大分移住手帖

弟の仕事を手伝う流れで東京からUターン。一歩先を行く映像・演出事務所TMOVEとして活躍しつつ、佐伯に住み直している今。

Tomomi Imai

佐伯生まれ佐伯育ち。京都造形芸術大学で映像・演出を学び、東京でCMなどを作りながら揉まれてきた通称工藤アニさんは、UターンをきっかけにTMOVEという屋号で再出発をして1年経ちました。既に町からの仕事もある彼の今を伺いました。

佐伯生まれ佐伯育ち。東京で映像分野に8年ほど従事後、弟からの仕事の誘いで昨年帰郷。

佐伯で生まれ、18歳で大学入学を期に県外へ出た工藤さん。京都造形芸術大学時代から映像分野の人たちとどっぷり関わってきたそうで、特に映画批評の方々の近くにいたこともありドキュメンタリー映画の演出を学んだそうです。卒業後は東京へ行き、会社勤めも経験しつつ個人で独立し、CM制作などを経て8年ほどいたそうです。映像の仕事と簡単に言っても、実はとても根気と体力がいるもの。1日の区切りがないようなこともしばしば。東京は気に入っていたので、仕事を一旦やめて学生へ戻ろうと東京芸大大学院を2度受験し、失敗。3回目を受けようか迷っていた時に、佐伯で先に活躍していた弟から、佐伯での仕事を紹介してもらったのが去年のことでした。

弟さんも大阪芸大を卒業し、デザイン系で活躍していたそう。現在はアウトドアを中心に、キャニオニングのガイドなどをやっているそうです。

「弟は宇目(うめ)の地域おこし協力隊として帰ってきて、『テントテント』という佐伯市主催の観光事業を行っているのですが、今後映像を使った仕事も展開していきたいと考えた時に、なかなかこれだという人材がいなかったようで、誘ってくれたんです。」

弟さんが先に佐伯に帰ってきたのもあり、工藤さんは「工藤アニ」と呼ばれるようになったそうです。

映像制作事務所「TMOVE」としてリスタート。

弟さんが紹介してくれた仕事は、「おこしくださいき」というチャンネルで90秒の動画を作る仕事でした。その時に行政と仕事をするにあたり、屋号ということで、弟の職場の人が「TMOVE」という名前を作ってくれたそうです。最初は役場からの仕事が主でしたが、少しずつ他の方々も知ってくれるようになって、民間からの依頼も増えてきて、食べるのには困らない程度の仕事はあるとのこと。

佐伯に戻ってきて最初の仕事は、3ヶ月で100本作るもので、1人でアポ取りから撮影編集までするというタフな仕事だったそう。そのため、帰ってきた直後は遊ぶ余裕がないほどだったそうです。

おこしくださいき

「この仕事で映像を作る人というのは周りに認知してもらえたけど、映像に対する理解者が少ないのが大変でしたね。このシリーズしか見てもらえてない状態で“映像の人”と思われるのはちょっと違うし、モチベーションを保たないと続けていけないなと。言葉で説明しても伝わらないからもう作って見せるしかないと思って、大入島の映像を自主制作で撮ったんです。『もっとこんなことができるから、こういう仕事をください』とアピールすることにしたんです。これがなかったら、佐伯に僕の映像の仕事というものを伝えるのは難しかったと思います。いろんな人が見てくれたことで、大きく環境が変わった気がします。」

▼自主制作「DEEP SAIKI #01大入島トンド火まつり」

先日は佐伯の応援動画を作ることがあり、それもいろんな方々から高評価だったそうです。

「1年ほどやってきてみて分かったのは、東京の仕事とはまた違う意味で、地方の仕事もタフじゃないとやれないってことですかね。1人の比重が大きいなあと感じます。東京では1人で1から10までする現場ってなくて。それが何よりの違いですね。全部1人でやるのって、しんどいけど面白いです。他にスタッフもいないのでできる範囲でやっていくしかないけれど、充実しています。」

▼佐伯の応援動画

佐伯だけで仕事をせず、あくまでここに拠点を置いて、広くやっていけたらと考えている工藤さん。田舎にある制作会社は記録撮影のように予めはっきりした料金設定があって、なんとなく受注した時にこういったものができますよというスタイルが多いそうですが、工藤さんが今まで関わってきた映像の世界では、決められた予算の中で如何にしてより良いものを作り上げるかが重要だったとのこと。

