大分移住手帖

竹田の小さな城下町内にシェアハウスを二軒も?オーナーが込めた想いとは。

Hiiro Okuda

竹田市の城下町内でシェアハウスを二軒運営する市原史帆さん。史帆さんは、夫の正さんと3人の娘さんの5人で、2019年に創立した一軒目のシェアハウス「暮らす実験室IKI」で日々を過ごしています。

2022年には、もう一軒のシェアハウス「暮らす実験室SIKA」をオープン。小さな城下町内になぜ二軒もシェアハウスを運営することになったのか、その想いをお聞きすると、「暮らし始める人」と「暮らす人」のどちらとも嬉しくて優しい気持ちになる仕掛けがいくつも見えてきました。

今回はシェアハウスSIKAについてや、二軒目のオープンに至った想いを伺ってきました。

 

暮らす実験室IKIはどんなところ?

暮らす実験室IKIは竹田市の城下町にある、シェアハウスを含む多機能空間です。史帆さんたち家族に加えて、5人の住人と暮らしを共にしていて、一つの建物の中に、シェアハウス、イベントスペース、ゲストルームがあります。

 

史帆:イベントスペースでは、定期的にご飯屋さんがオープンしていたり、月に1回、「ぐるずぶ市」というマルシェも開催されています。そこには、竹田やその周辺の、想いの込もった商品や人が集まります。とにかくイベントがたくさんあって、人も流動的で刺激的な場所です。

暮らす実験室IKIでのイベントの様子

 

シェアハウスのおもしろさ

兵庫県神戸市のご出身で、結婚してからも東京都や大阪府など、都会での暮らしが長かった史帆さん。竹田市に来て暮らす実験室IKIで暮らすまで、核家族が当たり前だと思っていたそうです。ですが、実際に他の人たちや他の家族と暮らしてみたところ、その生活にハマってしまったそうです。

 

史帆:一緒に暮らすって、食卓を共にするだけでなく、物や生活、多くのものを共有します。家族を拡大させると、暮らしの可能性がぐんと広がるんです。多様な価値観に触れられるし、それこそ、おもしろい遊びのアイディアがぽんと出てきたり。子育てもみんなでするので、私たち大人の心の余裕にも繋がるし、子どもたちにとっても刺激的。いろんな大人の目があることはとても良いことだと感じています。

住人や友人、ボランティアスタッフが集まった賑やかな夕飯

 

シェアハウスをもう一軒?SIKAを作った経緯

元々、シェアハウスを二軒も運営するつもりはなかったと話す史帆さん。当初の予定とは少し違った形で想いが膨らみ、実現に至ったそうです。

 

史帆:城下町に二軒もシェアハウスのニーズがあるとは思えなかったので、物件を見つけた当時は、ぼんやりと「子育て世帯向けの賃貸物件」ができたらいいなと考えていたんです。それこそ田舎あるあるなのですが、空き家は多いのにすぐに住める家がない。せっかく竹田を気に入ってくれる人がいても、子育てをしながら、新しい仕事を探しつつ、自分たちの家のリノベーションもやるとなると、生活どころではなくなってしまって、竹田で暮らすという選択肢を諦めることになってしまう。

 

でも、ふと「この城下町に住んでいるのが1,000人。もし、IKIとSIKAの部屋が満室になったら20人増える。ということは2%増えるってこと!?おもしろい!」と思ってしまったんです(笑)。

そこから、元々歯科医だった空き物件を1年半かけてセルフリノベーションし、身の回りの物だけ持ってくればすぐに住める環境をつくりました。「こんな田舎暮らしをしてみたいな」がすぐに叶うように。

暮らす実験室SIKAをリノベーションする様子

 

暮らす人たちのことを想って

日々の生活の中でのセルフリノベーション。不慣れな部分もあり、思うようにいかないことも多かったそうです。でも、ここで暮らす人のことを想うと、やはりこだわりたかったと話します。

 

史帆:IKIが「多くの出会いで自分の可能性を広げる場」だとしたら、SIKAは「自分に還る場所」だと思っています。元々SIKAは歯科医で、診療所と一緒に自宅があった物件。IKIで集まったり、イベントに参加してたくさんの人たちとわいわいしたりした後、ふと一人の時間を持った時、「自分の考えはこうなのかな」と、自分に想いを巡らせられるような、そんな空間づくりができればと思って部屋の内装にはこだわりました。

 

