取材者情報
- お名前
- 池上 潤
- 出身地・前住所
- 福岡県筑後市
- 現住所
- 大分県佐伯市
- 年齢
- 36歳(移住時は33歳)
- 家族構成
- 妻・息子
福岡県大川市から佐伯市へ移住し、家族とともに自然に囲まれた生活を送る池上さん。建築業での経験を活かして仕事に取り組みながら、子育て環境の良さを実感する毎日を送っています。そんな池上さんが移住を決意した背景や佐伯市での生活についてお話を伺いました。

仕事中の1枚
<h2>非常時でもなくならない仕事がしたい</h2>
福岡県の高校を卒業後、宮崎県の大学で環境科学を学んだ池上さん。現在は建築業に携わっていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
池上さん:城址が好きで資料館で働きたいと思っており、学芸員の資格を取るために大学で環境科学を学びました。間伐や土砂災害に関する研究などを行っていましたが、その頃は建築業に携わることになるとは全く思っていませんでしたね(笑)。
大学在学中、家庭の事情などで学業と並行して働くことになり、バンドのサークル活動が縁で宮崎県内の音響会社に就職しました。音響技師として修行を積み、PA(音響設備)の技術を習得しました。この技術を活かして転職しようと考えていたところ、親方から「大阪府や東京都なら圧倒的に仕事が多いし、レベルも高い」と勧められました。しかし、迷っていた矢先に東日本大震災が発生し、その影響で東京都での仕事が難しいと感じ、大阪府での転職を選びました。ですが、大阪府でも影響を受け、「非常時になくなる仕事」という現実を目の当たりにし、PAの仕事にもリスクを感じるようになりました。「なくならない仕事を探そう」と考えたときに着目したのが「衣食住」でしたが、実家が呉服屋だったため衣服を扱う難しさを知っており、「衣」は選択肢から外しました。25歳の時に古民家リノベーションを手がける親方と出会い、その会社に入って大阪府や兵庫県で本格的に修行を開始しました。
福岡に帰りたいという思いはありましたが、地元の友人から「仕事がない」と聞いていたため、独立を果たしてから戻ることを決意しました。親方にも福岡に帰る前提で働かせてほしいとお願いし、「3年やって独立できなかったらセンスがないと思って諦めろ」と厳しい言葉を受けました。2年半ほど経った頃、親方から「一人でやってみろ」と言われ、独立を決意してTEAMクラプトンに半年ほど加わり、地元である福岡県大川市へ帰りました。
地元では自営の大工として活動しながら過ごし、2019年に結婚しました。拠点は福岡県にありましたが、仕事の関係で県外の現場に行くことが多く、現場で寝泊まりする生活が続いていました。そんな中、子どもが生まれたこともあり、「家族の生活を考えると、この暮らしを続けるより実家にいた方がいい」と考え、大川市の家を引き払い、筑後市にある妻の実家でお世話になることにしました。
福岡県で建築業を営んでいた池上さんが、佐伯市への移住を決めたきっかけとは何だったのでしょうか。
池上さん:大分県内での最初の仕事は、結婚前に佐伯市で「さんかくワサビ」の施工に入っていた大工さんに呼ばれ、応援として現場に加わったことでした。その後は「シェアハウス みどり荘」の施工にも携わる機会があり、佐伯市での仕事が増えていきました。そんな中で佐伯市内の材木店から「お客さんとの窓口になり、建築案件を直接受注できる部署を作りたい」声をかけてもらい、一緒に働くことになりました。材木屋の仕事は工務店からの発注がないと働けない仕組みで、お客さんと直接関わる機会が限られていたため、そうした改善を目指していたようです。
佐伯市での仕事が1年ほど続き、材木店で働くことを決めたタイミングで、池上さんは夫婦で話し合い2022年に佐伯市への移住を決断しました。
池上さん:材木店の建築部署作りに協力していましたが、1から建設業を立ち上げるには現実的な難しさもあり、最終的には離れる選択をしました。そして2024年からリノベヤで働いています。リノベヤとは以前「シェアハウス みどり荘」の施工で関わった縁があり、材木屋にいた頃も佐伯方面の仕事をいただいていたことから、お世話になっていました。一緒にやってみようという話になり、現在に至っています。

デザイナーさんとの打ち合わせの様子
<h2>人を惹きつけられる空間を創りたい</h2>
池上さんが福岡県から大分県にワークエリアを移したのは、自身の空間デザインの方向性や古民家リノベーションの経験が、この地域で需要を生むと考えたからだそう。
池上さん:大工の仕事そのものは、全国どこでも求められる内容に大差はありません。ただ、空間デザインに関しては地方と都会で大きな違いがあります。都会では思い切ったデザインが歓迎される一方、地方では保守的な考えが根強く、踏み込んだ提案が通りづらいことが多いです。
特に地方では、店舗デザインにおいて「大胆なデザインよりも無難な選択」が優先されることが多いですが、そのような場所でも、新しい価値を創造したいという思いを強く持っています。例えばカフェのデザインにしても、どの地方でも新しいカフェができれば最初は人が集まります。ただ、目を引く要素がなければ継続的な集客にはつながりません。お店に来る機会を増やすためには、料理だけではなく、内装や空間の魅力が非常に重要なんです。お店の空間デザインが「ここで食事をしたい」と思わせるものであれば、来店への大きな一歩になります。
池上さんによると、地方特有の「建築デザインあるある」もあります。
池上さん:都会ならパースを描いて「この見た目の空間を作りましょう」と提案すれば、スムーズに話が進むことが多いです。でも地方だと「こんな田舎にこれが必要なの?」と否定的な反応が返ってくることが少なくありません。ですが、地方にはまだまだ未開拓の需要があります。特にカフェや飲食店のような空間デザインでは、一見さんを引きつけるインパクトが求められます。都会のように何もかもが洗練されているわけではないですが、だからこそ新しいデザインで地域を活性化させたいと思います。地方ならではの温かさや柔軟性を活かしつつ、素敵なお店や空間を増やして地方にも新しいデザイン文化を根付かせたいですね。

