大分移住手帖

湯治場の雰囲気が残る鉄輪に魅了され移住を決意。誰もが自分らしく生きていくために勧めたい「湯治」とは。

取材 : Kaori ライティング : Misaki

取材者情報

お名前
菅野静
出身地・前住所
大阪府
現住所
別府市鉄輪東
年齢
44歳
家族構成
本人+こども(5歳)+ときどき旦那(東京二拠点)+金魚
Facebook
https://www.facebook.com/kantoo1029

大阪府出身の菅野さんは新卒で広告代理店に入社し、上海支店で働いていたこともあるほど充実した会社員生活を送っていたそうです。そんな海外での生活がきっかけで温泉にハマり、現在は「湯治ぐらし」という名前のシェアハウスを営んでいます。温泉が大好きだという菅野さんが移住するに至った経緯や現在の生活について、お話を伺いました。

湯治ぐらし1

海外での生活をきっかけに温泉に大ハマり

大阪外国語大学に通っていた菅野さんは、同級生たちが留学する中、家庭の事情で断念したため、絶対に仕事で海外に行きたいという想いがあったそうです。温泉にハマるきっかけになったという海外での生活はどのようなものだったのでしょうか。

菅野さん:広告代理店へ入社後、出張でフロリダ・香港・インドネシア等に行ったり上海支店で勤務をしたりと、海外で仕事をすることができました。日本では当たり前に湯船に浸かっていたため上海市でも浴槽がある部屋を選んだのですが、給湯器が不十分だったため結局毎日シャワーのみでした。そんな環境だったのでお風呂や温泉のありがたみを強く感じ、帰国するたびに実家のお風呂や銭湯、温泉に入っていました。温泉の匂いやいつまでもポカポカしていること、肌がすべすべになることなどに気づき始め「温泉ってなんだろう」と考えるようになりました。

そのうち泉質・香り・色の違いなども気になるようになり、温泉ソムリエの勉強をして、泉質表を読んで実際の温泉で泉質や成分などの確認するようになりました。各温泉についてチェックしてから入ることで、温泉ごとの違いなどを肌で感じられる様になり、気付いたらマニアになっていましたね(笑)。温泉ソムリエは新潟生まれの資格で入浴に来られるお客様のため、正しい温泉の知識と正しい入浴法をお知らせしようという地域の方たちの働きかけがきっかけで作られたようです。

そして、大分県には温泉マイスターという資格があるのですが、知識の濃度が深くて素晴らしいんです。地質や熱、文化的な温泉、地理的な温泉、温泉が沸くメカニズム、大分県に特化したエリアによっての温泉の違いなども教えてくれるもので、移住してすぐに資格を取得しました。こういう資格の勉強をほぼ無料で受けることができる大分県は凄いですし、まるで「温泉留学」に来たようです。温泉についての授業があるだけでなく街の人も教えてくれますし、温泉の研究所もあって「さすがおんせん県おおいた!」って思いました。温泉マニアの方にはもっと大分県に来て欲しいですね。温泉好きで概要が知りたい方は温泉ソムリエの資格で十分ですが、より深く多角的に知りたい方は温泉マイスターの資格を取ると良いと思います。

湯治が必要な現代人

温泉にハマり、資格まで取得したという菅野さん。別府市へ移住する前はどのような生活を送っていたのでしょうか。

菅野さん:別府市に初めて来たのは2015年でした。大阪府にいた頃に1週間の休みを利用して九州に行く機会があり、湯布院町や宮崎県高千穂町、佐賀県嬉野市、福岡県などを訪れ、別府市には2泊しました。その際に別府八湯というものを知り、2泊の間に八湯を回りました。鉄輪はひょうたん温泉に行った程度で、その頃は特に移住したいとの思いはありませんでした。

その後、東京都にある地域創生の会社に転職しました。温泉にハマっていたので、加水した温泉や循環温泉ではなく源泉掛け流しの良い温泉に入りたくなっていて、平日に仕事を頑張って週末には東北に行くという生活を繰り返していました。東北に行くようになって湯治という言葉に出会ったのですが、昭和初期頃までは日本全国が湯治場で、東北や九州にはいまだに色濃く残っているんですよね。当時はお一人様プランも無く、週末だけなので旅費も高く女一人での旅行というだけで「よからぬことを考えているのでは」と思われ、ホテルや旅館での宿泊は大変でした。そこで色々調べているうちに湯治宿を知り、連絡してみたらすんなり泊まることができました。それがきっかけで「湯治宿良いかも!」と思うようになりました。

