大分移住手帖

お風呂は温泉、暖房は地熱。自然と共に生きる飯田高原暮らし。

Tomomi Imai

取材者情報

お名前
種村英大・愛
出身地・前住所
出身地:夫 神奈川県相模原市 / 妻 福岡県大牟田市
現住所
九重町湯坪
年齢
夫 41歳
家族構成
7人
職業
夫 ビジターセンタースタッフ
Webサイト
https://inakanotane.com/

標高800m。高地トレーニングに活用され、12時には坊ガツル讃歌が流れるような山文化が広がる飯田高原。この高原の中にある湯坪と言う地域に移住されたのが種村一家です。家の軒先から見える九重連山が壮大なこの大自然にある小さな集落で自分たちらしく農業を楽しみながら暮らす一家の移住ストーリーをお聞きしました。

WWOOFで辿り着いた飯田高原。

くじゅう連山の山々が見える軒先

ご夫婦が出会ったのは、農業体験をしながら農泊ができる世界的サービス「WWOOF」を通して飯田高原にある農家レストラン蕨原おわてに辿り着いたのがきっかけ。お互い別々の時期に利用していて、先に来た愛さんはおわての環境が好きで長期に渡って滞在していたところに、英大さんがやってきたのだそうです。

英大さん:おわては面白いところで、春は野焼きをしたり、山菜を取りに行ったり。250年続く家を代々大事にしてきた方々で、学びがとても多い場所です。1ヶ月の滞在予定が気づけば1年いました。僕は神奈川県出身で、それまで九州には行ったことがなかったんですが、進路に悩み青春18切符とリュック1つで家を出ました。

愛さん:私は農業が元々好きで、まずはニュージーランドにWWOOFで行ったのをきっかけにハマっちゃって。日本に戻ってから北海道から日本縦断する形で九州まで来ました。実家が福岡県にあり、一人っ子なので実家に比較的近いところという意味で、暮らし方がおわてのスタイルがとても良くて、長くいるようになりました。

飯田高原で出会ったお二人はその後結婚。3人の子どもに恵まれました。そしてなんと、家出のつもりで来たという英大さんのご両親も移住してきたため、現在は7人の大家族となったのだとか。

お二人の移住のきっかけになった「おわて」。飯田高原に昔から伝わる暮らし方を継承している時松さん。

人の繋がりのお陰で見つかった家と田んぼ。

購入された元民宿だった現在の家

最初は近くの空き家を借りて暮らしていたそうですが、WWOOFで知り合ったおわての時松さんの紹介で、今の家を購入したという種村家。元々民宿で、部屋数が多いので、将来的に農泊やWWOOF受け入れを考えているお二人にはちょうどよかったのだとか。温泉が付いていたので、寒い地域でもやっていけると感じたそう。人気があるエリアなので、なかなか空き家が見つからないと言います。

人気のエリアではあるものの、空き家が少ないため多くは別荘エリアに行ってしまうのだとか。移住後は生活インフラ維持のための集落の出ごとの多さや地域性がわかりにくいという点を解決する必要があるようです。商業地域とそうでない地域でも同じエリアで雰囲気は変わるようです。

田んぼを7〜8反作らせてもらいましたが兼業が大変で、少し減らして現在は3反ほどで合鴨農法を10年続けているそうです。40羽ほど飼っていますが、キツネやイタチに食べられてしまうのが困ったのだとか。田んぼは近所の人から借りている他、購入したところもあるそうです。

英大さん:単身で急に来て、温泉の話や田んぼの借り受けの話はなかなか最初からできるものではないと思います。僕らも最初に繋いでくれた方々がいたから今があります。おわてのみなさんが暮らす上で繋がった方が良い人や場所を色々紹介してくれたのがとても大きいです。

小学校は飯田小学校にバスで通っています。全校生徒は60人程度。九重町は出生率が高く兄弟が多いのですが、世帯数が少ないので、家族ぐるみで一緒に育っていける環境なのだそうです。