その土地の営みと風土を感じられるように。どこかに新しく暮らし始めることの醍醐味ってそういうところにあると思うので、この家にあったものをなるべく捨てずに上手に生かしました。元々使われていた柱やフローリングの木は、キッチンや廊下など、新しい形でいろんな場所に取り入れて、今でも生活を見守ってもらっています。家具や食器も、古い物を買ったりもらったものを使ったり。手触り感というか、効率よりもあったかいものを生かしたいという思いがありました。

古い板や家具であしらわれた部屋

 

もっと誰かと一緒に暮らす楽しさを

2階のリビングは住人だけでなく様々な人が集う共有スペースということもあり、特に想いを込めて設計したそうです。

 

史帆:2階のキッチンはみんなで一緒に料理ができるような設計にしました。作業スペースは向かい合う形で2つずつ作って、料理の時間が重なってもストレスのないように。みんなでわいわいおしゃべりしながら料理をする時間があったらいいな、なんて想像しながら作りました。

 

リビングは、それぞれの机を離して、且つ動かせるように配置しています。リビングって慣れた空間だからこそ、自分の好みの空間に作り変えられるようにしたくて。お互い顔を合わせておしゃべりする時間はもちろん、一緒にいるけれど別の机で別のことをしている時間も欲しい。

 

一緒に暮らすって面倒臭いことも多いと思うんです。それでも人と暮らしてみたい。多くの人が一緒に過ごす空間だからこそ、暮らしている人たちが縛られず、自由で心地よい選択ができるような仕組みがあればいいなと思って作りました。

こだわりのキッチン&リビング

 

ただのシェアハウスじゃない!程よく刺激のある暮らし

SIKAには、住まいのサブスクができるサービス「ADDress」に登録している人が、利用できる部屋も一室あるそう。ADDressの部屋があることの良さ、おもしろさってどういうところにあるのでしょうか。

 

史帆:ADDressは、多拠点生活をしている人や、お試し移住を考えている人など、様々な目的に合わせて、自分の好きな地域や町に滞在できるサービスで、SIKAにもこれまでにいろんな人が訪れています。

 

ADDress用の部屋をシェアハウス内に一室作ることで、SIKAでの暮らしに流動性を持たせることができるし、何よりいろんな地域を巡ってたくさんの出会いを経てきた人たちが訪れるので、日常に少し刺激が加わるんですよね。一緒に食卓を囲んだり一緒に温泉に行ったり。

 

中には何度も訪れて、IKI、SIKA両方での交流を楽しんでくれるユーザーもいるくらい。私たちオーナーもSIKAの住人も、次はどんな人が来てくれるのかなといつも楽しみにしています。ADDress部屋があることで、竹田をいろんな人たちに知ってもらうきっかけにもなっていて、逆にADDressで訪れた人から、「竹田にこんないい場所があったよ」と竹田の魅力を教えてもらえたりもして、住んでいる人、訪れる人の双方にとってとてもいい刺激になっています。

ADDressの方との交流の時間

 

IKIとSIKAのちょうど良い関係性

IKIとSIKAは歩いて5分ほどで気軽に行き来できる距離にあるのだそうです。年齢も出身地も職種も違う住人たちが暮らす二軒のシェアハウスの日々の交流について伺いました。

 

史帆:「住みます」だけで終わらないのが、ここでの暮らしの特徴であり、良さであると感じています。暮らし始めてからも、IKIとSIKA、お互いの暮らしを共に作っているような感覚があるんです。週に1、2回くらいは、SIKAの住人がフラッとIKIを訪れて夜ご飯を一緒に食べたり、誰かがお誕生日の時は、IKI、SIKAの合同でお誕生日会を開催したり、晴れた日の週末は、何台か車を出して一緒にお出かけして季節を楽しんだり。

 

前にIKIに滞在していた人や、IKIにボランティアスタッフとして滞在している人たちと一緒になって稲刈りをしたり、餅つきをしたり、とにかくいろんな人たちと、いろんな日常、いろんなイベントに参加しています。けれど、これも全員ではなくて、参加したい人が参加したい時にできる範囲で。

IKI、SIKAの住人や友人たちとサイクリングへ

 

気に入ったらそのまま住めちゃう気軽さ

「お試しで暮らせること」が、竹田を訪れた人の移住の後押しになっていると語ってくれた史帆さん。一般的なお試し移住とどんなふうに違うのか、とても興味深いですね。

 

史帆:お試し移住の一般的な流れって、その地域のゲストハウスや、県や市の施設を利用しながら、新しい仕事を探して、物件も探して…という感じかなと思うのですが、IKI、SIKAでは少し違っていて。ボランティアスタッフ制度や、ADDressを利用して、実際に暮らしつつ、気に入ったらそのまま住めちゃう。