湯治は元来体を温泉で治すためのもので、とても上質な温泉が湧いているところが多いです。一方で、その体を治すという湯治の目的ではニーズが少なくなってきており、お宿もどんどん古くなってしまっています。私自身は体を治すためではなくリラックス目的で、忙しく働いて頭もパンパンになって「もう嫌!」と思っても、何も持たず身に付けずの状態で温泉に入ることで、デトックスして頭がクリアになるような体験をしました。自分の強みや弱みを振り返る場所で、自分の持っているものや心の中にあるものを見つめ直す良い時間になりました。こうした時間を持てないことが、あくせくしたり焦ったりしんどくなってしまう原因なのかもしれないと気付き、「心を洗う」「整理する」「自分の生き方を見直す」という時間や機会を温泉の中で持つことが大切だと感じました。バリバリの働き手や若い方々にも、そんな湯治を伝えていくことでニーズを復活させ、廃れつつある湯治を復興させることができるのでないかと感じました。

大阪府にいる頃に結婚しましたがなかなか子どもに恵まれず、またそれに対しても「まあいいか」程度に思い、不規則な仕事やプライベートの生活を見直したり振り返ることもしませんでした。ですが東京都に拠点を移して、東北旅行をしたいがために規則正しい生活や効率的な仕事の仕方をする様になり、生活が改善されたことによって子どもを授かることができました。きちんと測っていたわけではないので確実ではありませんが、定期的に温泉に通うことで体温も上がって栄養も心もが満ち足りたのではないかと思います。また、旅先では各地域の人が食べるような地元で親しまれる郷土料理を食べました。たとえば、山形の芋煮鍋や玉こんにゃく、宮城のずんだ餅や白石温麺(しろいしうーめん)などが食べたかったので、地元の人と仲良くなって温泉だけではなく地元の名店を知る旅にもなりました。産休に入るまでは東京都で働きながら温泉旅行にも行きました。主人が海外赴任をしていたのですが、日本で子育てをしたかったので、里帰り出産のために大阪府へ拠点を移しました。出産後も主人は海外赴任をしていたので産休・育休中は大阪府で過ごしましたが、育休明けから東京都に戻って仕事をしながら一人で子どもを育てる想像がつかず、周りの方に迷惑をかけてしまうと思ったので退職を決意しました。そして2018年11月に湯治旅で鉄輪を気に入り、3ヶ月後には家探しのために再訪、4ヶ月後には引っ越しが完了していました。

別府の湯煙

とにかく鉄輪は素晴らしい

鉄輪を訪れてからわずか4ヶ月で移住した菅野さん。頻繁に旅行していた東北や日本各地の温泉地ではなく、別府市鉄輪を選んだ理由は何だったのでしょうか。

菅野さん:鉄輪で湯治旅をしようと思い立ったきっかけは「西日本 湯治場」と調べたことで、鉄輪がヒットして出てきたことでした。頻繁に東北を訪れていたのですが、雪と暮らすイメージが湧きませんでしたし、鉄輪に出会うまで移住について全く考えていなかったので他の候補先を検討するというプロセスは特にしていません。

鉄輪を選んだ理由は沢山あり過ぎるのですが、大まかにあげるとしたら5つです。

1.女性経営者が多いこと

東京都で働いていた頃、様々な自治体の方と仕事をしましたが、他の地域で行われている街づくりは男性主導が多く、女性が中心で動いている印象はあまりありませんでした。しかし、鉄輪は女将さんが経営者の宿や女性主導のカフェや食堂が多く驚きました。鉄輪でなら女性が前に出て推進していけるという可能性を感じたんです。

2.親しみやすさを感じる

街を歩いていた際にたまたまおせったいというイベントが行われていて、お菓子を頂いて「なんだここは?」と思ったと同時に、大阪っぽさを感じました。また、言葉も大阪弁にも少し似ている部分があり、方言に親しみやすさを感じました。