家に元々付いていた掛け流しの温泉が普段のお風呂

古い家は住むのも農泊許可申請にも一苦労。

複雑に混ざった様々な管

町の補助を活用し、2Fに台所や水場を設置した他、外壁は業者に依頼。水道管は自分でやり直したと言います。古い家は水道管が複雑に張り巡らされていて大変だったそう。また、前の住民の暮らしの後がそのままで、その荷物の片付けに時間がかかったようです。

昔の家なので、図面がバラバラなこともあり、農泊許可を得る上で苦労があったのだとか。現在のルールは昔より厳しいため、改めての図面作成は自分たちでパソコンを使ってコツコツ作ったのだそうです。

英大さん:色々苦戦しましたが、それも経験として、今後同じように田舎暮らしを始めたい人たちが気軽に相談しに来れるような場所になって欲しいと思い、農泊開業の準備の他「イナカノタネ」というブログを立ち上げました。ここは都会と違って蛇口をひねればいつでも水が出るわけではないし、それを業者に申し入れても、自分たちで直さないと使えない。そういう事を前もって知ることで、住んでからのミスマッチがなくなると思うんです。

地熱発電と温泉で暮らす町は集落の出ごとが多め。

洗濯物が乾くほどの暖気が出ている家の中を通っているお湯の管。

九州電力による地熱発電のお湯が各家庭に行き渡っている湯坪地域では、冬の暖房アイテムとして欠かせないヒーターやコタツまで、温泉が利用されています。家の中にはお湯が流れる管が各部屋などにあり、その中をお湯が通り、暖気によって部屋が暖かくなったり、ヒーターから暖かい風が出てくるという仕組みです。これにより、実質光熱費がとても安く済むのだとか。

英大さん:掛け流しの温泉が巡っている状態なので、夏は元々涼しくて冷房要らず、冬はお湯のお陰で暖房要らずなんです。温泉の使用料が年間1万円ほどなので、年間で見ると光熱費はかなり安いです。お湯の暖気により洗濯物が乾くので室内干しも楽です。また別途、集落の構成員十数軒で関している泉源の掃除が2−3週間に1回あります。

他にも、集落の簡易水道は山の湧き水を引いてきているそうですが、その設備の維持管理は集落の構成員で行うのだとか。ライフラインの管理は皆自前で行っているそうです。

英大さん:泉源の掃除は早ければ半日で終わりますが、トラブルがあれば結局1日かかりますね。簡易水道は3km以上離れた山の湧水を引いているので、途中でパイプが噴破したり、獣がイタズラすることも。休みの日はこういった出ごとで潰れてしまうことが多いです。

標高が高いため、山の湧水は凍ることがあり、水不足になれば集落で断水管理を行うのだそうです。雨や雪が少ないと水不足になりやすいそうです。

これ以外にも、田んぼの水路の管理や消防団の出ごとなどがあり、この地域の男性は結構地域作業に取られる時間が多いようです。

英大さん:仕事と出ごとの両立はすごく大変です。僕はフルタイムでビジターセンターという国立公園施設で働いているので、スケジュール調整にいつも頭を悩ませています。

地熱の暖気を利用したヒーター。

農業は自給用。ビジターセンターが主の仕事。

仕事の様子

▶︎仕事の様子

移住してから、非常勤国家公務員として環境省の仕事に就き、その後ビジターセンターを管理している地域団体へ就職し、現在は管理職を担っている英大さん。畑や田んぼを行っていますが、それらは自給をメインとしたものなのだとか。種村夫婦はWWOOFの経験を踏まえて、農業をするなら兼業農家が良いと語ります。

