大分移住手帖

震災・世界一周を経てたどり着いた現在地。家族のカタチとともに変化する移住生活。

Kg

取材者情報

お名前
石口丈登(いしぐちともみ)
出身地・前住所
福岡市
現住所
由布市庄内町
年齢
40歳
家族構成
妻・子
職業
皮美輝や(ひびきや)代表
Webサイト
https://hibikiya-leather.jp

「仕事も生活も自分でコントロールしたい」横浜で不自由なく生まれ育ち、震災を経て地方への移住を決断し、偶然や縁を経て今の大分県由布市庄内町※1 での生活へ至った石口さん。自然に囲まれた土地で過ごすライフスタイルは、家族のあり方とともに今なお変化し続けているそうです。そんな石口さんの移住に至るまでから現在、そして未来の話には、実際に移住した方しか体験できないたくさんの学びや気づきに溢れているはず。貴重な体験談をお聞きして、これから移住を考えている方にもお伝えしたい。そんな想いで石口さんの自宅兼工房を訪ねました。

自宅兼工房の周辺

緑が広がる高台。

JR庄内駅から県道719号経由で歩いて650mの見晴らしのいいなだらかな高台に、石口さんの自宅兼工房はあります。目の前には緑の景色が広がり、のどかでゆったりとした印象です。とはいえ、近くには郵便局や商店もあり、田舎ながらも必要なものはある程度揃う環境のように感じました。石口さんは家族と共に、そんな自然溢れた穏やかな場所で暮らしています。

 

■3.11 東日本大震災を経て暮らし方を見つめ直し、世界を見たくなって

石口さんが移住を決断したのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災がきっかけでした。当時暮らしていた神奈川をはじめ首都圏でも、交通網の麻痺や物資不足など様々な影響があり、都会で家族で暮らすのはリスクが大きいと感じたそうです。そして、あまりにも突然で圧倒的な猛威を目の当たりにして、「人って簡単に死んでしまう。悶々とながら働いていたけど、やりたいことをやりたい。世界を見たい。」と思ったそう。

また、都会は生活にかかるコストが高く、例えば都内でファミリー向けの物件は家賃15万円もかかってしまう。だからといって家賃が安い郊外に住んで、そこから毎日電車で時間をかけて通勤して働くというのは自分には想像できない。それは人生ではないと感じたそうです。

石口さん

福岡から湯布院の土地を得て庄内へ移住、そして世界一周へ。

「この都会の暮らしから上がろう。」そう決断して、2013年4月に福岡市に移住します。

 

石口:例えば、埼玉に住んで東京に足を運ぶよりも、福岡空港などの近くに住んだ方が東京に付くのは近いし、そもそもテレビなどのメディア関係やファッション関係以外は東京にいる必要がなくて。定住は向かない気がしたので、高校の頃から技術職を目指していたんですよね。

移住した福岡では革製品ブランドの職人として活躍しつつ、福岡で生活をする中で、いつしか本格的に自給自足がしたいと考えるようになり、そのためには自分の土地が必要だと考え、福岡・熊本・佐賀で探していたそう。ただ、九州に縁もゆかりもないため、簡単には見つかりません。そこで、持ち前の行動力を発揮し、熊本や福岡を中心に九州内の同じような考え方を持つ人に会いに行って、交流し勉強したそうです。

「九州の自給自足生活を送る方は、県を跨いでネットワークがあるんですよね。」

つながりの中でつながりを広げて行ったそうです。

そんな時、東京の友人の結婚式に招待されました。夫は東京・妻が大分県出身の方で、東京と湯布院でそれぞれ結婚式を行うので都合がいい方でといわれ、石口さんは湯布院での式に参列しました。1泊で時間もあったので、定番の観光コースではなく、セルフビルド※2 を行っているエリアなどを散策したり、やまなみハイウェイ※3 にアースバックハウス※4 を見に行ったりして有意義に過ごしたそうです。その際に、つみきの森※5 の近くで土地が販売されている事を知り、足を運ぶことに。

その場所は建物はないもののある程度整地され、電気・水道はもちろんネットも通じていました。自給自足はしたいけれど、世間からあんまり離れて仙人みたいなるのは嫌だと考えていた石口さんの条件にぴったり。更に、東京などからの友人も足を運んでくれやすいように、観光地の近くに住みたいという条件にもバッチリ!そんなわけで、湯布院のつみきの森近くに、300坪の土地を購入したのでした。