3.湯煙と街の佇まい

30代後半で、都会のような便利で効率的だけどどこか冷たいような、コンクリートジャングルは私のリズムに合わないと気づきました。反対に鉄輪は木造建築が多く残っていて非効率で不便なことも多いけれど、そこにこそ温かみがあり、ヒューマンスケールなのが自分にぴったりだと感じました。都会に灯る白の電灯は自律神経をオンにさせる効果があるので、夜はオレンジの柔らかい灯りの方が良いと思っていて、鉄輪はその通りになっているんですよね。湯煙の揺らぎも街全体で人を癒す装置になっているような気がしますし、それら全てが昭和初期から脈々と続いてるのが凄いと思います。

4.「犬も歩けば棒に当たる」ほど温泉が多いこと

住んでいる側としても様々な温泉を楽しむことができるんですよね。鉄輪の蒸し湯を中心とした湯治街エリアは弱酸性の塩化物泉が湧いていますが、九州横断道路沿いのほうに行くと、アルカリ性の塩化物泉のために湯色が青くなっています。鉄輪からわずか車で10分の明礬温泉だと酸性泉や硫黄泉が湧いていて、また違う泉質がが楽しめたりと、自分の気持ちや肌に合わせて泉質の違いやロケーションで選べます。鬱々してるときは開放的な温泉に行き、「自分の中に篭りたい」「インナーフォーカスしたい」という時は穴蔵系の温泉に足を運びました。ずっと別府市の温泉ばかりだと慣れてしまうので、月1で湯布院町や竹田市などの温泉地にも行くのですが、遠くても1時間もあれば着くから凄いですよね。また、東京都から仕事で来た方に「5分で入ってこれるから行っといで!」と温泉を勧めたら「目がシャキッとして次の打ち合わせに臨める!」と驚いていました。他の地域では基本的に入浴料が高かったり近隣になかったりするので、仕事の合間にさっと温泉には浸かれませんからね。

5.さんふらわあがある

移住後も主人が海外赴任をしていたために、一人で子どもを抱えて肩肘張りながら生活をしていた中で女将さんから「甘えていいんで」と言われ、「甘えてこなかったんだ、自分一人でなんとかしようと思ってた」と気付かされました。この言葉を思い出すと今でも泣きそうになりますが「甘えて甘えられてでいいんだ」と思えるようになりました。本当に人間らしい会話と空気感、風景の広がる鉄輪は自分のスケールに合っていると感じます。移住前に周囲の方から「移住先に馴染んでいくのは難しいよ」と言われていたので多少不安はありましたが、さんふらわあがあるので「何かあれば帰れば良いや」と思えました。大阪府との繋がりを感じて安心材料になりました。飛び乗っても12時間はかかりますけどね(笑)。

また、別府市の湯治宿は独特で、家族経営だったり家に住みながら貸間として営業していて、いわゆるAirbnbカウチサーフィンの様な感覚の宿が多くあります。人に手間暇を掛ける、温度感のあるホスピタリティがあって、特に湯治街や鉄輪は、そんな「生活の中にお邪魔する」ような旅ができて、お客さんの様子や状態を伺いながら調節してくれる女将さんがいます。懐が半端なく深く、どんな人でも受け止めてくれると感じます。

すじ湯温泉の会員証(竹札)更新日に湯治ぐらしメンバーがお手伝い

当たり前の暮らしから始まったシェアハウス

鉄輪の魅力に引き込まれた菅野さんですが、まずは賃貸マンションを選んで住んでいたそうです。

菅野さん:鉄輪は好きですが地域性もあり、自分に合わなかった場合を考えて賃貸からスタートしました。すごく好きなすじ湯温泉から徒歩5分圏内の住まいを探すために、オンライン不動産情報や別府市に根ざした不動産会社、空き家バンクなどでも探しましたが、結局地元の方からのご紹介で知ったマンションに決めました。