 

いろんな人たちと繋がって、一緒に食卓を囲んだり、農作業をしたり、イベントを楽しんだり。ここでの暮らしを、ここで暮らす人たちと共に体感しながらお試し移住ができるので、とてもリアルな形で「自分がもし、ここに住んだら」を知ることができるのは大きいと思うんです。最大1ヶ月間滞在できて、短期もOK。身の回りのものさえ持ってくれば、すぐにでも住み始められちゃう気軽さは、他の移住にはなかなかない魅力だと思います。「ここでの暮らし方のサンプル」、「いろんな生き方のサンプル」がたくさんあります。

2階の部屋。すぐに生活がはじめられるように整えられている

 

住人にSIKAの魅力を聞いてみた

実際にSIKAで暮らす人はどんなことを感じて、日々暮らしているのでしょうか。SIKAでの暮らしの魅力について聞いてみました。

友田:元々、ボランティアスタッフとして初めて竹田に来て、IKIを訪れました。リノベーションが終わった部屋をひと目見た時、まさに理想の部屋だなと感じたんです。部屋に使われている木の温もり、日当たり、部屋から見える景色、静かさ。空間に惚れてしまいましたね。

SIKAでの暮らしは、ひとことで言うと「最高」です(笑)。竹田の町の雰囲気や、オーナーの市原家が作り出す空間が心地よくて。いろんな人たちとの出会いがあって、とても刺激的。でも安心感もちゃんとあるのが魅力です。

SIKAの住人、友田さん

 

石橋:僕はADDressでの滞在がきっかけで竹田を訪れました。元々、移住先の検討も視野に入れながらの旅だったのですが、竹田は本当に人が良かったです。いろんなシェアハウスに滞在した経験もあるのですが、場所によってはとても閉鎖的だったり、逆にわいわいしすぎていたりで、なかなか暮らすイメージを持ちにくい所も多くて。

SIKAは、みんながやりたいこと、好きなことを持っていて、楽しい中にちゃんと落ち着きもあって。それぞれが、それぞれの生活を優先させている雰囲気があるのが、とても居心地が良かったんです。

好きな場所はリビングです。オープンで、全体を見渡せる設計になっているから、みんなの顔を見て話せるのが気に入っています。

SIKAの住人、石橋さんが友田さんに撮ってもらった写真

 

大好きな竹田の町で、まだまだ叶えたいこと

インタビューをしていると、「竹田の町がこんなふうになればいいな」というおもしろいアイディアをたくさんお話ししてくれる史帆さん。史帆さんがこれから叶えたいことや、今後の展望について聞いてみました。

 

史帆:次こそは、子育て世帯向けの物件を作りたいです!(笑)。すぐ近くで子育てを支え合える生活って、やっぱりとても心強いと思うんです。気持ちだけ寄り添うんじゃなくて、物理的な近さでの支えがあるって、本当に安心する。

 

子育てってすごく楽しいけれど、楽しいことだけじゃない。わからないこと、不安になること、余裕がないと実現が難しいことなど、挙げ出したらキリがないほど、毎日いろんなことが常に起こる。でも、もしすぐ近くに同じように話ができる人や場所が複数あったら。コミュニティーというか、支え合える小さなゆるい村みたいなものが、少しずつでも広がっていくことの、きっかけを作っていければと思っています。そういう場所があると、私自身も楽しいので!

たくさんの家族で夜のお散歩

 

最後に

憧れの田舎暮らしを、わくわくした気持ちそのままに、ポンと行動に移せてしまう。この気軽さは、他の移住先にはなかなかない魅力かもしれません。新しい暮らしをただ知るだけではなく、ここで暮らす人、訪れる人たちと出会えて遊べる。想いのたくさん込もった温かい家も迎えてくれる。竹田市の城下町での暮らしをリアルに体感しながら移住が決められるのは、とても自然な流れで、とても安心できるなと感じました。史帆さんの次の展望、次のアイディアが楽しみになってしまうインタビューでした。

WRITER 記事を書いた人

Hiiro Okuda

大阪生まれ、大阪育ち。アパレル、動物看護師、服飾系専門学校の担任&学科運営、東京での音楽活動など様々な経歴あり。旅先での人との出会い、交流が好き。移住先探しも兼ねて九州を周りはじめ、最初の目的地だった竹田を気に入り移住を決意。大分の自然と食、温泉、人のあたたかさがとても気に入っている。

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