大分移住手帖

池田佳乃子(いけだ かのこ)さん

湯治文化を多くの人に伝えたい!別府市と東京都での2拠点生活

取材 : Kaori ライティング : Misaki

取材者情報

お名前
池田佳乃子(いけだ かのこ)
出身地・前住所
東京都
現住所
大分県別府市・東京都の2拠点
年齢
30代

別府市出身で、東京都の大学を卒業後は都内の映画会社や広告代理店でキャリアを磨いた池田さん。現在は東京都と大分県の2拠点で生活しています。そんな池田さんに、2拠点生活を始めることになったきっかけや、現在の暮らしについて伺いました。

高円寺にて池田さん夫婦が営んでいる建設設計事務所兼植物屋

高円寺にて池田さん夫婦が営んでいる建設設計事務所兼植物屋

開発途上国や地方に関わる仕事がしたい

別府市に移住する前はどのような生活を送り、何がきっかけで2拠点生活を始めたのでしょうか。

池田さん:結婚を機に建築家の夫と東京で建設設計事務所兼雑貨と植物を販売するお店を始めました。私は広告代理店で働きながらだったので、趣味の延長のようなお店で、徐々に植物が増えていき現在は植物だけになりました。自宅のリビングをお店にすることで近所の子どもがふらっと遊びに来れる、公民館みたいな空間にしています。

広告代理店では開発途上国で活躍している方に密着したドキュメンタリー番組を作ったり、地域のふるさと納税のマーケティング戦略を担当したりするなど、開発途上国や地方に関わる仕事をしていました。南米で活動している男性を取材した際に、試行錯誤を繰り返しながら、その土地のことを思って真摯に仕事をしている姿に刺激を受け、自分ももっと地域に関わる仕事がしたいと思うようになりました。

まずは情報収集をしようと、「ソトコト「TURNS(ターンズ)」など地域系雑誌を読んでいたところ、夫からの「せっかく自分の故郷があるんだし、まずはそこで何か始めてみたら?」という一言もあり、別府市であれば実家に住めるから何かを始めるのにちょうどいいと思ったんです。結婚して半年だし夫は建築家でどこでも働けるから、一緒に移住するのかなと思っていたら私だけだったので、東京と別府で行き来すればいいのかと考えて2018年から2拠点生活を始めました(笑)。

現在は2拠点生活7年目を迎え、別府市と東京都で半月ずつ過ごしています。始めた当初は「2拠点生活」という言葉をあまり聞かなかったのですが、コロナ禍でそういったライフスタイルを送る人も増えてきて、私自身も取材されることが増えました。

パラグアイの首都アスンシオンを訪れた時の1枚

パラグアイの首都アスンシオンを訪れた時の1枚

鉄輪温泉(かんなわおんせん)の湯治場を地元の人と一緒に盛り上げたい

2018年には別府市にある湯治場「鉄輪温泉(かんなわおんせん)」でプランナーとして活動を始めた池田さんは、どのようなお仕事をしているのでしょうか。

池田さん:元々マーケティングの仕事をしていたので、移住当初は別府市で事業を行っている方のマーケティング支援などを行いました。別府市で生活するようになってから、鉄輪温泉は日本の中でも数少ない湯治文化が根付いている街だということを知りました。けれど、湯治宿は年々減り、その文化についても知らない人が多くいると感じました。湯治とは、古くから日本に伝わる療養法で、湯治宿に長期滞在をして温泉の効能によって体調を整え、病気治療や療養を行うことです。湯治場は、秋田県の玉川温泉や群馬県の草津温泉など全国各地にありますが、その中でも鉄輪温泉は地元の人たちが湯治文化を盛り上げようと活動していて、私もその活動に関わっていきたいと思いました。

そこで、2018年6月に地元の女将さんや不動産の専門家、起業家、大学生など様々なキャリアの人たちを誘い「鉄輪妄想会議」というワークショップを主催し、意見を出し合って温泉入り放題のコワーキングスペースを立ち上げることになりました。当時の別府市はまだコワーキングスペースも少なく、ほとんど知られていない状態だったので、そこからは記憶がないくらいの怒涛の日々を過ごしていましたね。長期滞在型の湯治宿が多いため、働けるスペースがあったら仕事をしている人でも滞在しやすいのではないかと思い企画しました。

そこから3年ほど鉄輪温泉での場づくりを進めていく中で、もっと”湯治文化の魅力”を世界中に広めたいという思いが強くなり、2021年にHAA(ハー)というブランドを立ち上げました。HAAの商品に湯治文化の話や鉄輪温泉の紹介を記載したパンフレット添え、HAAを通じて湯治文化や鉄輪温泉を知り、訪れるきっかけになればと思っています。

一つずつ、エッセイの書かれた紙で包まれた「HAA for bath 日々(入浴剤)」

一つずつ、エッセイの書かれた紙で包まれた「HAA for bath 日々(入浴剤)」

移動に車は必要不可欠

別府市にいる間は、鉄輪温泉のシェアハウスに住んでいるという池田さん。2拠点生活の中で、東京都と別府市の暮らしのギャップはあるのでしょうか。

池田さん:交通の便は明らかに違いますね。元々、大分県に戻ってくるつもりがなかったので車の免許を持っていませんでした。鉄輪温泉は観光地だからバスの本数が多いですが、移住当初に住んでいた実家は普通の住宅街にあるので本数が少なくてタクシーを利用する頻度が多くなり移動コストがかかりすぎました。東京都と同じ感覚で別府市に住んでいると、移動時間の組み立てが大変で、電車に関しても別府〜大分間で本数が少ないことに驚きましたし、とにかく移動が不便でしたね。

運良く母が乗っていた車を貰えることになり、別府市生活5年目にして一念発起し免許取得しました。何をするにも便利で行動範囲が広がり、色々な温泉にすぐ行けて翼をもらえた気になりましたね(笑)。

鉄輪温泉の様子

鉄輪温泉の様子

免許を取得してから、大分県内の温泉によく足を運んでいるとのことですが、元々温泉が好きなのでしょうか?