また、その際に空き家バンクですじ湯温泉から徒歩3分の一戸建ての家を見つけ、関西の出身の方の別荘だったことや湯治のための家だったというストーリーに惹かれてそこも契約しました。温泉まで徒歩3分、スーパーは徒歩10分、別府市の山・海・湯煙の眺望がある部屋で即決でした。「もうひとつ借りてしまったけれど、一戸建てのおうちの家賃分だけ賄えるような事業を作ればいいか」程度の気持ちで決めてしまいましたね(笑)。そんな時、私が普段から温泉に浸かっているこの暮らしこそ鉄輪の当たり前の暮らしで、それは今の人たちにとても必要な暮らし方なのではないかとの気付きがありました。そこから「湯治+暮らし=湯治ぐらし」の構想が生まれ、若者たちに湯治を伝えるために「湯治ぐらし1」でシェアハウスを始めました。湯治ぐらしを立ち上げる際には「移住者向け空き家バンク補助金」「地域活力づくり総合補助金」を利用しました。

私が伝えたいのは湯治という意味通り体を治すことではなく「心を洗う」「活力になるための栄養剤」としての温泉の使い方で、それをこの家がシェアハウスという形で出来ると教えてくれました。APU(立命館アジア太平洋大学)が近くにあり、留学生が多く、海外で活躍できる人材育成に力を入れている学校だと聞いていたのでシェアハウスという文化もすんなり馴染むのではと思いました。「地域作りが好き」「温泉が好き」「興味がある」という方に住んでもらい、鉄輪の魅力や心を洗う湯治について一緒に発信したいと考えていて、現在は3つのシェアハウスを営んでいます。

大分県ならではの働き方といえるか分かりませんが、鉄輪では徒歩3分で入れる温泉があるので、就業チャイム代わりに朝風呂に入ってから仕事を始めたり、頭がパンパンになる業務や汗をかく作業の後にコーヒー休憩代わりに入浴したり、終業後に温泉に入って帰るなど気軽に温泉を活用しています(笑)。 

別府にある3つの大学・短大を横断する「温泉インカレ」も立ち上げ、鉄輪の誇る「すじ湯温泉」の掃除体験もしてみました

湯治ぐらしについて

自身の住まいとは別の家に惹かれて契約し、「湯治ぐらし1」を始めた菅野さん。「湯治ぐらし」とはどのようなシェアハウスなのか伺いました。

菅野さん:湯治ぐらしは単なるシェアハウスではなく、鉄輪での暮らしをもとに、やりたいこと・叶えたいことを湯治や温泉と掛け算できる可能性を探っていくプロジェクト型のシェアハウスです。2019年3月に移住し、10月に個人事業主として起業しました。サラリーマンと個人のやりたいことを形にする積み上げ式とでは収入が全く異なるものの、生活費は確保していたのでチャレンジしてみようという気持ちで立ち上げました。

湯治ぐらし1」を始めた頃、鉄輪は高齢者が多く若い人が住まないのが通説で、「学生は絶対来ない」と言われていました。私は鉄輪が好きですし、とても良い地域なので住んでみたら自ずと良さが伝わると思い「シェアハウスをやろうと言ってくれる家があるから私はやるんだ!」というスタンスで臨みました。APUには故郷を離れて訪れる学生が多く、祖父母との暮らしや実家を懐かしむような学生が来てくれ、1年目で満室になりました。1には温泉が無いため周辺の共同温泉に行ってもらってたのですが、学生たちは夜が遅いこともあり「夜でも入浴したい」と話していました。新たにシェアハウスを増やすために温泉付きの家を探していた時、シェアハウス裏にある温泉付きの家が空き家になったので「湯治ぐらし2」として契約しました。徒歩1分圏内なので1にみんなで集まって食事をし、2の温泉をみんなで使用するというように、2つを合わせて女子寮みたいなシェアハウスにしました。

1、2はあまり部屋数がないので、ある程度部屋数のある温泉付きの家を探していましたが、見つけても古くてリノベーションにお金がかかる家ばかりでした。空き家になっている所はたいてい高齢の方のお家であることが多く、リノベーションをしていただくにもリスクを負ってもらわなければいけません。また、現在の家賃だとオーナーさんに改装してもらうには足りないことなど、様々な勉強になりました。「自分がその家を購入し、オーナーとしてリスクを負えば良いのではないか」と考え、採算が合う事業計画を立てて予算内の家を探していたところで、元々保養所だった空き家に出会いました。保養所という言葉も好きで、だんだん無くなっているけれど語り継いでいきたい文化なんですよね。その家には温泉が2つもあり、広さもあるので購入を決めました。今はそこを「湯治ぐらし3」としてオープンし、稼働しています。