とはいえ、福岡で会社員を続けながら、休日を利用して購入した湯布院の土地に通って作業する生活。通うのは遠いので周辺で一番近い借家を検索すると、庄内に購入した土地から30分ほどの場所にある条件のいい物件を見つける事ができました。「仕事も生活も自分でコントロールしたい」と一念発起し、仕事を辞めて2016年3月に庄内へ移住を決めました。

工房にはられた世界各地のマグネット移住してから独立して仕事をはじめるまでの期間を有効活用して、2016年末に夢だった世界一周旅行に奥さんと2人で旅立ちます。1年2ヶ月にも及ぶ長い旅でメキシコ・グアテマラ・中国・モロッコ・アイスランドなど様々な国を巡り、色々な体験を経て2018年2月に帰国。それから、自身のブランドの立ち上げ。2018年末にはお子さんも生まれて今に至ります。

 

ダウンサイジングして、自然をベースにした暮らしへ

今の生活の魅力を尋ねると「自然が素晴らしい。自然が最高。原点。」と教えてくれた石口さん。都会に住んでいた頃からキャンプなどに慣れ親しんできた石口さんにとって、自然の中に居ることが自然だと感じていたそう。

石口:「都会は刺激的だけどお金がかかるし、その刺激自体も尖っている。それと比べて、自然はタダだし飽きないし、何より壮大。都会をベースにして自然へ遊びに行っていたけど、歳を重ねるにつれて、自然をベースにして都会に遊びに行く方がいいと思うようになったんですよね。」

例えば、食べ物は都会で食べるよりも、より自然に近い方が旨い。他にも、うつ病やキレるなどの現代病は無理が生じたために起こったもので、自然の中であればなかったであろうと。石口さんの感覚では、移住者の8割はゆっくりとダウンサイジングして暮らし自体をスケールダウンしていると感じているそう。

そんな石口さんと生活を共にしているご家族は、奥さんと1歳のお子さんの2人。最初の移住先である福岡で結婚し、庄内に移り住んで出産に至ったそうです。結婚当初はずっと2人で過ごす事を選んでいたそうですが、世界一周旅行の体験を経て意識が変わったそう。今は自然溢れる環境の中で家族で過ごす時間を大切にしています。

もちろん、知り合いの少ない田舎への移住で苦労する事もありますが、大分ツーリズム※6 大学や地元の活動に参加し知り合いをたくさん作り、乗り越えていったそうです。

工房

日常で気軽に使える革製品をコツコツと。

現在は革職人として、自身のブランドである皮美輝や(ひびきや)で制作・販売を行う石口さん。日常で気軽に使えるような革製品を1つ1つ手作りしています。

石口:革は古くなる≠価値がなくなるのでなく、使っているとその人なりの表情が現れ、永く使えて魅力が増す素材なので、汚れも愛着になり壊れても修理をされながら、長く寄り添える革製品を提案しています。

制作を行っている工房内は綺麗に整理整頓されており、機能美を感じました。ミシンなどの機材も手入れが行き届いており、石口さんのモノづくりに対する真摯な姿勢や想いが伝わってきます。

実際に商品を見て触らせていただきましたが、見た目はシンプルで洗練されていて、性別はもちろんファッションスタイルを選ばない印象を受けました。また、しっかりと縫製されていて頑丈ですし、使い込むうちに馴染んでいく楽しみがあるなと感じました。

石口さんが手掛けた商品

前職を通じて「ECサイトをしっかりプロモーションすれば、売れない事はない」とわかっていたそうで、その経験を生かして着実に結果を出しているそう。

石口:移住を成功させるためには、手に職がないと難しいかも。手に職がないなら、ツテや就職活動で仕事を決めとくみたいな方が良いかも。仕事の不安をクリアしないと生活が成り立たないので、例えばとりあえず仕事見つけて寮に入っておいて、とにかく知り合いを増しネットワークを作って、そこから移住先や仕事を探すなども一つの手段ですよね。

 

変り続ける移住生活のこれから。

現在の生活には満足しているという石口さん。ただ、自分や奥さんは今の生活でも問題ないけれど、子供にとってこの暮らしがいいかはわからないと感じているそう。まだ1歳なので今はいいけど、教育の一環として周りと競争して欲しいので、子供の成長に合わあせて、第二の拠点をつくるかもとの事。どこに住んでも仕事が変わらないため大きな心配がないので、「将来的には子供の教育と自分たちの暮らしがリンクする場所を探すかもしれない」と話して下さいました。

また、人口的に日本の未来に大きな成長がないことを考えると、広い視野で世界を感じる事ができる事から、海外に土地を購入して拠点を持つ事も考えているそう。

石口:日本(庄内)は冬が厳しいので、冬の間は南半球で過ごすのも良いかも。今は山の近くに住んでるから、海の近くが良いな。カリブ海とか!?

