取材者情報
- お名前
- イケベ ケンタロウ
- 出身地・前住所
- 前住所:福岡県・東京都・横浜市・別府市
出身地:大分県由布市
- 現住所
- 大分県日出町
- 年齢
- 36歳
- 家族構成
- 1人
- 職業
- IT関係
バンド「空間」
音楽や文化芸術を志すと、自ずと都会に近いところで暮らすことを選択しがちですが、時にそれが人との距離感が近すぎて、じっくり制作に没頭するには良い環境と言えないこともあるようです。イケベさんはそんな距離感や自分のフェーズに合わせて、住う場所を変えてきた中で、現在の日出町に行きつきました。そんなイケベさんの移住ストーリーをお伺いしました。
芸術を志しつつ、紆余曲折した20代〜30代前半。
大分県由布市で生まれ育ったイケベさん。3歳の頃に福岡へ引っ越し、その後大学進学のために上京しました。学ぶ中で絵に興味が沸き、大学を辞め、アルバイトをしながらお金を貯め、絵の学校へ行ったのだとか。当時は風景画を良く描いていたというイケベさん。興味が講じて、30歳になる頃にドイツ・ベルリンへ足を伸ばし、留学をしようと試みました。自由度が高い世界に触れつつも言語の壁が想像より高く、4ヶ月ほど滞在して帰国しました。
イケベさん:英語が話せれば大丈夫だと思っていましたが、現地の大学に入るにはやはりドイツ語が必要でした。とても自由で刺激的な場所だったので、頑張って学べたかもしれませんが、そもそもここで絵を描いていきたいのかと葛藤し、帰国することにしました。
帰国後、東京都の友人のアパートで少し暮らし、その後住み込みでのアルバイトを求めて福祉関係の仕事に就いたイケベさん。しかし、入社した会社から渡される仕事が大変で、家も決まらず、1時間半の通勤時間が苦痛だったこともあり体調を崩してしまいました。
働ける状態になかったイケベさんは由布市の実家に戻り、9ヶ月ほど引きこもったのだとか。この間にそれまで自分が積み重ねてきた色々が壊れ、大きく自信を失った経験だったそうです。
その頃、父親が転職し、その関係で熱海に引っ越したため、それについて行ったイケベさん。その後、横浜でも暮らしましたが、母親が病気を患ったことをきっかけに、養生のために由布市へ戻りました。しかし、家族の中にずっといることに窮屈さを覚え、車も無く息抜きができないと感じたとそう。別府市にてアーティストの活動支援の一環として管理運営されている清島アパートの募集を見つけ応募し、審査が通ったことで、また1人暮らしが始まったのでした。
人との距離を少し離したいと思い移住先を探し始める。
別府市は多様性を受け入れる土壌があり、様々な分野の方々が行き交う部分ではとても刺激的でしたが、一方で距離感が近すぎるという難点を感じたというイケベさん。清島アパートの契約が1年ごとの更新だったのため、2年目を終えた頃に改めて移住先を探すようになりました。
旅行関係のキャンペーンが始まったのをきっかけに、少し遠出をしながら、別府市より自分に合った町がないかと探し始めたそうです。
中津市まで電車で足を伸ばし、帰ってくる道中で、たまたま暘谷駅に降り立ち、ちょうどお腹が減っていたので近くにあったトンカツ屋に入ったところ、とても美味しくて印象に残ったそうです。港や美味しいお店があり、その後定期的に日出町に通うようになりました。
イケベさん:何回か通うようになって城下町もあるけれど、穏やかな印象を受けました。別府市の近くにこんな町があるんだと。
空き家バンクの担当者から良い物件を教えてもらい即決。
そこで家を探し、別府に良さそうな一軒家で平家の物件があり、最初はそちらに住む予定でした。契約する直前に、たまたま登録していた日出町の空き家バンクの担当者から連絡が入りました。zoomでの移住相談を予約していたイケベさん。とはいえ、物件が決まりそうなので断ろうとしていたようですが、その担当者から新しく入った未公開物件情報となっていた現在の家の情報を聞いたのだとか。
イケベさん:担当者がイケベさんにオススメの物件があるんですと、情報を見せてくれました。日出町は家賃が比較的高い方ではある中、蔵を改修した小さな一軒家をかなり手頃な価格で貸してくれるとのことで、内見に。景色も良く、日も入って明るい家で、改修をせずにすぐ住める状態だったので、こっちに即決しちゃったんです。自宅で録音などをするのですが、それも問題なさそうな地域でした。
仕事は別府市で。バンド活動は由布市で。