シェアハウスに住んでいる方はどんな方がいるのでしょうか。

菅野さん:「湯治ぐらし」をオープンした当初の入居者は学生ばかりだったのですが、現在では女性が7割近くて、社会人は4割まで増えました。大学生、大学院生、社会人、二拠点居住者、移住希望者、リモートワーカー、テレワーカー、ワーケーション利用の方など様々な属性の方が入居しています。留学前後の半年だけ住みたい、移住先と馴染めるかどうか確認するためのステップとして数ヶ月住みたい、リタイヤしたので数ヶ月湯治ライフをしてみたい、家族の別府市移住を機に別世帯として住みたいなど住み方も、年代も、本当に多種多様です。企業の福利厚生や別府オフィスとして年間契約してもらっている部屋もあります。

草むしりをした後に、入居メンバーと広い庭でBBQ

シェアハウスにはどんな方に住んでいただきたいですか?

菅野さん:「鉄輪が好き!」と言ってくれる方や湯治の暮らしを楽しみたい方、湯治温泉を活用して自分らしくありたいと願う方、自己実現を目指す方に住んでいただきたいです。私としては、温泉×別分野の掛け算をたくさん引き起こしていきたいので、そんなことをしたい方はぜひ一緒に暮らしましょう!1ヶ月からの入居を受付していますが、長ければ長いほど地域との関係構築ができると思っているので長めに検討していただきたいですね(笑)。

先日、問い合わせのあった属性と実際に入居した属性を分析してみたのですが、移住者の比率や年齢層も高くなっていました。20代の社会人をメインターゲットとしていましたが、移住したい方が86%、実際は30〜50代が多いです。仕事を持って来れる人、もしくは辞める人でないとなかなか移住には至らないので、移住促進のためにも仕事のケアもいずれできたらと思っています。最近の入居問い合わせの理由としては、湯治に興味があるというのが圧倒的で、地方創生に興味があったり、私の伝えていきたいことが伝わってる人が約半数だなと思いますので、徐々に改革をしてきた成果が出てきたかなと感じています。

また、温泉の学会は医学や気候、療養的な観点から観る日本温泉気候物理医学会、文化的、歴史的観点から観る日本温泉地域学会、テクノロジーやITなど科学的観点から観る日本温泉科学会の3つがあります。その総会が3年立て続けに別府市や大分県内で行われ、講演を行いました。

シェアハウス×湯治の掛け算をしたのは、湯治ぐらしがおそらく全国で初めてだと思うのですが、実は先人がずっと紡いできた文化なんですよね。そもそも湯治は長く”暮らすように”温泉を活用してきた文化です。湯治宿の一室を改装して暮らしてしまうような事例も知っています。新型コロナウイルス感染の流行直後は海外にいた日本人が帰国してきましたが、日本での家がないため湯治宿に住んでる人が多くいました。あの時は、湯治宿で暮らしながら夜中にオンラインでグローバルに仕事しているような方と軒並み仲良くなりましたね(笑)。

シェアハウスをやっていて良かったと思うことは?

菅野さん:湯治ぐらしは、温泉を活用して生き生きと自分らしく暮らすライフスタイルを目指しています。そんな風に日々の生活を楽しんでいたり、自己実現に向けて頑張る姿、単なる住まいとしてだけでなく湯治ぐらしを生かしながらステップアップをしたり、幅広い人脈を構築していっておられる姿を見ると「ああ、こういう場を開いて、やっていて良かったな」と思います。

私は、温泉はただ体を洗う場所ではなく、心を取り出して洗えたり自分らしくいられるための思考の時間を与えてくれたりする場所だと考えています。その温泉の傍にいて、自分があるがまま生きることができるように応援していきたいです。

