助) 上限 200,000円
・仲介手数料 補助金 上限50,000円
・移住支援奨励金 100,000円
起業を目指して
今思えば夢を実現できるのがたまたま農業で、その中で自分達に合っていると選んだものが椎茸という感じだったと話す今枝夫妻。現在は起業に向けて日々切磋琢磨しているそうです。
吉伸さん : 九重町ファーマーズスクールの椎茸を学ぶ第一期研修生として、独立に向け現在も勉強中です。椎茸は自分で木を切ったり山道を切り開いたりと開拓に近い要素が多く、魅力を感じました。結果的に、私達が望んでいた自給自足ができる場所に移住したというわけです。
幸江さん : 移住後は夫婦揃って椎茸の研修を受けながら、夫はトマトの会社、私はオンラインで音楽レッスンをしながらJAのトマト選果場でアルバイトを始めました。現在も研修とアルバイトを続けながら、知り合いの農家さんのお手伝いに行ったりしています。地元の方々と接することで、先人の知恵がたくさん身に付きますし、話を聞くだけでも面白いと感じています。
余談として、移住したばかりの頃に、椎茸栽培の師匠に挨拶に伺ったところ、大いに心配されて「農業で食べていくのはしんどいし、その中でも椎茸は身体への負担も大きくて苦労するので止めときなさい。コンビニのアルバイトの方が良い。」と反対されましたが、今では様々なことを教えていただいており足を向けて寝れず、九重町ファーマーズスクールの椎茸担当の先生方には感謝しきれないほど大変お世話になっています。役場の方もとても親切なので、何かあれば相談しやすい環境だと思います。
吉伸さん : 椎茸の仕事は私達に合っていますし、初めてのことばかりで興味が尽きることなく楽しいです。もちろん、山作業など大変なこともありますが、自然の中で仕事ができるので充実しています。また、椎茸の生育に適している気温が人間と同じこともあり、ビニールハウスの中はまさに快適です(笑)。
2023年11月から起業予定ですが、目標の売り上げを達成するようにしながら、少しずつ規模を大きくしていきたいと考えています。
幸江さん : 起業後に仕事として取り組む作物は椎茸のみですが、それとは別に自分達が食べるものを畑で育てたいと考えています。
また、九重町は習い事をする場所が少ないので、いつか音楽教室を開校したいと思います。
賃貸からマイホームへ
家探しについては、空き家バンクは物件登録数も多く参考になるものの、まず一度は賃貸でその土地に住んでみて、必ず色々な場所を見た方が良いと話す今枝夫妻。
幸江さん : 移住をするときに賃貸物件を探した時には二軒しか見つからず、その内の一軒を借りて住み始めました。その後、長く仕事を続けたいという気持ちや、賃貸物件が少なくそれなりに高いことを踏まえて、中古物件を購入しようと探し始めました。九重町ファーマーズスクールの先生のお力添えもあって無事見つける事ができ、現在リフォーム中で2023年1月に完成予定です。空き家バンクには掲載されないものの、地域の方が管理している物件もありますので、まずは賃貸で移住することをお勧めします。
九重町には空き家活用定住促進事業で、空き家バンクを通じて購入した物件のリフォームについて、上限2,000,000円の補助金があるので、とても助かりました。
吉伸さん : 現在研修で通っているビニールハウスや起業予定地から近い場所に、家を購入することができました。農具の保管のための大きな倉庫や自給自足のための田畑もあり、私達の条件を満たしてくれています。
笑顔を絶やさずコミュニケーションを取り、地域に溶け込もうと努力を重ねていれば、誰かが見てくれていて、必ず報われると感じているそうです。
幸江さん : 最初は衝撃を受けたのですが、この集落には水道が通っていません。集落の皆さんで手出ししながら管理している集落専用の水源があり、、私達がこの集落に永住しようと考えていることを集落の皆さんに知っていただき交流を深める中で、水の権利を分けてもらえることになりました。
人間関係を築くために「いつも笑顔で楽しく一所懸命に生きること」を心がけることで、少しずつ信頼してもらえるようになり、色々な機会に恵まれるようになりました。コロナ禍の影響もあり、地域のお祭りやイベントは参加できなかったので、これから再開されることを楽しみにしています。
吉伸さん : 集落は高齢化で60代以上の方ばかりで、私達が最年少です。また、引っ越してくる人は親族ばかりで他人は初めてだそうです。コロナ禍でも寄り合いはあるので、次世代として今後は力仕事など積極的に貢献していきたいと思います。