池田さん:特別好きなわけではなかったのですが、温泉名人である母から実家に帰るたびに泉質や温泉の話を聞いていました。泉質の種類が豊富で温泉によって違いがあるのが別府市の面白いところだと母から聞き、色々な温泉に通うようになりました。東京都に住んでいる時はたまに銭湯に行くくらいでした。今では、世界中の温泉に入りに行くほど、温泉オタクになりましたね(笑)。

アメリカの温泉に入っている池田さん(左)

アメリカの温泉に入っている池田さん(左)

インスピレーションを受ける別府市での暮らし

東京都と別府市で2拠点生活をしている池田さんですが、今後、別府市だけに住むことはあるのでしょうか。

池田さん:別府市だけで生活することはないですね。私の性格的に、ずっと別府市にいると時間の流れがゆっくりで余白が多くなってしまい、温かいお湯にずっと浸かっているような感覚になるんです。なので、東京都で刺激のある生活をすることも自分を構成する一つになっているんです。しかし、7年目ともなるとその生活にも慣れてきてしまって、最近では海外にも行くようにしています。去年は、カリフォルニアのベイエリアやポートランドなどアメリカの西海岸や、台湾・パリ・ロンドンなど、1年のうちの約3ヶ月を海外で過ごしました。今年は湯治文化のあるハンガリーのブダペスト、ドイツのバーデン・バーデンに行けたらいいなと思っています。

私には「日本の湯治文化を世界中に広めたい」という夢があるので、そのために様々な場所でインスピレーションを感じたり、新しいことにトライする必要もあると感じています。それを実行していくためには、自分の生活にもメリハリが大切だと思っています。海外や東京都で自分の固定概念にはなかった物事を吸収し、別府市に帰ってじっくりと頭の中の引き出しにあるものたちを繋ぎ合わせたり、グループにしたりして、アイデアを生み出す。海外や東京都ではスポンジのように様々なことを吸収して、別府市では温泉に入ったり、家に篭って頭の中を整理する。そういった”東京都や別府市、それぞれの場所に役割を与える”ことで、自分らしい生活のバランスをつくることができる。それが私にとっての2拠点生活の醍醐味だと思います。2拠点生活をしていると「アドレスホッパーのように、色々なところに移動しながら生活したら?」と言われることもありますが、それはまた違うんですよね。家はすごく重要で、旅ではなく自分が緩んでリラックスした状態になれる”ホーム”が必要だと思っています。

また、私にとって今住んでいるシェアハウスはすごく居心地がいいです。近所の方もみんな顔見知りなので、道端で会うと必ず挨拶しますし、夕飯を一緒に食べることもあります。一人暮らしだと寂しかったんですが、「おかえり」と行ってくれる場所があるのはすごく重要だと感じています。

2024年には、HAAとしてパリの展示会に出展した

2024年には、HAAとしてパリの展示会に出展した

移住希望者へアドバイス

大分県や別府市への移住を考えている方へメッセージをいただきました。

池田さん:別府市はここ数年移住されるが多く、移住者に対しても大らかな地域です。東京都から飛行機で1時間半程、大分空港からもバスで45分程と意外と近いので、2拠点生活にもおすすめです。

特に、お試しで2拠点生活を始めてみる場合は、鉄輪温泉エリアが便利です。湯治宿が点在しているので、1〜2週間などの長期滞在に向いています。宿には自炊室もあるので、地元のスーパーで食材を買ったり、それを温泉の蒸気で蒸したり、地元で暮らすような体験ができます。特に、ご自身で事業をしている方や企画を考えたりゼロから何かを生み出したりする仕事をしている方におすすめです。昔から、文豪が小説を書くために温泉宿に篭っていたといいますし、「何か新しいことを考えないと」といったプレッシャーも温泉がゆるめてくれます。湯に浸かりながら頭がゆるんでいるときに、アイデアが降りてきたりするものです。

毎月、車で竹田市に水を汲みに訪れる

毎月、車で竹田市に水を汲みに訪れる

最後に

移住前の仕事や南米で出会った男性の活動などから地域に関わる仕事がしたいとの思いで、東京都と別府市での2拠点生活をスタートさせた池田さん。毎日忙しなく働く現代人には、頭も身体もリラックスさせてくれる湯治宿は必要な存在なのではないかと感じました。ぜひ一度、別府市の湯治文化に触れてみてはいかがでしょうか。

WRITER 記事を書いた人

取材 : Kaori ライティング : Misaki

取材 : くろき かおり
豊後大野生まれ豊後大野育ち。高校卒業後は横浜・東京にて、外資コスメ会社で経営学・マネジメントを学ぶ。その後、石垣島・オーストラリアへの移住。オーストラリアでも同ブランドで勤務したのち、2019年に大分へUターン。趣味は映画を見ること・旅行・サウナ。

ライティング : あべ みさき
介護福祉士として働き、長男出産を機に退職。現在は、子育てをしながら在宅でライターとして働いている。趣味は手芸。

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