湯治ぐらしのある1室

優しくて温かい人に囲まれて

地域の方やシェアハウスの入居者との関係性をとても大事にしている菅野さんですが、移住してから子育て環境や生活面などで感じたことについて伺いました。

菅野さん:子育て環境は申し分なく、移住前に市役所で保育園の待機児童もいないからすぐ入れると当時聞きました。3月までに住民票の住所が市内にないと4月から入園できないとのことだったので、3月のうちに移住しました。早ければ早いほど締め切りなどに間に合うので、希望の園がある場合は急いだ方がいいと思います。私は特に地の利がなく、希望する園がなかったので保育園は今の場所しか知りませんが、先生たちが素晴らしく、また地域と一緒に子育ての環境を整えてくれていてとても良い園だと感じています。小・中学校までは私立もあるので心配していませんが、高校以降の教育は検討中です。そして、鉄輪は「かんなわ蒸し通りずむ」というイベントが6月毎年行われていたり、別府駅前で行われる別府八湯温泉祭り(ぶっかけ祭り)とは違う神事としての「鉄輪温泉祭り」や「スケッチ大会」「おせったい」というイベント、自治会の運動会などもあります。一遍上人と温泉に感謝し、子どもたちが御神輿を担ぐ湯あみ祭には、うちの子も参加しました。 

また、医療面も全く問題はなく、クリニックが多くて国立病院や大学病院もあるのでバックアップ体制が取れていますし、生活面でも地域の方々に助けていただいています。育児ばかりに目を向けていたら鬱々してしまいますが、周囲の方は私が基本的に一人で子育てしてることを知っているので、そっと一人で落ち着ける時間を作ってくれます。湯治ぐらしメンバーも子供と遊んでくれたりして、とっても助かっています。

公園も生活用品や子ども用品の揃うお店も近いですし、子どもと鉄輪地獄地帯公園で遊びまわって汗だくになったら温泉に浸かるなど、何もかもが近いというのが利点です。おひさまパークのような子育て支援施設も各地にあり、素晴らしい図書館もありますね。ガソリン代が高いのは痛いですが、格安のガソリンスタンドをやっと見つけました(笑)。そして、さすが豊後というだけあって海の幸・山の幸ともに豊かで新鮮で安全です。黄砂が少し気になるのと、スギ花粉が多めなのは欠点ですが、街中どこにでもある温泉ですぐに洗い流し倒しています(笑)。

自治会は参加自由で、私の入っている自治会の会長も移住者でどんな相手にも優しく、様々な方と繋いでくれます。シェアハウスオープン時も自治会で植栽をプレゼントしてくれたり、困ったらすぐに相談できる雰囲気を作ってくださる方で大変感謝しています。子育て中でなかなか会合などに参加できていませんが、強制ではないので私にできることはできるだけ手伝うようにしています。自治会活動が面倒だとは思いませんし、逆に草刈りしながら地域のことなど色々聞けるチャンスで他愛の無い話ができる良い時間です。老人会に入ると畑を借りられるそうで、入居者に畑仕事をしたいという人がいたので最年少老人として老人会にも入りました(笑)。大学生と80代が一緒に畑作業をする良い機会になっていますね。

そして、別府市全体がアートに力を入れているので芸術に触れる機会が多く、別府ブルーバード劇場の存在も素晴らしいです。ただ、大型の展示会や美術、コンサートなどはあまり大分県に来ないので、他県に行かないといけないのは残念だなと思います。

鉄輪の生活に不自由は感じていないそうですが、大変だったことなどはなかったのでしょうか。

菅野さん:よく聞かれるのですが、大変に感じたことは本当にないんですよね。私がポジティブ思考で鈍感なだけなのかもしれませんが(笑)。日本語が通じますし、行政サービスにも不満なく、ご近所さんもしっかりコミュニケーションを取ることでサポートしてくれるので言うことなしです。

温泉の配管掃除をしている組合長がいるのですが、地下を通る温泉配管を取り出して掃除している姿がまるで外科手術をしてるみたいで「写真撮っていいですか!?」「何が面白いんかえ」みたいなやりとりもしました(笑)。温泉の配管掃除は本当に大変ですが、人知れずこうして対応してくれる人がいるから温泉に浸かれているので、本当に感謝しかないですね。「こういう対応をしてくれる人がいる」「温泉はただ蛇口をひねれば出るものではない」ということを伝えていきたいですし、温泉は自然の恵みであり、人の手を介した努力があってこそ私たちが享受できるものなのだと感動しました。また、困ったら助けてくれますし、正直でいられてみんな温泉で会えるので裸を知ってるというのは強いと思います(笑)。甘えて良いし、着飾る必要がなくあるがままで良い、嘘をつかないしついてもバレますからね(笑)。