音楽制作していた知識を活かしてデジタル関係の仕事に就いたイケベさん。日出町に仕事がないわけではなかったようですが、選択肢の多さと給料の価格の違いにより、別府市で仕事を見つけました。同時に現在バンド活動をしているイケベさん。こちらは由布市にあるスタジオで主に活動しているそうです。
車を持っていないイケベさんは、電車移動が主。現在の家から最寄駅までは徒歩で通勤しています。仕事は別府駅周辺なので、生活に関わる買い物などは家の最寄り駅だけでなく、別府駅周辺を活用できる点が便利だと言います。
イケベさん:私が暮らしている地域までがギリギリ車がなくても暮らせる範囲だと思います。同じ日出町で海沿いや山奥の地域は、コンビニやスーパーが少ないので、車が無い場合は暮らしにくいかもしれません。今の家は家賃の安さが魅力でしたが、交通費に1万円ほどかかるので、移動時間などを削減したい方はその分家賃に上乗せして別府市に暮らすのも良いかもしれません。私の場合は、現在の家の環境がやはり捨て難いので、結果としては不便は無いですね。
雑音から距離を置ける時間に余裕があることが心地よい
改修が要らず、静かで制作活動に集中できる現在の環境と家賃はもう他に無いだろうと思っているイケベさん。大家さんが良く話しかけてくれる方で、地域の行事がほぼなく、人間関係が穏やかなのがイケベさんにとってはとても心地よいのだとか。
イケベさん:雑音から距離を置けるのが良いですね。何か嫌な気持ちになっても、電車で帰る時間の中でゆっくり消化できる時間の余裕ができたなと。静かな環境の中で考え事ができるのはとても良いですね。状況をメタの視点で捉えられます。都市部で暮らしていると、今の歳でこんなことしていて良いのだろうかと、時々自分を見失いかけることもありました。今はそういったところから距離を置けるのが心地よいです。もう少し地域と関わり合って良いかとは思うこともありますが、今はこれで良いのだなと思っています。
心の余裕という点で良い環境を手に入れたイケベさん。あえてここは改善できると良いなということがあるか聞いたところ、エアコンの古さと蒸し暑い時に流れてくる近くの飼料工場の匂いくらいかなとのこと。
イケベさん:夏は暑くて冬は寒いのはどこも一緒です。別府市は蒸し暑く風が強い地域でしたが、こちらはそういったことが無いので、洗濯物が干しやすいなと感じます。
今後は子どもに関わる仕事をしていきたい
移住して2年が経つイケベさん。今後してみたいことをお聞きしたところ、現在は「保護司」に興味があり、資料を取り寄せたり学び直したりしているのだとか。横浜市で暮らしていた頃に関わっていた学習支援の仕事や家庭教師の仕事から、中高生の支援活動に興味があるのだそうです。
イケベさん:横浜在住の頃に、中高生と関わる支援活動を行っている団体に関わっていました。中高生は距離を取りたがってくる世代で、とにかく考えさせられることが多いんですよね。ここでの経験が制作活動の上での考え方のフレームに影響してくることはあると思います。
過去の経験を活かして、大分県内で学習支援の仕事を探したのですが、条件が合うところが無かったんです。そこで、保護司はあると知り、今その学び直しをしています。
現在のバンド活動では、なんと音楽経験のないメンバーで集まって制作を行っているというイケベさん。その理由は、枠にハマらないアイディアやそれに向かう衝動が面白いからだとか。この活動では、経験のない人たちと制作するとどうなるだろうと仮説立てて検証する実験的な時間が好きで、組み合わせの面白さやインプットの需要性など気づくことが多いのだとか。この状況は、学習支援の場でも同じことが言えるとイケベさんは語ります。
イケベさん:この子の課題はなんだろう。この言葉をかけたらどうなるだろうとか。この方法は正解だとしても、効果はない、とか。優しさってなんだろうとか。同じように葛藤する場面が多いのが面白みなのだと思います。
最後に
人との関係において、自分が心地よいと思える距離感に合わせて、暮らす町を変えたイケベさん。日出町に暮らしてまだ2年ですが、制作活動にとっても生活のリスタートにとっても良い環境がここにはあったようです。今後は同じ敷地内にある畑にチャレンジしたり、別の町に仲間と拠点を作ってみたいと語ったイケベさん。様々な面で葛藤はあれど、時間に余裕ができることで、心の余裕に繋がり、また新しい試みへと向かっていくことを楽しんでいるのだなと感じた取材でした。