「例えばスタッフを何人使ったからいくら、カメラを何台使ったからいくら、これだけ時間がかかるからいくらみたいな、そういった制約ありきで作った経験がないんです。映像制作にもいろんなジャンルがあるのでその違いに地元ながらカルチャーショックを受けましたね。」

仕事の効率を考えて、最近できた「さいき城山桜ホール」が目の前にある好立地に事務所を構えたそうです。

ここに住んでいる人が面白くないところに「来てください」なんて言ったって面白くない。

「移住をしたい人に向けて、『ここは良い土地ですよ』とアピールする映像って、その土地がそうでなくても作ろうと思えば作れちゃうと思うんです。大袈裟に言おうと思えばできてしまう。映像にはそういう力もあるんです。でも、そこに住んでいる人が楽しく暮らしてないのに『来てください』なんて言いたくないですよね、だから、とにかく佐伯で楽しく暮らしてる、ただそれだけという動画を作りたかったんです。映像でだけ表面的に良く見せるだけでなく、本当に面白いことを見せていきたかったんです。」

Uターンして仲良くなった同世代と一緒に映像制作も始めた工藤さん。例えば、先にIターンで移住したサイキシミンのバンドメンバーでもある金井さんとは、こんな面白い映像も作っています。佐伯で1万円あればこんな楽しみ方があるよというのをいろんなパターンで見せていく動画とのことで、金井さんのキャラクターも相まっていわゆる“移住促進”や“楽しさを強調しているような表現”ではない手法のため、移住を考えていなくても面白くて思わず見てしまう映像です。

▼自主制作「正しい1万円の使い方 File No.01 シュート33才」

自身の事務所に仲間と開店したドネーション方式*のバー「New Mexico PERA PERA」

「この事務所で立ち飲み屋をしたかったんです。立ち飲み屋って東京には多いけど、田舎ってあんまりないですよね。僕の事務所にはいつの間にか人が集まっているし、お酒が好きな仲間も多いから、ならばバーをしてみようとなりました。

バーを起点に、お客さんや仲間から不要になった服を集めて、東京のデザイナーさんにリメイクしてもらって、その過程を動画にするような古着屋も始めています。作られた服もここで売りたいですね。映像にしろファッションにしろ、佐伯はそういう文化的教養の感度を引き上げるには、やるべきことは沢山ありますよね。」

と語った工藤さん。仲間と作ったバーはその名も「NEW MEXICO PERA PERA」。一緒によくいる金井さんと、金井さんが住んでいるシェアハウスのシェアメイトが中心となり、DIYで作られた気楽なドネーション方式*のバーです。食べ物は持ち込みOK。「タコスを出そう!」ということで色々考えて『ニューメキシコってかっこいい響き!』と名前が決まったということを語ってくれたスタッフの1人トミーさん。そんな気兼ねなく、とにかく気楽にいて欲しいというメンバーの気持ちが感じられる空間です。ここに関わってくれる人たちが色々手を加えて欲しいとの想いがあり、あえて作り込まなかったそうです。

今後は同じ世代もそうですが、若い方々にぜひ来て欲しいとのこと。映像のモデルや、映像編集を手伝ってくれるような学生さんなどが来たら、もっと盛り上がるだろうなと語られていました。

最後に

移住にはいろいろな理由があるなか、戻る先で仕事があったからというのは意外な理由でした。地方でよく言われるのは「仕事がない」ということですが、実はないのではなく、相応の技術や経験を持ち合わせた人が足りていないだけ、ということもあるかもしれません。特に工藤さんのようなクリエイティブと呼ばれる分野は、都市部ならではの仕事でもあるけれど、そこでの経験を生かして新たな気持ちで地元に戻ると、今までにない発想で物事を進められていくのだなと感じました。とはいえゆっくりしたいという工藤さん。佐伯に住み直し始め、映像以外のことを仲間たちとトライしながら、自分サイズな暮らしを今後どう展開されていくのか、楽しみです。

WRITER 記事を書いた人

Tomomi Imai

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25歳でフリーランスとして独立し、多様な分野にてプロデュースやディレクター業を経験。モノコトヒトをつなぐひと。多様な伴走を得意とする。絶賛子育て中。ヨガ・サーフィン・音楽・映画・コーヒー・日曜大工が趣味。

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