住みながら距離感を掴んでいく感じで、それでも自分らしく素直でいられます。鉄輪が好きすぎて知りたいからこそ、行きすぎて大阪ならではの土足で踏み込むような距離の取り方をしてしまったこともありました。みんな人間なので、地域に対して尊敬の念があり、礼儀を尽くせばどこの地域でもお互いに理解ができるものと思いますし、地域の前例にはなくても熱意で人の心を動かすこともあるんだと感じています。

湯治を伝えるため「温泉ワーケーション」を企画実施した時の風景

移住希望者へアドバイス

鉄輪での湯治ぐらしを満喫している菅野さん。今後も様々な取り組みを行っていくそうです。

菅野さん:入居者向けではありますが、月1で腸美活・ヨガ・バランスボールのイベントを開催しています(※参加者が少ない際は一般参加も可能)。また、2026年にはより多世代が住めるように「湯治ぐらし4」開業へ向けて計画中です。「働くところがない」という意見が多いので、仕事も提供できるように自分も法人を創設しました。そして、現在は湯治ぐらし株式会社のプロジェクトマネージャーを募集中です!!「夢を一緒に実現してくれる」「温泉でなにかやりたい」「進行管理などができる」そんな方はぜひ一緒に働いてみませんか?

そんな菅野さんから、大分県や別府市への移住を考えている方に向けてアドバイスをいただきました。

菅野さん:移住することに対して高いハードルを感じている方も多いと聞いていますが、私は全くハードルを感じずに「ここに住みたい!」という気持ちを大切にして即決しました。しっかりした事業計画があれば開業資金が少なくても銀行さんが相談に乗ってくれたり、伴走してくれたりするので大丈夫です。私は入居者が5人確定していた状態で銀行に相談を持っていけたので、資金ゼロでもすぐに貸していただけました。観光業が盛んな別府市でならなんとか食いつなぐことはできると思いますし、保育園も待機児童がいないからすぐ預けられます。私の場合は気候や普段の導線確認、実家とのアクセスも考えた結果、即決だったわけですが、決断するための「優先したい自分軸」を明確にしておけば、割とすぐ決断できるのではないかと思います。

また、目先の助成金や補助金よりも、生活イメージと仕事イメージが着く場所へ実際行ってみて「自分の肌に馴染むかどうか」の視点で選ぶことが大切だと思いました。実際に来てみないと分からないことがたくさんあります。自分の人生なので、自分で感じて、自分で決めて、自分で責任を持っていければ良いと思います。

ぜひ湯治ぐらしもお試し移住にも活用していただければと思います。素晴らしい別府市の生活をぜひご一緒しましょう!

湯治ぐらしで月1回行っている「腸美活レッスン」

最後に

鉄輪の人々や街並みに魅了され、地域や温泉の素晴らしさを伝え続けている菅野さん。鉄輪が好きだという信念や周囲の人への尊敬の念が伝わるからこそ、彼女の周りには温かい人が集まるのだと感じました。別府市へ移住を考えている方だけでなく、どの地域にするのかは決まっていないけれど移住を考えている方も、菅野さんの営む湯治ぐらしを利用して別府市での暮らしを体験してみてはいかがでしょうか。

WRITER 記事を書いた人

取材 : Kaori ライティング : Misaki

取材 : くろき かおり
豊後大野生まれ豊後大野育ち。高校卒業後は横浜・東京にて、外資コスメ会社で経営学・マネジメントを学ぶ。その後、石垣島・オーストラリアへの移住。オーストラリアでも同ブランドで勤務したのち、2019年に大分へUターン。現在はフリーランス。趣味は映画を見ること・旅行・サウナ。

ライティング : あべ みさき
東京生まれ大分育ちで、趣味は手芸。介護福祉士として働き、長男出産を機に退職。現在は、子育てをしながら在宅でライターとして働いている。

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