インタビューに答える池上さん
<h2>佐伯市は子育てに適した環境</h2>
池上さんが佐伯市で住まいを見つけたのは、知り合いを頼ったことがきっかけだったそうです。
池上さん:最初は知り合いに相談して、一軒家を借りました。ただ、その場所はハザードマップに該当するエリアだったため、その後は地元の不動産屋さんに相談し、現在の家に移りました。川の氾濫はある程度予測できますが、津波の場合は避けることが難しいので、移住先を探す際には必ずハザードマップを確認するなどして慎重にエリアを絞っています。
池上さんは、佐伯市へ移住してから釣りの楽しさに目覚めたといいます。
池上さん:釣りを始めたきっかけは、大工道具の刃を研ぐ際に包丁も一緒に研ぎ、その切れ味を試すために魚を捌いたことでした。大分県の魚は鮮度が良く、味も抜群ですよね。初めてホウボウを見た時は、食べ方がわからず戸惑いましたが、値段が安かったので試しに買ってみたら、とても美味しくて驚きました。「こんなに美味しい魚が自分で釣れるなら」と考え、本格的に釣りに取り組むようになりました。
仕事終わりに港で釣りをすることもあり、小さなマダイやチヌ(クロダイ)などが手軽に釣れます。時期によってはマゴチやヒラメ、アジも釣れると思いますよ。地元で暮らしていた際は、釣りができる場所が干潟ばかりで魚が泥臭いことが多く、釣りを楽しもうとは思いませんでしたね。
実際に佐伯市へ移住してみて大変なことはありましたか?
池上さん:仕事柄地方に行くことが多かったので、地方特有の人間関係やインフラの問題には敏感でした。特に夫婦ともに福岡県出身ということもあり、子育ての面でいざというときに頼れる親族が近くにいないことへの不安がありました。実際、子どもが深夜に体調を崩した際に診てもらえる病院が大分市内にしかなく、そのときは解熱剤などで何とか乗り切り、翌日に佐伯市内の病院で診てもらえましたが、20時以降の緊急時は大分こども病院まで行く必要がある場合もあります。
一方で、自然に囲まれた環境で子どもにいろいろな体験をさせられるのは本当に素晴らしいと感じます。山、川、海が揃っており、番匠川河川敷では無料でキャンプが楽しめます。また、さいき城山桜ホールやさくらっ子、児童館(佐伯・上浦・蒲江・弥生)、公園など無料で遊べる施設が充実しています。夏には毎週のようにイベントやお祭りが開催され、子どもを連れていく場所に困りません。
都会でこれだけのアウトドア体験をさせようとすると、準備も移動も大変ですが、佐伯市ではすぐにできるのが魅力ですね。地元に帰省した際、こうした施設が当たり前にあると思っていたら意外と少なく、逆に不便さを感じることもありました。子どもの医療費が無料なのも大きなメリットの一つです。病院だけ何とかなればと感じる部分はありますが、佐伯市は総じて子育てに向いている環境だと思います。
妻と話していて、子どもに経験させられないことは何か考えた時、唯一挙がったのが「新幹線に乗る」ことでした。それは大分県ではできないので、地元に帰ったときの楽しみですね。

池上さんとお子さん
<h2>人も自然も魅力的な佐伯市</h2>
池上さんが佐伯市への移住を決めた際、助けとなったのは地元の人たちとのつながりでした。
池上さん:偶然ですが、同じ福岡県大川市出身の方が佐伯市で理髪店を営んでいました。小学校も同じで、サッカー部に所属していたこともありましたが、歳が離れているので一緒にプレーしたことはありませんでしたね。その方とは、佐伯市でサッカーをする機会(月3回ほど)を通じて仲良くなり、仕事の相談などでも助けられました。また、佐伯市には福岡県人会もあり、日常的な困りごとなどを相談できる方々に支えられています。
また、住まい探しにおいても船頭町界隈の街づくりに携わる方や前職のつながりなど、多くの方が親身になって助けてくださいました。移住者にとって、このような地元の方とのつながりは本当に心強いです。
佐伯市の子育て環境や自然の豊かさに魅力を感じている池上さんに、移住者希望者に向けてメッセージをいただきました。
池上さん:都会ではなかなか体験できないアクティビティが、佐伯市では手軽に楽しめます。仕事で色々な地方に行きましたが、ここまで環境が整っている地域は珍しいと思います。本州ではクマが出没する心配があり、安心してアウトドアが楽しめない場所も多いですが、九州はその心配がほとんどありません。また、大分の海は日本海側の急な海底地形と違い、宮崎に近づくほど遠浅の海岸が多く、浅瀬なのに魚が集まってくる環境は本当に恵まれていると感じます。
そして、佐伯市には子どもを育てるための施設や支えになってくれる人がたくさんいます。病院の数はもう少し増えてほしいと感じる部分もありますが、それを補う魅力がたくさんあります。一時預かりが非常に安価で利用できたおかげで、妻も仕事に集中できる環境が整いました。

船釣りを楽しむ池上さん
<h2>最後に</h2>
家族で佐伯市に移住し、地域の人々とのつながりを大切にしながら自らのスキルを活かした仕事に取り組み、充実した毎日を送っている池上さん。お話を伺いながら、佐伯市には山、川、海が揃い子どもがのびのび育つ環境が整っていると感じることができました。都会では味わえない豊かな自然や地域との温かな繋がりがある佐伯市に、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。