2度の移住を経験した上で、海外での土地購入・移住を現実的に進めている姿は、暮らしの中で OODAループ※7 を自然体で実践しているお手本だと感じました。

最後に

石口さんから色々な話を聞いて個人的に強く感じたのは、移住生活は夢物語ではなくシビアな現実と常に隣り合わせだという事。そして、移住して終わりではなく変化し続けるという事でした。手に職を持つなどして生活を支える仕事を得る重要性、家族の成長・カタチに合わせて変わり続ける事など、実際に移住生活を体験し、これからの未来に向かって考え行動している石口さんだからこその言葉の重みがありました。これから移住を考えている方は、最初はぼんやりした憧れや夢からのスタートでも、移住先に根を張るためにも、石口さんのようにしっかりと地に足をつけた移住生活を考えて頂ければと思いました。

 

※1 大分県由布市庄内町

庄内町(しょうないちょう)は大分県のほぼ中央に位置し、大分郡に属していた町。大分市と大分郡湯布院町のほぼ中間点に位置し、大分市のベッドタウンとしての役割も担う。森や水などの自然に恵まれ、庄内神楽などの伝統芸能が盛ん。2005年10月1日に、大分郡挾間町、湯布院町と合併して市制を施行し、由布市(ゆふし)となった。それまでの庄内町役場が市役所になっている。

参考URL 大分県由布市 http://www.city.yufu.oita.jp/

 

※2 セルフビルド

住宅を自分自身で建てる事。

参照URL : Artscape

https://artscape.jp/artword/index.php/%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%93%E3%83%AB%E3%83%89

 

※3 やまなみハイウェイ

大分県由布市水分峠と熊本県阿蘇市一の宮町を結ぶ「やまなみハイウェイ」は、九州が全国に誇る絶景のドライブルートで、“日本百名道”にも選ばれている。正式名称は「県道11号」。全長約50キロの道のりには、雄大なくじゅう連山や飯田高原、瀬の本高原などの大自然が広がり、周辺には観光牧場や温泉など見どころや寄りどころが多い。

参照URL : たびらい

https://www.tabirai.net/sightseeing/tatsujin/0000503.aspx

 

※4 アースバックハウス

アースバッグ(Earth Bag)とは、建築構造の一つである。土を詰めた土嚢袋を、家の形状に積み上げていく事で建造する建物や、その工法を指す。

参照URL : ウィキペディア アースバッグ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%B0

 

※5 つみきの森

由布市湯布院町川西1750−116にある森の中に作った遊び場。アスレチック広場やツリーハウス、何人でも13000円で泊まれる宿泊施設もあり。2021年春からピザ&スイーツ屋を開業する。

公式サイト : https://muga.localinfo.jp

 

※6 大分ツーリズム大学

大分県が実施した、県内在住者でツーリズムに取り組んでいるまたはこれから取り組もうとしている方の抱える課題や悩みに対し、講義や実践例の体験・視察、議論を通じて、今後の取り組みの方向性や解決策が得られることを目的とした課題解決型の講座。

参考URL :大分県観光政策課

https://www.pref.oita.jp/soshiki/14180/

 

※7 OODAループ

OODA(ウーダ)ループとは、「Observe(観察)」「Orient(仮説構築)」「Decide(意思決定)」「Act(実行)」の4つのプロセスを「Feedback Loop(ループ)」して完成する、あらゆる分野に適用できる意思決定と行動に関する一般理論。

参照URL : ウィキペディア OODAループ

https://ja.wikipedia.org/wiki/OODA%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97

WRITER 記事を書いた人

Kg

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株式会社モアモスト 取締役・一般社団法人まち元気おおいた 理事・Pdw 代表として、サイト・DTP・DTMなどディレクション〜制作をはじめ、ライターや撮影などの業務に従事。大分市府内5番街商店街振興組合の理事として、まちづくりにも携わる。

SC-RECS.com・クラブイベントインフォ・SCLS・DubRize・PLay・合同写真展などを主宰し、各種イベントのオーガナイズからDJやマシンライブなどまで展開中。テルミン使い。

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