心豊かな暮らし
名古屋市で暮らしていた際は、公共交通機関を利用し車がない生活で、買い物などの選択肢も多く、週末はライブをするなどして、都会的な生活を楽しんでいたという今枝夫妻。現在の暮らしについてお聞きました。
吉伸さん : 自然溢れる環境の中で、マイナスイオンを感じる毎日で、暮らせるだけで大満足です。ファーマーズスクールで休日をきちんといただいており、近隣の温泉に足を運んだり、やまなみハイウェイや大分市へのドライブを楽しんでいます。愛知県では杉を見かけることが多かったのですが、九重町では紅葉樹が多く四季の彩が鮮やかで、季節ごとの花などもよく見かけます。
幸江さん : 名古屋市の生活が恋しいとはならず、逆に用事などで名古屋市に戻った時には、九重町に早く帰りたくなります。移住当初は三ヶ月に一回は戻って音楽の仕事をしようかとも考え、2022年夏までは音楽スタジオも維持していましたが、もう戻ることはないと確信して手放したほどです。
また、九重町には親切な人が多いのに感動しました。そして食べ物が美味しいです。九重町に移住して良かったといつも思っています。ストレスがないので、毎日が休みのようなものです。
今枝夫妻にとって現在の九重町での暮らしは、新たな驚きと発見に溢れているそうです。
吉伸さん : 集落では苗字ではなく下の名前で呼び合うのですがそれ自体が面白くて新鮮で、良い意味で人との距離が近いと感じます。皆さんがそれぞれ生活の知恵を多く持ってらっしゃいますし、60代で顔はおじいちゃんでも身体は鍛え上げていて驚きました。今まで私達が知らなかった「猟師」という職業の方が身近にいるなど、興味は尽きません。
幸江さん : 移住をする前にインターネットの環境について心配していたのですが、九重町がインターネット環境を整えてくれたそうで、とても快適に使えています。梅干し作りや味噌作り体験など、体験型のイベントなども充実しているのが嬉しいです。
都会の暮らしと比較すると、悩みや不安を感じることもあるそうです。
吉伸さん : 将来的に車の免許を返納した際はどうしようかなと思うことはあります。買い物は玖珠町に出かけることが多いのですが、買い物したら必ずストックする・ネットを活用する・自分達で作れるものは作って自給自足を行えば、豊かな生活を送れるのではと思います。近くにコンビニがないのは不便なのではないかと思っていたのですが、意外となくても生活ができるし、逆に無駄使いをしなくて済んでいるので良かったです。
ここ数年、自然災害も多いので心配ですが、自然との向き合い方や知恵を得るきっかけにもなりました。自然とうまく共存していく生活はとても勉強になります。
移住希望者へアドバイス
九重町での暮らしを満喫している今枝夫妻に、これから移住を考えている皆さんへ向けて、アドバイスをいただきました。
吉伸さん : まず、コミュニケーション能力は必須です。一人でゆっくり過ごしたいのであれば、孤立してしまう田舎よりは、都会で過ごす方が良いのではと思います。高齢化が進んでいるので、上手にコミュニティーに溶け込むことができれば、チャンスが広がるポテンシャルの高さも感じます。
幸江さん : 移住したばかりの頃は何もありませんでしたが、知り合いが増えて信頼されると、色々な話をいただけるようになります。例えば「米を作りたい」と言えば「田んぼが空いているよ」、「鶏を飼育したい」と言えば「うちのチャボをあげるよ」という様に、次から次へ繋がっていきます。
吉伸さん : あと、あまり細かいことを気にしないというのも大切かもしれません。新しい家は色々な場所から目につく場所にあり、来訪者などがすぐ周りに伝わり声がかかりますが、見られていることに神経質になるのではなく、気遣ってくれることに感謝するぐらいの大らかな心持ちで過ごした方が良いと思います。
最後に
椎茸農家として独立・起業に向けての研修や、マイホームの購入などを通じて、一歩一歩着実に夢を実現していく今枝夫妻。それぞれの想いが交わった場所である九重町で、四季の彩り鮮やかな自然に囲まれながら、これからも心豊かに暮らしていかれることでしょう。すっかり集落に溶け込んだお二人の姿からは、笑顔でコミュニケーションを絶やさないことや、焦らずにゆっくり歩を進めていくことの大切さを教わりました。想いを叶えるためにまずは少しずつでも行動しましょう。