英大さん:農業は兼業をお勧めします。専業農家になるには機械などに投資をして大規模にやっていかないと、生活を支えるほど稼ぐのはかなり難しいです。家の暮らしを考えたら田んぼは2反あれば十分です。この地域では、農業だけで収入を得ている方は実はほとんどいなくて、みんな民宿をやったり冬場はスキー場に勤めたりしながら収入を得ています。兼業ならば、したい暮らしとのバランスが取りやすいです。この辺の地域では、夫が勤めに出て、妻が宿業をやっているパターンが多いです。有名な観光地なので、お客さんが毎年たくさんやって来てくれます。

また、移住の上でスーパーなど買い物場所へのアクセスを気にする方がいますが、自給を始めるとそもそも買い物に行く頻度が下がるため、全く気にならないそうです。

子どもたちが遊ぶ場所でもあり、ライフラインでもある川

愛さんは、子育てと田畑の世話を中心に、周辺宿に手伝いに行くことで仕事になっているのだとか。冬の一部の時期を除いて年中人が来る地域のため、仕事には困らないと言います。

英大さん:雇用形態にこだわりがあると難しいかもしれませんが、複数の仕事を兼業して成り立てて行くことがここでは普通なので、季節に合わせて仕事をしていける環境です。

愛さん:宿が多いことで人の出入りが多いので、結構賑やかな地域だなと思います。合宿などで外国の方がよくいらっしゃるので、なかなか出会えない国の方とここで交流できます。子どもにとって多様性を育める環境に満足しています。

お互い良くしたいからこそ長い時間軸で。

移住してくる方々には地域を良くしたいという方々が多く、「こうした方が良い」と色々思うそう。ただ、それを実現させるためのプロセスがその土地ごとにあり、どうしても最短で行きたいと考えるけれど、話を通す人の伝い方に順序があり、そういったものは中に入っている人を頼ったり、知っていく時間を多少ゆっくり持つことが、小さな集落で暮らすコツだと英大さんは語ります。

英大さん:人を理解するのには時間がかかります。効率の良さだけでなく、ここでは各々が担い手であるため、役割を理解した上で、自分がどの役割を果たせるのかなど、まずは住み始めた地域を理解する時間を慌てず持つことが大事だと思います。理想を言えば、移住してくる前に話ができて、ミスマッチが起きないようにすり合わせられる機会があると、より良い移住が増えると思います。

中に入ってそういったコミュニケーションをする上で、出ごとの時間は良い時間だと言います。日頃のお付き合いを通じて、お互いを理解していくことが小さな地域で暮らしていくコツのようです。

愛さん:今は昨今の情勢の影響で機会が減ってしまいましたが、お葬式があると公民館に集まりみんなで料理をするのですが、みんな宿をやっているのでとても美味しいし、コミュニケーションが取れる良いチャンスでした。顔を合わせて話が出来るので、徐々に知り合っていけるんです。関わり方がわからない場合はとにかく出てみるのはおすすめです。

最後に

移住の良いところも大変だったところも踏まえて、今ある自然を活かしたライフラインと共に既に集落の人となっている種村夫妻のお話はとても勉強になることばかり。また、それを次の人たちへ繋いでいこうという愛情を感じる取材でした。小さな集落で自然と共に生きる上で、各地域が培ってきた文化やルールに意味があり、出ごとをうまく活用することでより暮らしやすくなる。なんでもお金で解決するような今の暮らしの軸ではなく、ここの暮らしの軸で考えていくと、実は都会より効率が良いのかも知れません。移住のきっかけになった「おわて」に連れて行っていただき、飯田高原土着の生き方の良さをひしひしと感じる取材でした。お二人が綴るブログ「イナカノタネ」はかなり読み応えがあるので、ぜひ参考にしてみてください。

WRITER 記事を書いた人

Tomomi Imai

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25歳でフリーランスとして独立し、多様な分野にてプロデュースやディレクター業を経験。モノコトヒトをつなぐひと。多様な伴走を得意とする。絶賛子育て中。ヨガ・サーフィン・音楽・映画・コーヒー・日曜大工が趣味。

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